民主主義は本当に機能しているのか

英エコノミスト誌(5月18日号)に「米国は独裁者を阻めるのか」という大変興味深い記事が掲載され、あらためて民主主義の重要性を考えさせられた。

英文のタイトルは「Is America dictator-proof?」で、ある意味で大上段に構えた内容だが、金融危機や地域戦争などを経て、アメリカの民主主義はいま存亡の危機に瀕しているのではないかという根源的な疑問を投げかけている。米国は1776年に独立してからほぼ250年ほど、これまで独裁者に国家を乗っ取られたことはなく、民主主義体制を維持してきている。

米軍の力が強大だったという点もあるが、記事の中ではそれ以上にアメリカ市民や裁判所、政府が民主主義に対して強い信念を持ちつづけてきた結果であるとしている。

しかし、問題がなかったわけではない。記事によれば、最近アメリカでは民主主義のあり方に満足している市民は4人に1人に過ぎないという。情報調査をするシンクタンク、ピュー・リサーチ・センター(Pew Research Center)が最近行った調査では、不満足と答えた人は66%で満足の33%を大きく上回っている。

政治に不満がある市民は選挙を使って訴えることができたが、同記事では「政治家はいま市民からの要求に応えていない」と民主主義の屋台骨が揺らいでいると記した。これはたぶん日本でも同じで、ピュー・リサーチ・センターの数字では日本も満足が35%、不満足が63%という惨憺たる結果である。

たとえばスウェーデンなどは自国の民主主義に対する信頼感が高く、満足が75%、不満足は25%という数字だ。日本は政治不信といわれて久しいが、この流れを逆転させることはできるのだろうか。

最後まで支持を失わなかった蔡英文総統

今日(20日)、台湾に新しい総裁が就任した。1月に行われた総統選で勝った民進党の頼清徳氏(64)が蔡英文氏を引き継ぐかたちで新総統に就いた。

私にとって、台湾は中国からの統一圧力をどうかわし続けるかが最も関心のおよぶところで、台湾史上初めて女性でトップに就いていた蔡氏は過去8年間、よく健闘したと思っている。中国の習近平国家主席は「祖国統一は歴史の必然だ」と繰り返しのべ、台湾を併合したい考えを隠さないが、台湾は独立国家であり、主権を守り続けなくてはいけない。

軍事的な圧力を強める中国に対して、蔡氏は「平和には善意を要するが、それ以上に実力を要する。自衛の決意を示すことこそが、国際社会が共同で台湾と台湾海峡の平和と安定を守る上での最も重要な支えだ」と述べて、最後まで強気の姿勢を崩さなかった。

ただ同時に、「できるだけ早く健全で秩序ある交流を回復したい」と述べてもおり、対等に対話ができる2国間関係を築いて、長期的・安定的な平和共存の道を探ってもいた。この点で、蔡氏の政治力は十分に評価されてしかるべきだろう。

退任前に台湾のTV局が行った世論調査では、蔡氏に「満足」と答えた人が42%であった一方、「不満」は46%で意見はほぼ半々にわれていた。しかし、前任の馬英九氏への「満足」は23%、その前の陳水扁氏は13%でしかなかったので、健闘を讃えるべきだろう。今後は頼氏が台湾をどうリードしていくかが見ものである。

プーチン訪中の本当の意味

ロシアのプーチン大統領は16日、中国を訪問して習近平国家主席と会談した。今回の訪中の意味は各種メディアでさまざまに受け取られているが、「中ロの絆を世界にアピールか」(朝日新聞)に代表されるように、米国主導の世界秩序に対抗することを中心にした世界観を中ロで共有するとの見方が主流である。だが本当にそうだろうか。

確かに、プーチン氏は「中国はロシアの戦略的パートナーであり、この2国間関係はロシアの大統領と中国の指導者が選んだ道である」と新華社通信とのインタビューで答えているように、表向きは対等な共存関係があるかにみえる。だが最近は、「ロシアの中国への思い入れ」の方がはるかに強くなっているとの情報が入ってきている。今回のプーチン訪中もそのあらわれで、プーチン氏はなんとか中国からより多くの支援を取りつけたいのだという。

