来年、世界一の人口になるインドへの注文

今月22日付のニューヨーク・タイムズ紙に、北京とニューデリーの公害を比較する記事が掲載されていた。10年前、両都市は大気汚染のレベルが世界最悪であるとされていたが、北京はその後大きく改善された。というのも、北京政府が2013年に公害との戦いを宣言し、大気浄化のために1000億ドルもの予算を割いたからだ。北京は10年前と比較すると、晴天の日が年間100日以上も増えたという。

一方のニューデリーはどうか。NYタイムズは「この秋も空気は汚れている。最近も数週間にわたってスモッグがかかり、トラックの通行を規制したり、学校を閉鎖し、勤労者には在宅勤務を呼びかけた」と書いている。さらに外出した人は「マスクの中で咳き込み、目をこすり、空気を苦く感じている」という状況だという。

昨日、私はあるところで講演を頼まれ、80分間、世界情勢について私見を述べ、冒頭でちょうどインドのいまについて語ったところだった。素晴らしい文化を擁している一方で、スモッグだけでなく、生活面でもいまだに途上国の領域からでていない分野が多く、これからの国であるかと思う。

それに人口が増え続けており、来年中に中国を抜いてほぼ間違いなくインドが世界で最も人口の多い国になる。中国がいま約14億3000万人で、インドが約14億1000万人。これからは「世界で一番人口の多い国は?」という質問の答えはインドになるはずで、今後もずっと続くはずだ。

プラス要因に目を向けると、人口が多いということは、それが国力増強の基礎になことで、インドにはいくつもの分野で世界のリーダーになってもらいたいと思っている。

その期待に応えられるか見ものである。

 2014年にインドに行った時の一枚

世界人口80億人に

以前から報道があったように、世界の総人口が来週80億の大台に乗る。いつもと変わらない日常生活を送っているかぎり、地球規模で人口が増え続けている現実はなかなか実感できない。だが、80億という数字はとてつもなく大きいし、国連が予測するかぎり、この数字はさらに伸び続けていくという。

1950年には25億という数字だったが、過去72年で3倍以上に増えたとことになる。いったいどこまで増えるのか。国連は2030年には85億人に、2050年には97億人にまで増えるとみている。ただ、この人口増加は出生率が上昇していることが理由ではない。出生率はむしろ下がっているのだ。

2021年、世界の女性が生涯に産む子どもの数は平均2.3人にまで落ちてきている。1950年は5人だったので、半分以下になった。人口が増え続ける最大要因は「死ななくなった」ことなのである。「死ななくなった」というのは、平均寿命が延びたということである。世界の平均寿命は2019年時点で72.8歳。1990年と比較すると9歳も伸びている。

さらに国連が発表した資料を眺めて驚かされるのは、長年人口で世界のトップを走っていた中国が、早ければ2023年にインドに抜かれるということだ。中国の人口はこれからゆるやかに減少していくという。インドは逆に2050年には17億人になると予測されている。

数によって地球が狂わされるという恐怖があるが、米シンクタンク、ウィルソンセンターの研究者ジェニファー・スキューバ氏はこう述べる。

「人間が地球に与える影響というのは、数よりも行動によっての方がはるかに大きい」

つまり限りある地球という惑星で、好き勝手に消費し続けるのではなく、自重し、途上国に転嫁していくということなのだろうと思う。食べるものがなくなり、多くの人が飢餓状態になるのを見たくはない。

自分への満足度

最新号のAERA(アエラ)に「願望との乖離「現実」に悩む」という興味深い記事がでていた。記事の内容は、若い世代を中心に孤独感を覚える人が増えているというもので、SNSの利用時間が長いとより孤独感を感じやすいという。

携帯やパソコンを操る人が増えたことで、いつでも誰とでも「つながれる」はずなのだが、孤独感がつのるというのは、端的に言えば物理的にスマホを使っている時は1人であり、SNSで多くの人とつながっているように思えても、スマホを切ると1人でいる自分に改めて気づき、自己内省的な感覚に陥るのだ。この傾向は若者に顕著であると記事に記されていたが、年代を越えて同じことが言えるのではないか。

さらに記事では、自己肯定感についての言及もある。内閣府が日本や欧米諸国など7カ国の若者の意識調査をしたところ(各国約1000人)、自分に満足していますかという質問に「そう思う」と回答した人は米国が最多の57.9%であったのに対し、日本は10.4%でもっとも低かった。

