香りを言語化する

今朝(4月18日)、別所哲也氏のラジオ番組(FM Tokyo Morning Radio)を聴いていると、「香りを言語化する」というテーマについて話をしていた。私はいちおうモノを書いて生計をたてている者だが、この香りという目にみえないものを言葉にすることは至難の業である。

抽象的で極めて感覚的なものを言葉にするというのは、言語能力だけでなく、表現者のセンスが問われる。ラジオ番組では香りをベースにした新しい価値を創造するために起業された 、SCENTMATIC株式会社という企業の栗栖俊治社長がゲストにきていた。

栗栖氏は「なんとなく好きな香り」とか「なんとなく嫌いな香り」といった感覚に言葉が融合すると、今までにない新しい体験ができるという。それが2018年からはじめた「Kaorim」 というプロジェクトで、 ITやAI、UXなどを融合させることで 新しい価値を生みだそうとしている。

嗅覚というのはこれまで科学が追いついていなかった分野だが、 Kaorimによってサイエンスが追いつきはじめたという。楽しみな領域である。

「品川猿の告白」

「品川猿の告白」というタイトルを記したが、ほとんどの方は何のことかおわかりにならないかと思う。実は2月に文藝春秋社からでた村上春樹氏の文庫「一人称単数」のなかにおさめられている短編のタイトルなのだ。

村上氏の小説を読むのは久しぶりで、本屋に平積みになっていたので手にとった。品川猿というのはいったい何なのか。

村上氏らしい一人称の筆致で、群馬県の温泉宿に泊まったときに、風呂に猿が入ってきて「お湯の具合はいかがですか」「背中をお流ししましょうか」と尋ねるのだ。猿は温泉宿で働いており、見事な日本語を話す。

猿が言葉を喋ること自体、普通ではないが、猿と主人公との会話がごくごく自然に描かれており、村上氏の筆力を感じざるをえない。もちろん小説としての面白さは、現実では起こり得ないことが眼前で繰り広げられることなのだが、読み進めるうちに「本当に日本語を話す猿がいるのではないか」と思ってしまうほどの話なのだ。

猿は「ずいぶんお寒うなりましたですね」といった言葉遣いで、小さい頃から人間に飼われていたので言葉を覚えたという設定だ。しかも東京の品川区にいたので、品川猿というタイトルになっている。久しぶりに楽しい小説を読んだ。

快適な、、、歯医者

できるだけ行きたくない所、、、、歯医者。多くの方もそうだろうかと思う。

ただ今回はタイトルに「快適な、、、歯医者」と記した。というのも、先週金曜日にいった歯医者は、わずか10分で処置をしてくれたばかりか、痛みもともなわなかったからだ。

左の下の奥歯に少しばかりの痛みを感じはじめたのは2カ月ほど前だった。以前に詰めたものがとれて、硬いものを噛むと少しばかりの痛みをともなうようになっていた。風邪や腹痛などと違うのは、歯痛は自然に治るということがない。歯医者で処置をしてもらうしかない。

私はいま65歳で、これまでの人生で多くの歯科医にお世話になり、多くの処置をしてもらってきたが、歯医者によっては「もう2度とここには来たくない」と思うこともある。ただ今回の歯医者はネットでの評価・評判がとてもよく、予約もすぐにとれてので出向いてきた。

詰めものがとれたことは説明するまでもなく、担当医はすぐにわかった。レントゲンを撮り、写真を見ながら説明を受ける。痛みはあったが、神経を抜く必要はなく、その日の治療だけで「完治」となるとの話だった。口を開けつづけて約10分。「はい終わりました」との言葉を聞いたときは、「ヤッタ!」と胸中で小さなガッツポーズをつくっていた。

「迅速な対応をしていただき、本当にありがとうございました」と述べて、深く頭をさげて帰路についた。ああ、有りがたや有りがたや!

100歳まで生きたいですか

米ケーブルテレビ局CNBCが米時間5日夜、「99歳までリタイアしなかった」というタイトルの番組を放映した。

番組の狙いは100歳を目前にした人や、すでに100歳を超えた人たちから長寿の秘訣をききだすことで、「これをすれば多くの人が長生きできる」というエッセンスを紹介していた。

まず重要なのは「生きる目的をみつけること」であり、次に「仲間を探す」ことだという。なぜ生きるのかという根源的な問いを自身にむけていると、自分のコミュニティが見つかることが多く、仲間も自然にできてくるという。人の交流が増えてくると、自分を支えてくれる人もみつかる。

ハーバード大学が85年もの歳月をかけて行った研究では、長寿の秘訣は「ソーシャル・フィットネス」という地域密着型の健康管理を実践することで、地域の人びとと戦略的に地域づくりと健康の向上をはかることが重要になるという。つまり、よき友人やパートナーとともに前向きに生きるということである。そして困難にであっても立ち止まらず、つねに光明を探しつづけることが大事だという。「探しつづければ光に出会える」という考え方だ。

実際に100歳まで生きた方のコメントとして、「仕事をし続けること」「言いわけせずに、毎日歩くようにしている」「振り返るのではなく、前を向くのです」「ユーモアを失わない」「おしゃれをする」といった膝ポンの内容が出た中で、「おいしいお酒とセクシーな女性がいればいい」というものもあった。さあ、今から実践してみましょうか。

追悼・坂本龍一

「いつも読んでますよ」

30年近く前、ニューヨークのカフェで坂本龍一氏にインタビューした時、彼は私にそう言った。私は嬉しくなり、すこし浮かれ気味に話を続けたのを覚えている。

当時、私は読売新聞が発行していた米国版の紙面にコラムを書いていて、それを読んでくれていたのだ。会う前まで、彼が私のことを知っているとは思っていなかったので、本当に嬉しかったのを覚えている。

インタビューの内容はほとんど覚えていないが、たいへん穏やかで、物静かに話をする人との印象が強い。インタビューが終わったあと、プライベートな話もずいぶんして、ニューヨークは刺激があると同時に人に干渉してこないのでとても気に入っているという話をしていたのを覚えている。

日本であればどこに行ってもすぐに「坂本龍一だ!」と騒がれるだろうが、ニューヨークではそうしたことが少ないので、本人は自分らしさを保てたのだろうと思う。

芸術的な才能だけでなく、人間としてもたいへん魅力がある良識家で、行動力も持ち合わせていた稀有なアーティストだった。ご冥福をお祈りしたい。