東京にいるヨーロッパからの特派員と話をしても、ロシアではいま欧米からの輸入品が止められていることから、中国製が溢れており、「中国サマさま」なのだという。モスクワでは中国製の車が道を行き交い、スーパーに行くと中国製品が山積みになっている。調べると、昨年ロシアで販売された100万台ほどの車の半分以上が中国製だった。外国車ブランドの上位6位までが中国車である。スマートフォンも中国製が跋扈している。

モスクワに住むエリートたちは子どもたちに北京語の家庭教師を見つけようと躍起になっているとの話もある。これまでは欧米の大学に留学するのが人気だったが、いまや香港か中国本土の大学にいかせるべきとの思いが強くなっている。

その背景にはロシアのエリート家族にとって、西側ヨーロッパは恨みの対象であったが、それに代わって中国がいま、技術的にも経済的にも優れた大国という捉え方に変容してきているからである。ロシアが今後、西側ヨーロッパ諸国と正常な関係に戻ることが容易でない以上、中国をより重視する関係になっていくと思われる。それが今回のプーチン訪中ではっきりしてきたことである。

ウクライナ、限界が近づいている?

ロシアがウクライナに軍事侵攻してから2年2カ月が経とうとしている。約1200キロにおよぶ戦線と長引く戦争により、ウクライナ側の兵力不足と弾薬不足が深刻になってきている。

ロシアによる空からの攻撃に対抗するための防空システムは特に脆弱で、ミサイルが枯渇してきているため「米国からの支援がなければロシアに勝てる可能性はない」とまでいわれている。兵士の間にもすでに戦争疲れが蔓延しており、今後数カ月がもっとも苦しい戦いになるとの見方が強い。

米連邦議会ではウクライナへの追加支援のための予算案が議論されているが、共和党右派からの執拗な反対にあっている。同法案の採決は4月20日(土)に行われる予定で、否決された場合は重い暗雲が垂れ込めることになる。

なにしろ同法案の総額は950億ドル(約14兆7000億円)という巨費であるため、下院共和党はバイデン政権がウクライナで何を達成しようとしているのか、その計画と戦略を議会に提出すべきであると主張している。この計画は、法案が署名されてから45日以内に提出されなければならない。

同法案に反対する共和党員たちは、ウクライナ戦争を終結させるための具体的な戦略がまだ示されていないとしており、成立するかどうかは予断を許さない。

大変化を求めたアルゼンチン

いまのままではダメだ、、、。

国民からそんな声が聞えてきそうなのが南米アルゼンチンである。19日に投開票された大統領選挙で、過激な主張を繰り返していた極右の独立候補ハビエル・ミレイ氏(53)が勝利をおさめた。

ミレイ氏はアルゼンチンの公式通貨を米ドルにするとか、中央銀行を廃止するとか、通常ではほとんど考えらえないような政策を主張した中で、得票率56%を獲得して当選を果たす。自由奔放な発言を繰り返してきたミレイ氏が勝つとは当初予想されておらず、国民だけでなく近隣諸国からも驚きをもって受け取られている。

「奇人」との愛称をもつミレイ氏が勝った最大の理由は、アルゼンチンがいまインフレ率143%という経済的窮状に直面しているため、国民からは「何とか現状を脱したい」との思いが強かったことがあげられる。 普通の政治家ではやれることが限られているため、ミレイ氏のような人物に期待が集まった。

アルゼンチンはいま、 国民の40%以上が貧困ラインを下回った生活をしていると言われており、大ナタを振り下ろせる人物が求められていた。ただ現実問題として、ミレイ氏の周囲には同氏をサポートをする人材がおらず、すぐに経済支援チームを組める体制にないといわれる。

アルゼンチンには一度、足を運んだことがあるが、居心地のいい素晴らしい場所だっただけに、新大統領のもとで国家が上向きになることを祈っている。