孤独感がつのり、さらに自分自身に対しても自信が持てないということは情緒不安定な精神状態になりやすいということで、そうした状況下ではいい仕事も期待できない。

私は究極的には「愛の欠落」にあるのではないかと思っている。人との関わりがなければ愛情を抱けず、愛されもしない。もっといろいろな人と交流をもって愛情を抱く。しかも無理にではなく、自然に心の底から湧き上がる愛を期待したいと思うのだが、、、、難しいだろうか。

遅れる人材誘致

昨日(7月5日)の日本経済新聞の朝刊一面に、ロシアの頭脳流出が深刻な状況にあるという記事が出ていた。プーチン氏によるウクライナ侵攻は国外からの批判に晒されているが、国内にいるロシア人にとっても反プーチンの流れは止まらず、「もうロシアには居られない」として今年2月、3月だけで30万人がロシアを去ったという。高学歴、高収入な人ほど脱出する傾向が強いという。

ロシア国内にある非政府調査機関の調査によると、24歳以下の若者で国外永住を希望するロシア人は今、なんと50%を超えているという。頭脳流出という事態は国家にとっては大変深刻なことで、このままではロシアは成長が止まり、競争力を失った敗者となりうる。それほどプーチン氏がウクライナでやっている暴挙は悪影響があるということだ。

ただ日経新聞の記事の狙いは他にもある。ロシアを脱出した優秀な人材を受け入れるのが、スウェーデンや米国、オーストラリアといった国々が中心で、日本は高度人材の誘致指数を眺めると先進国33カ国中25位に沈んでいるというのだ。もちろん、日本語というある意味で特異な言語体系のせいで、国外から優秀な人材を誘致しにくいという理由はある。

ただそれ以上に、日本社会は国際的に実質賃金が低いだけでなく、移民の受け入れ体制が十分ではない上、社会の寛容性も他国と比較すると低いという。例えば実質賃金を眺めると、日本はアメリカの56%でしかなく、報酬面で他国と比較すると見劣りがする。また移民に対する差別撤廃の法律の整備も遅れている。こうした点は以前から繰り返し指摘されてきたことだが、政府をはじめ民間レベルでも深刻に改善していこうという意識が低い。

これは日本社会の国際性の低さということにもつながっており、日本の将来に対して暗い影を落とす。海外に出ていくことも大切だが、本当の国際性というのは、どれほど国内で外国人を受け入れられるかということだろうと思う。

ロシア:追い詰められたあと

ロシアがウクライナに軍事侵攻して4ヵ月が過ぎたという話は6月30日のブログでも記したが、プーチン氏の暴挙といえる行動は、ロシアが西側諸国に押され続けてきた結果でもある。同氏が長いあいだ圧力を感じてきたということだ。

北大西洋条約機構(NATO)の首脳会議が30日に終わり、そこでの最大関心事もロシアで、参加国はロシアを「もっとも重大かつ直接の脅威」と捉えた。フィンランドとスウェーデンがNATOに加わったのも、ロシアの脅威を単独ではなく複数国で受け止める方がより効果的という意味がある。それほどロシアという国はいま、ヨーロッパ諸国にとって脅威なのだ。

それは同時にNATOが首脳会議でロシアを敵国と認定したため、敵対関係がより如実に浮き上がってきたということでもある。もちろん、誰も戦争を望んではいないだろう。ごく少数の政治家だけが戦争によって得られるモノを期待しているだけである。プーチン氏にこれ以上、暴挙を起こさせないためには何をすればいいのかを、西側諸国は考えなくてはいけない。

昨日、外国特派員協会のワークルームで、ヨーロッパからの特派員とこのあたりのことを話し合った。ヨーロッパ諸国内ではいま、対ロシア政策が統一されているわけではないが、反ロシアという意識は今後さらに強まるはずだとの見方では一致していた。話し合いの中で一人の記者が語気を強めて言い放った「プーチンは決して信用できない」という言葉が今も耳に残っている。ただそこからプーチン氏を暴発させないための妙策はなかなか出てこない。

大きな戦闘に発展しないように対話をし、将来を見据えた政策を熟考することは当然だが、確実に具現化できる策がない。ここが国際関係の難しさでもある。