戦略的曖昧さ

この言葉を聴いて、すぐにピンとくる方は東アジアの外交政策に通じているのだろうと思う。

ジョー・バイデン大統領は23日、東京で岸田首相と共同記者会見を行った。その時、バイデン氏は記者から「台湾防衛のために軍事的に関与する意思はあるのか」と訊かれ、「イエス」と答えている。中国が台湾を軍事攻撃した時、アメリカはこれまで全面的な軍事衝突を避けるため、軍事介入には明確な意思表示はせず、わざと曖昧なままにしておく政策をとってきた。それが「戦略的曖昧さ(Strategic ambiguity)」である。過去の米政権の方針でもある。

しかし「イエス」という回答は軍事的に対抗するという意味で、これまでとは違う反応であったため、ホワイトハウスはすぐに「米政府の方針はこれまでと変わっていない」とバイデン発言を打ち消してみせた。同時に、「バイデン氏はまた失言をした」という流れになった。

だが本当にそうだろうか。バイデン氏はこれまでもたびたび失言をしてきたし、79歳という年齢を考えると、またミスを犯したと思えなくもない。 ただ私は、意図的に「イエス」と答えたのではないかと思っている。 というのも当件は大変重要な問題で、36年間も上院議員を務め、副大統領も2期こなしたバイデン氏が台湾問題を知らないわけがないのだ。上院外交委員会の委員長もつとめた人物が間違えるとは思っていない。

「台湾を守る」というのはバイデン氏にとって、当然の行為になっている気がする。中国に対してはっきりした態度を示すべきとの思いがあるのではないか。実は連邦議員の中にも「戦略的曖昧さから戦略的明確さへと軸足を移すべき」(トム・コットン上院議員)という意見や、「曖昧にしている時間は終わった」(リチャード・ブルーメンソール上院議員)という声がでてきている。

中国に対して一歩引いた態度から、日米は積極的な中・長期的ビジョンを持たなくてはいけないと思っている。