「メキシカン・ビーンズ」

今朝、東京丸の内の外国特派員協会のワークルームで仕事をしていると、知り合いの記者が友人と一緒に現れた。3人で雑談をしている時、その友人が私に「英語が話せるようになりたいんです。何をするのが一番いいでしょう」と単刀直入に訊いてきた。

当ブログで何度か書いてきているが、私は英語に触れる機会をできるだけ増やすと同時に、英語でモノを考えるようにしてくださいということを話した。それはまた、英語をたくさん聴くということにもつながり、 英語のラジオ局「 NPR Radio 」 (National Public Radio) を紹介した。ここは24時間、英語放送をしており、できるだけ日本語に訳さず、そのまま受け入れてくださいとも告げた。

それでも英米人のノーマルスピードの会話を聴きとれるようになるまでには膨大な時間が必要になる。ただ「いつかは英語を話すんだ」という思いを抱きつづければ、決してできないことはない。

その友人に、私は自分がアメリカに留学した直後の話をした。1982年に留学した時、まず学生寮に入り、多くの学生たちと接するようになったが、アメリカ人学生の話す言葉があまりにも速く、理解できなかったと言った。留学前にかなり英語を勉強していったつもりだったが、本当にわからなかったのだ。

同じ階にいたケビンという学生と廊下で10分ほど話をした時、聴きとれたのは「メキシカン・ビーンズ」という単語だけだった。私はかなりのショックを受けて、そのまま自分の部屋のベッドに倒れ込んだのを覚えている。その時、「分かるようになるのは無理かもしれない」と思ったほどだ。だが少しずつ、一歩一歩ゆっくり階段を上がるように歩を進めることで分かるようになっていった。

そうした話をすると、その友人は「わかりました。頑張ります」と言って去っていった。会ったときよりも顔の表情が幾分か明るくなったように見えたのは気のせいだろうか。

セレンディピティーの獲得へ

昨今、日本のアカデミズムで問題視されているのが、日本では社会を変えるような技術革新がなかなか起きないということである。世界の著名な大学と比較すると、研究論文の本数や内容で遅れをとっている。国家の経済力は世界有数であっても、研究分野では世界のトップを歩いていないというのだ。

英教育誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション」による世界大学ランキング(2024年版)を眺めると、1位はオックスフォード大学(英)で2位はスタンフォード大学(米)、以下3位マサチューセッツ工科大学(米)、4位ハーバード大学(米)、5位ケンブリッジ大学とつづき、日本の大学は10以内にも入ってこない。東京大学がようやく29位で登場し、京都大学は55位、東京工業大学は191位というありさまだ。

世界の大学から遅れをとっている最大の理由が財務基盤の脆弱さである。たとえばマサチューセッツ工科大学の予算は東京工業大学のほぼ10倍の約5000億円である。学生数はほとんど変わらないのに、財政面で圧倒的な差がついている。当たり前のことだが、研究にはカネがかかるのであって、まず財力を準備できなければ世界をリードするだけの研究は叶わないということだ。

こうしたこともあり、東京工業大学と東京医科歯科大学が今月1日に統合し、「東京科学大学」を創設した。財力もさることながら、世界に負けない最先端の研究をするにはセレンディピティー(serendipity)が必要であるといわれる。セレンディピティーというのは予想外の発見を獲得する力で、既存の組織ではなかなか生み出せないものなので、新しい環境で財力を活かし、世界をアッといわせるような発見をしてほしいと思う。

報復の精神性

中東情勢が緊迫している。今月1日にはイランがイスラエルに向けて180発以上の弾道ミサイルを発射し、両国の対立が新たに高まっている。イランはイスラエルがイスラム教シーア派組織ヒズボラの最高指導者ナスララ師を殺害したことへの報復としているが、すぐに収束に向かうとは思えない。

そこには「やられたからやり返す」という報復の意識があり、人類が長年断ち切ることができない他者への攻撃性がみて取れる。それは一個人であっても国家でも大差なく、報復の連鎖という戦争につながる行為となってあらわれる。

こうした攻撃性というのは、人間の歴史の中で遺伝情報としてDNAに刷り込まれていると説明する人もいる。復讐という行為を「正義」という言葉で正当化することで、殺し合いが繰り返されてしまう。

この点で、科学技術が発展し、世の中は日々進化しているように思えても、人間が戦争をするという愚かな行為はなくならず、地球のどこかで今日も殺し合いがつづいている。

国家間の争いにおいてはまず、国のトップにたつ人間が報復の連鎖を止めなくてはいけない。それが本当の勇気というものだろう。

大谷翔平:驚愕の記録を残して

大谷翔平が驚愕の記録を残して2024年のシーズンを終えた。三冠王こそ逃したものの、前人未到の「54-59」を達成したばかりか、いくつもの輝かしい記録を打ち立てて野球人としてはこれ以上望めないほどの活躍だった。

日本での報道は新聞・テレビからネットニュースにいたるまで、同じ日本人として「アメリカでよくぞここまでやってくれたものだ」といったニュアンスが感じられるが、アメリカではどういった扱いをされているのだろうか。

アメリカでも大谷の扱いは大きいが、煽るような記事は少なく、事実関係を淡々と報道している媒体が多い。

地元紙「ロサンゼルス・タイムズ」は「大谷翔平、三冠王には届かず 。ドジャース最終戦で連打記録更新」というタイトルの記事を掲載。そしてロバーツ監督の「明らかにスーパースターが登場した。私が驚嘆するのは、彼にかけられた期待と彼が自分にかけた期待の大きさだ。本当に彼は仕事に集中している」というコメントを載せて、偉業をたたえた。

「ヤフー・スポーツ」は「大谷翔平、 50-50 のシーズンだったが、三冠達成まであと一歩」というタイトルを打ち、「大谷にとって三冠王はもう少し先のゴールだった。三冠王を達成すれば、MLB史上最高のシーズンとなっただろう。しかし昨オフにドジャースが彼に託した7億ドルの価値は十分にあることが証明された」と記した。

「CBSスポーツ」は「大谷はシーズン最後の11試合で11盗塁を決めてシーズンを終えた。その間に打率5割8分3厘と驚異的な成績を残している。試合数はキャリアハイの159試合に出場。初めてポストシーズンに臨む大谷は、引き続きドジャースのオフェンスを牽引していくことになるだろう」と事実関係を中心に報じている。

アメリカ人の中には「日本人に越された」という意識を持つ人もいるだろうが、結果が純粋に数字に表れるスポーツなので、誰も文句を言う人はいない。来季もぜひ頑張って頂きたい。

サザンの凄さ

今さら私がサザンの凄さを述べることほど陳腐なことはないかもしれないが、1977年にデビューしてからずっとトップを走り続けてきている偉大さは、他のミュージシャンには真似のできないことだろう。

23日に茨城県、国営ひたち海浜公園で行われた野外フェスティバル「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2024」に出演したサザンは大トリに登場し、 約5万人の観客を熱狂させたようだ。今年68歳の桑田氏のバイタリティーとサービス精神には脱帽するしかない。

私が大学に入ってすぐにサザンが「勝手にシンドバッド」でデビューした時、シングル盤のレコードを買い求めたことを覚えている。高校時代からレコードをよく聴くようになっていたが、ほどんとがLP盤で、シングル盤は買わなくなっていた。だが、勝手にシンドバッドが出されるやいなや、すぐに手にとって繰り返し聴いた。本当に老若男女に愛されるサザンは超人的といっていいだろう。

いま私が聴きたいサザンの曲を付けておきます。