米ロ大統領選へ

日本では相変わらず関心が薄い米ロ両国の大統領選が、にわかに活気づいてきている。

アメリカもロシアも2012年が大統領選で、ロシアではプーチンが再び大統領選に出馬する意向を固めたとのニュースが入ってきた。だが、現職メドベージェフは18日の会見でプーチンと「対決する可能性はまったくない」と断言したばかりで、この言葉が真意であれば、もう一期大統領を務める気はないということである。

プーチンはやる気まんまんで、すでに8年間大統領を務めて今は首相として3年目。来年からの大統領任期は一期6年に改正されたため、当選すれば2期12年の長期政権となる可能性がある。すると首相も含めると24年間も大国のトップとして君臨することになり、ある意味での独裁といってさしつかえない。

プーチンが、「子分」として仕えてきたメドベージェフを追いやって大統領選に出馬し、再びロシアのトップに返り咲こうという権力への執着をみるにつけ、最高権力にすがっていたいという今の菅にも見られる我欲のすさまじさにあきれる。

エッ?「切れてないですよっ」て、、、。

アメリカのオバマも、もちろん8年間ホワイトハウスにいるつもりだ。今月12日にも書いたが(2012年大統領選: レディー・ゴー! )、出馬予定だった共和党候補の半数以上は過去10日間で進退をあきらかにした。

・ロン・ポール(下院議員・テキサス州) In (5.13.11)

・マイク・ハッカビー(前アーカンソー州知事) Out (5.14.11)

・ドナルド・トランプ(実業家) Out (5.16.11)

・ミッチ・ダニエルズ(インディアナ州知事) Out (5.22.11)

・ティム・ポーレンティ(前ミネソタ州知事) In (5.22.11)

・ミット・ロムニー(前マサチューセッツ州知事)In (6.2.11)

・サラ・ペイリン(前アラスカ州知事)

このままの顔ぶれで上記の誰かが来年オバマと戦うとなると、過去30年でもっともつまらぬ選挙になりそうである。ロムニーは直に正式に出馬表明をするだろうが、ペイリンは未定だ。

ハッカビーは「内なる自分が『辞めておけ』といったから」と牧師らしい辞退宣言をし、実業家のトランプはテレビ番組を続けるためなどと言葉を濁し、本当の辞退理由は語っていない。ダニエルズは家族が反対したためで、アメリカではよくある理由だ。泡沫候補も数人出馬しているが、オバマががっぷり四つ相撲をとる相手はいない。

1996年、クリントンの再選時、共和党からはボブ・ドールという地味な政治家が対抗馬として登場していた。堅実な上院議員だったが、選挙人数で379対159という大差でクリントンに負けた。このままではあの年のような盛り上がらない選挙になるかもしれない。

選対組織、カネ、政策、カリスマ性といった必要不可欠の要素を比較して、いまオバマに勝てそうな共和党候補は見当たらない。(敬称略)

2012年大統領選: レディー・ゴー!

日本では大きな話題になっていないが、2012年の大統領選挙が幕を開けた。

現職大統領オバマは4月5日、再選をめざすと正式に表明したが(アメリカの祭り、カミングバック!)、共和党からの”主要候補”は出遅れ気味だった。しかし5月11日、元下院議長のニュート・ギングリッチが出馬を表明し、事実上の選挙戦がはじまった(”主要候補”としたのは泡沫候補がすでに何人か出馬表明をしているため)。

本選挙は2012年11月6日とまだ先だが、前回の選挙とくらべると出足は遅い。2007年の5月といえば、民主党では主要8候補が登場して第1回討論会が終わっていた。オバマ、ヒラリー、バイデン、エドワーズ、リチャードソンといった顔ぶれである。

だが、今年はギングリッチが宣言どおりにフェイスブックとツイッターで出馬表明したものの、他の共和党候補はいまだに出馬のタイミングを見計らっている。アメリカの選挙には選挙期間が定められていないため、いつ出馬しても構わないからだ。極端な例では前回の大統領選挙が終わってすぐに出馬表明することもできる。

早く選挙戦をはじめれば有利であるとは限らない。なにごともタイミングが大切である。長期間選挙をしていても、有権者は強い関心を示さない。対抗馬がいないところで選挙活動をつづけても盛り上がらず、メディアも関心を払わない。

しかも早い時期に有権者から広い支持を集めてしまうと、あとから出馬する候補たちの格好の標的になり、1対複数候補の構図になって終盤で失墜してしまう可能性がある。ただ出馬表明すれば連邦選挙管理委員会の監視のもとで選挙資金を集めることができる。

