なんとしてもアメリカへ

日本ではあまり大きな報道になっていないが、アメリカとメキシコの国境付近にいま、1日1万人ほどの移民が集まってきている。多くは不法移民で、メキシコだけでなく、コロンビアやパナマ、グアテマラなどからアメリカに入国するためにやってきている。

私が25年住んだ首都ワシントン周辺にも多くの中南米人が住んでいて、小さな町ができているところもある。何度となく彼らと接触し、取材もしたことで、彼らが何故アメリカを目指してやってくるのかはわかっているつもりだ。

彼らにしてみるとアメリカはある意味で夢の国で、稼げると同時に、自分次第で社会的な成功をつかめる場所と捉えている。それは祖国よりも生活状況が確実に上向くということでもある。逆にいえば、祖国では経済的にかなりの貧窮を経験してきているということで、「現状からの脱出」の最終到達点がアメリカなのだ。

国境には場所にもよるが、高さ数メートルの鉄製の柵がある。それでも彼らはさまざまな方法でそこを越えてくる。何百キロも歩いてきて、柵ひとつで自分の目的を諦めたりしない。不法であるため、米国側で待ち構える警察官に拘束されることも少なくないが、それでも諦めたりはせず再び越えてくる。

もちろん不法入国は声を大にして勧められるものではないが、彼らの気持ちに思いをはせると「いいよ。越えてきて」と声をかけたくもなる。日本ではこうした状況に直面する人がいないだけに、少しだけでもご理解いただけると嬉しくなる。

プリゴジンの死が語るもの

ロシアの民間軍事会社ワグネルの代表を務めていたエフゲニー・プリゴジン氏が死亡したというニュースが23日に伝わった。プリゴジン氏の搭乗していた自家用ジェットが墜落したのだが、日本時間24日午前の段階では原因は不明。

しかし、同氏の政治的な立ち位置を考えると、プーチン側に殺害されたと考えるのが最も妥当な見方だろう。西側メディアの中にも「詳細は乏しいが暗殺された」との報道がある。プリゴジン氏は6月にプーチン氏に対する反乱を起こしたが失敗し、ベラルーシに追放されていた。

まだ墜落原因は明らかになっていないが、機内にあったワインケースに爆弾が仕掛けられていて、それが爆発したとの報道もある。もしプーチン氏が背後にいて、殺害を命じたのであれば、私は独裁者が犯す典型的な誤りをおかしたと考えている。

自分を裏切ったプリゴジン氏を、追放した後でも許せないプーチン氏は独裁者の罠にはまったのではないだろうか。ロシアで絶対的な権力を誇るプーチン氏は、自分の強さを誇示したいがために今回の爆破を命じたのであろうが、殺害という行為にはトレードオフがつきもので、結果的には権力を弱体化させることになると思われる。

というのも、プーチン氏の部下たちは、「次は自分の番ではないか」と考えるようになり、次第に権力者から離れていくようになるからだ。政権内部の人間が身の危険を感じるようになればクーデターが起こる可能性が高まる。

もちろんこれは私の「読み」でしかないが、あながち間違っていないのではないかと思っている。

半世紀ぶりの月面探査機

ロシアの無人宇宙船「ルナ25」が今月21日に月面に着陸する予定だ。

月面探査機が月に着陸するのは1976年の「ルナ24」以来で、ほぼ半世紀ぶりということになる。しかも今回は、月の南極といわれる地域に降りる予定で、到着後は水や他の資源にアクセスできるかどうかを探るという。

ロシアの宇宙開発公社「ロスコスモス」のボリソフ事務局長は今回の打ち上げを宇宙開発の新たな1ページと捉えており、次のように語った。

「我々は水の存在に興味があるばかりか、月の土壌や土地の研究に役立てるつもりだ。さらに2027年から30年にかけて、さらに3回の月面への打ち上げを計画している」

ボリソフ氏はさらに、月への有人飛行と月面基地建設の可能性を探るとしている。ロシアだけでなくNASAも月への興味を示しており、人間が長期間住める技術を開発する予定だという。

月面探査については、米ロだけでなくインドや中国も興味を示しており、インドは7月に「チャンドラヤーン3号」を打ち上げており、今月下旬に月面着陸を試みる予定だ。さらに中国も2030年までに人間を月面に運ぶ計画を発表している。

日本も月探査機「SLIM」を今年6月に鹿児島県の種子島宇宙センターで報道陣に公開したが、まだ日本初の月面着陸には至っていない。

南極の海氷が観測史上最小に

北半球は今、各地で記録的な暑さがつづいてる。だが南半球は今が冬で、本来であればこの時期に南極の海氷(氷床ではない)が増えなくてはいけないが、今年は海氷の成形が大幅に遅れており、今月10日現在、観測史上最小を記録している。

ニュージーランドのビクトリア大学ウェリントン南極研究センターのディレクター、ティム・ナイシュ氏によると、現在の海氷面積は過去40年の平均値を約20%も下回っているという。

南極の海氷は海や大気の温度を調節しているだけでなく、海水を循環させ、ペンギンをはじめとする動物や生態系を維持する役割をはたしているので、急激な減少は悪影響でしかない。

海氷が減少すると南極大陸の氷床が外洋に晒されることになり、海氷が溶けて世界中の沿岸に住む人々に影響を与える。解氷が続いて限界を超えてしまうと、不可逆的な変化が訪れて、世界中の海面レベルが上昇することになる。

海氷面積が例年よりも20%少ないというのは、広さでいえばニュージーランドの面積の約10倍ということで、各国代表が早急に集まって、世界レベルで真剣に対策を講じる必要がある。

あるタクシー運転手の気概

今日(7月3日)の朝日新聞朝刊の1面に、たいへん興味深い記事がでていた。1面から2面にわたって続く記事の主役はガーナ出身のハッサン・カリムさんという48歳の男性。

近年は大手新聞の1面に政治・経済のニュースではなく、個人的なストーリーが掲載されることがあり、今日のフロントページもまさにそうした記事だ。2006年に来日したカリムさんはさまざまな仕事についてきたが、東京でタクシーの運転手になりたいと思っていた。

タクシー運転手になるためには2種免許を取る必要がある。日本語の会話はほとんど問題なくできたが、カリムさんは読み書きが苦手で学科試験に落ち続けた。落ちた回数、なんと82回。83回目でパスして、いまは運転手をしている。

一般的に考えると、どうしても受かりたい試験であっても、10回も落ち続ければふつうは嫌気がさして諦めてしまわないだろうか。なんとしても受かるまでと思っても30回、40回と落ち続けたら、「これは俺には無理だ」と思うのが人の心理である。だが、カリムさんは自分を信じ続ける力を失わず、合格するという信念を持ち続けたことで、晴れて日本でタクシー運転手になれた。

同記事ではカリムさんの諦めない心意気と、タクシー運転手に外国人が増えているので、試験のハードルを下げるべきとの意見が述べられていた。「何事も諦めなければ成就できる」ということをあらためて教えられた気がした。

それにしても83回、、、、脱帽である。