停戦を願う

パレスチナ自治区ガザ地区での戦闘は依然として続いたままだ。死傷者は相変わらず増え続けている。

バイデン大統領はイスラエルのネタニヤフ首相に対し、戦闘を3日間停止するように要請したが、ネタニヤフ氏は一時停止すればハマスを利するだけであるとしてバイデン氏の要請を受け入れなかったという。むしろ、ガザからハマスを追い出たあとに、イスラエルは「無期限駐留する」との意向である。

ウォールストリート・ジャーナル紙によると、バイデン氏はイスラエルに停戦を呼びかけていながら、3億2000万ドル(約480億円)相当の航空発射型の精密誘導弾をイスラエルに提供する計画を練っていたという。イスラエルの空爆によって子どもを含めた多くの市民が死傷しているのが現実で、バイデン氏は結局イスラエルを支援する立場を崩していないというのだ。

これまでも、米国はこうした国際政治の舞台で相反する行動をとってきた。昔風の言葉を使えば「マッチポンプ」というやつだ。マッチで火をつけていながら、一方で火消しも行うという矛盾する行為である。

米国にしかできないことが過去も現在も、そして将来もあるかと思うが、バイデン氏がいまやらなくてはいけないのは、3日間という短期的な期間ではなく半永久的にパレスチナでは戦争をしないということをイスラエル側とハマス側に認めさせることである。簡単なことではないが、そこに交渉力を使うことこそが政治家としての使命のはずだ。

同じ穴のむじな

イスラエルのネタニヤフ首相は2日前、「ハマスとの停戦には応じない」と明言し、ハマスが実行支配するガザ地区への激しい攻撃をつづけている。国際社会が停戦を願っても、イスラエルはハマスを殲滅するまで攻撃の手を緩めるようには見えない。

一方、ハマス側もイスラエルに対して同じような意識を抱いている。ハマスの高官ガジ・ハマド氏は今週、レバノンの放送局LBCIニュースで「我々はあの国を排除しなければならない」とイスラエルに対する敵愾心をむき出しにした。そしてこうも述べるのだ。

「イスラエルが消滅するまで、我々は犠牲者という立場なのだ。われわれが行うすべてのことは正当化されるはず」

「アルアクサの洪水(10月7日のイスラエルへのロケット攻撃)は第一段階に過ぎない。第二、第三、第四と続き、戦いつづける決意がある」

「 代償を払うことになるか?そう、それを払う用意もある。われわれは殉教者の国と呼ばれ、殉教者を犠牲にすることを誇りに思ってさえいる」

日本から同地域を眺めていると、両者ともに自己正当化の論理を展開しているだけで、歩み寄って和平に向かうべきという意識はみられない。やはり米国が中心になって和平への舵取りすべきなのだが、いまはそうした具体的な動きが見られないのが残念でならない。

イスラエル大使登場

10月13日午前11時。日本外国特派員協会の会見に現れたイスラエルの駐日ギラッド・コーヘン特命全権大使はハマスについてこう述べた。

「民主主義はテロリストを否定しなくてはいけない。我々はこの戦争に勝つだろう」

コーヘン大使(筆者撮影)

「ハマスとはいったい何か。テロリスト組織以外の何ものでもない。それが彼らのすべて。いったい誰が40人の赤ん坊の首を斬って燃やすことができるのですか。この恐怖はイスラム国よりも酷いものがある」

「こうした虐殺行為は現代の世界ではみたことがありません。相手がユダヤ人、イスラエル人だからという理由だけで殺すのです。ハマスはイランから資金援助、軍事支援を受けています」

「イスラエルは2007年にガザを離れました。無条件でガザから撤退したのです。ガザが繁栄し、我々と平和に共存できる『鍵』をパレスチナ政府に渡したのです」

「しかしハマスの行為は戦争犯罪というよりも人道に対する罪だということです。想像もつかないようなことです。ホロコーストを繰り返しているとも言えます」

そして本音をこう漏らした。

「日本にはずっとイスラエル側についていてほしい」

コーヘン大使は冒頭、「我々はこの戦争に勝つだろう」と述べたが、ハマス側もイランの支援を受けながら執拗に食い下がり、これまでのイスラエルとハマスの戦いの概念を超越しており、どこが終着点になるのか今は見えない。

イスラエルの宣戦布告

私だけでなく、ほとんどの方が願うのは「殺し合いは止めてほしい」ということだろう。

イスラエルとパレスチナは宗教的、政治的な理由などから過去何十年にもわたって対立してきた。だが、どんな重要な理由があったとしても、無垢な市民を殺害していいわけがない。戦争という状況は人の意思を無視して、大量殺戮がおこなわれるところに残虐性があり、人間の醜悪さがでてしまう。

過去数日での死者数は、1973年の第4次中東戦争以来で最悪という報道もあり、両サイドはまず撃ち合いをやめなくてはいけない。だが、ネタニヤフ首相は8日、「イスラエル基本法第40条に基づく戦争状態の宣言」を発表し、50年ぶりに宣戦布告を行って全面戦争に突入した。

同地域ではこれまでも多くの衝突があったが、アメリカなどが歯止め役として一役買ってきたことで全面戦争を避けられてきた。しかし今のバイデン大統領に両サイドを説き伏せて撃ち合いを止めさせるだけの技量があるようにはみえない。むしろバイデン氏はイスラエル側について、戦争の加担者になるようにも思える。もちろん日本に仲裁役が務まるとも思えない。

「バイデンよ。眼を覚まして動いてくれ!」

問われる国連の意義

日本時間19日、ニューヨークの国連総会にウクライナのゼレンスキー大統領が登壇した。ロシアに軍事侵攻された国の代表であり、初めて訪れた国連でどういった話をするのかが注目された。

「我々は団結することで各国に平和をもたらせることができ、団結することで戦争を防止できるはずです。ロシアの欺瞞と侵略を許容してしまうと、この会場の多くが空席になるでしょう。どんな戦争も最終戦争につながりかねないのです。侵略戦争が二度と起きないように我々は団結するしかないのです」

たいへん真っ当な主張である。国連という場で、特にロシアの代表団に平和の尊さを訴えたかったに違いない。だが、皮肉にも、会場には多くの空席が目立ったばかりか、ロシアの代表団はゼレンスキー氏の演説中にスマホを見ながら談笑していた。

こんなことでいいのだろうか。国連という場が以前よりも軽視されてきているように思えてならない。同氏はこうも述べた。

「兵器化を抑制し、戦争犯罪を罰し、国外追放された人々を帰国させ、占領者は自国に戻らなければならない。私たちは団結してそれを実現しなければならない」

まさにその通りで、国連という場を最大限に利用し、国際機関としての役割を強化してロシアの蛮行を止めなくてはいけない。米国だけでなく日本政府も役割を担って、戦争防止に努める必要がある。これは机上論としてではなく、国際舞台で本当に動いてほしいと真に願う。