オバマは今回の選挙で10億ドル(約800億円)を集めるつもりで4月から集金活動を行っている。共和党候補はすでに現時点でカネ集めでは遅れをとってしまった。

ギングリッチは私がアメリカに住み始めた1982年、すでに下院議員になっていた男で95年から99年までは下院議長をつとめている。ビル・クリントンがモニカ・ルインスキーとホワイトハウス内でみだらな行為を行っていたことを糾弾しつづけたが、同じ時期に22歳下の女性と不倫していたことが後になって発覚し、すっかり信用を失った。ただその女性が現在の妻である。

                                     

   

                  

政治家としても私が知るギングリッチは矛盾だらけの男で、彼にチャンスはないと思っている。(敬称略)

共和党から出馬すると思われる他人物:

・ミット・ロムニー(前マサチューセッツ州知事)In  (6.2.11)

・マイク・ハッカビー(前アーカンソー州知事) Out (5.14.11)

・ドナルド・トランプ(実業家) Out (5.16.11)

・ティム・ポーレンティ(前ミネソタ州知事) In  (5.22.11)

・ロン・ポール(下院議員・テキサス州) In  (5.13.11)

・ミッチ・ダニエルズ(インディアナ州知事) Out (5.22.11)

・サラ・ペイリン(前アラスカ州知事)他

アメリカの祭り、カミングバック!

2012年のアメリカ大統領選が動き出した。

今月5日、オバマから「再選をスタートさせる手続きに入った」というメールが入った。メールの最後に「よろしくお願いします。バラック」という言葉がついている。もちろん大統領と知り合いというわけではなく、民主党のメールリストに私の名前が入っていただけだ。

私にとって大統領選はライフワークであり、祭りである。

14日、オバマは最初の選挙資金パーティーをシカゴで開いた。ミシガン湖につきだした海軍埠頭の特設会場に2300名が集まり、それぞれが100ドルから250ドルの献金をし、一晩で200万ドル(約1億6600万円)を集めた。

たまたま別の取材で、いまシカゴから北に約150キロいったミルウォーキーにいる。

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パーティーを仕切ったのは新しくシカゴ市長になるラーム・エマニュエルである(ある男の勝利)。

08年の選挙では史上最高額となる7億5000万ドル(約620億円)ほども集めたオバマは、今回は10億ドル(約830億円)を目指すという。実際の本選挙まで1年半以上もあるので本気で大台に乗せるつもりだ。

しかも選挙本部はワシントンではなく、オバマの地元シカゴに置いた。拙著『大統領はカネで買えるか?』で記したとおり、本当にオバマがその額を集められたら、圧倒的な優位にたつ。もちろん現職の強さもある。

アメリカ史上、現職大統領が再選で負けたことは9回しかない。現時点では団子状態にある共和党の候補予定者たちに水をあけているが、オバマ自身の支持率がギャラップ調査で41%まで落ちており、今後の選挙対策本部の動きが見ものである。(敬称略)

変わる面白さ

「ライフワーク」と自称している大統領選挙は、予想通りオバマ勝利に終わった。

多くの媒体から執筆やコメント、出演の依頼を受け、出せるものはほとんど吐き出してしまったという印象が強い。6月初旬、オバマがヒラリーを破って民主党代表候補に決まったときから、11月の本選挙で彼が勝つことは疑う余地がなかった。

共和党大会の前後で「ペイリン現象」なるものが生じたが、それは短期的な時流であって、底流に流れるオバマ支持にはほとんど影響がなかった。それは安心して見ていられた。

だが私は、今年の選挙で二つの過ちを犯した。拙著に記したことが外れたのである。民主党ではヒラリー、共和党ではジュリアーニが本命と書いた。本の原稿を書き終えたのが昨年11月末だったことは言い訳にならない。なぜなら、拙著を読んでいただくのは今年だからである。

昨年の今頃、ヒラリーはオバマに10ポイント以上の差をつけていた。ヒラリーは集金額でもオバマに大きく差をつけていた。ジュリアーニしかりである。だが、結局はヒラリーもジュリアーニも過去の人となり、見事に外れた。

新聞社にいる記者であったら更迭もあったかもしれない。大手新聞社の友人は以前、「政局を外したら部内でなんらかの仕打ちがある」と話していた。フリーランスという立場はありがたく、「どうして外したんですか」と正面から言ってきた人は一人だけだった。

投・開票日はテレビのナマ番組にコメンテーターとして出演し、オバマ次期大統領誕生の瞬間をテレビの中から観られたが、あまりにも予想通りの展開だったので拍子ぬけした。

アメリカの政治勢力図は2000年から変化していない。オバマは、04年にケリーが勝った全州を奪うことは容易に予想できたし、その上でオハイオかフロリダのどちらかで勝てば勝利する流れだった。結局、両州だけでなくバージニア、ノースカロライナ、インディアナという激戦州もオバマが勝ち、圧勝に終わった。

日本では、南部諸州はほぼ無条件で共和党にいくと思っている方がいるが、間違いである。候補の出身地が大きく獲得州に関与する。たとえばカーターが勝った76年、テキサスからルイジアナ、ミシシッピ、アラバマ、ジョージアと続くディープサウスはすべて民主党に流れた。カーターがジョージア州出身だったからである。

逆に80年のレーガンは、現在のリベラル州の代表であるカリフォルニアを確実に獲った。もちろんレーガンがカリフォルニア州知事だったからである。92年、アーカンソー出身のクリントンは同州の他、南部ではルイジアナ、ジョージア、テネシーを奪った。 

オバマが再選をめざす2012年の勢力図は、現在とほぼ同じと予想される。しかし、共和党がカリフォルニア出身の強力な候補を立てると事態は変わってくる。

「変わる面白さ」がアメリカの政治であると知ったのはずいぶん昔のことである。(敬称略)

日米の民主党リーダーへ

大統領選挙は本選挙(11月4日)まであと1か月となった。

多くの方がすでにご承知のように、形勢はオバマ有利で流れている。私はマケインとオバマの戦いについては、ずっとオバマ有利と各種メディアで書いてきた。6月5日のブログ(本選挙の票読み)でも、すでにオバマ優勢と記した。いまでは4カ月前よりもオバマへの追い風が強いし、1か月後、よほどのことがない限り「オバマ大統領誕生」というニュースが世界を駆け巡ると思っている。

9月26日にミシシッピー州で行われた第1回討論会直前、メディアだけでなく政治評論家の多くが討論会の出来いかんで流れが変わるという ニュアンスであった。10月2日の副大統領候補の討論会も同じで、選挙終盤になった今、もっとも大切なのは討論会といわんばかりの空気でさえある。

マケインとオバマは今月7日と15日にも討論会を行うが、何千万人もの有権者が観るわりには、10月に入った段階で、討論会後に支持候補を変える人は少ない。さらに討論会の前後で支持率に大きな変化は生まれない。過去何十年も同じ現象が起きており、今年も同じことが繰り返されている。だが、現場の記者は初めて大統領選をカバーする者も多く、「討論会が決めてになる」と興奮しがちである。討論会のもつ意味を熟慮していないのだ。

私が散見したメディア関係者の中で「支持率は変わらない」という事実をしっかり述べていたのは、CNNの政治分析家ビル・シュナイダーくらいである。さすがにわかっている。インターネットをはじめとして、テレビ、新聞、雑誌といった媒体数と情報量がふえ、今の段階にきて、いまだにマケインかオバマを決めかねている有権者は時代遅れもはなはだしい。

1時間半の討論会を観たあとに支持者を決めるという有権者は、過去2年弱におよぶ大統領選にほとんど関心を払っていなかったことを証明しているようなものである。有権者の30%は民主・共和両党に属さない独立派(インディペンデント)で、確かに態度を決めかねている人はいるが、日本のように公示から投票日まで2週間という短期の戦いではない。アメリカ大統領選での討論会というのは、改めて自分の支持する候補の政策と、政治家として重要な弁論術を「眺める」時間なのである。

たとえば92年の討論会で、パパブッシュとクリントンの支持率は開始前、それぞれ35%対52%だったが、3回の討論会が終了したあと、支持率は34%対43%でむしろクリントンの方が下降した。2000年のブッシュ対ゴアでも46%44%という数字は討論会前後でほとんど変化がなかった。今年も同じである。

支持率が現在オバマ有利に動いているのは、討論会の出来・不出来からではなく、経済危機に絡む市場の混乱と国民が抱えるアメリカ経済への不安感が共和党(現政権)に対して不利に働いているからである。今後1か月、株価の乱高下が繰り返され、銀行倒産などのニュースが流れれば流れるほどオバマ有利に傾く現象は加速する。

日本民主党はすぐにでもアメリカ民主党とオバマの外交担当者に接触すべきである。すでに遅いくらいだが、民主党(次期首相)は直接オバマ政権にアクセスできる外交ルートを今からつくっておくべきである。(敬称略)