2020年米統領選(17):政治家というもの

前回、「米大統領選」のテーマで書いた時、バイデンの出馬理由について記した。本人は人種問題の亀裂が深まってきたことを理由にあげ、「アメリカという国の魂を誰かが回復させないといけない」とテレビで話した。

綺麗事のようにも受け取れるし、アメリカの社会問題に真剣に取り組む姿勢でいるかにも思える。バイデンの本音は本人と周囲にいる少数の人にしかわからないのが現実だろう。アメリカ国民は今後1年かけて、その真意を探ることになる。

トランプの息子ハンター・バイデンに絡むウクライナ疑惑により、バイデンの民主党レースでの支持率は過去数週間、トップの座からずり落ちている。世論調査によっては依然としてトップのところもあるが、上院議員エリザベス・ウォーレンが1位にきている調査結果もある。

ただ来年11月の本選挙まで1年以上も月日があるので、現時点での1位、2位というのは参考程度にしかならないと思った方がいい。来年2月から始まる予備選では、別の候補が急浮上する可能性もある。過去7回、大統領選を取材してきて、いまの段階で言い切ることの愚かさを知っているつもりだ。

トランプについては、再選を目指す現職大統領として共和党の指名を獲得する(共和党代表になる)ことはほぼ確実だが、ウクライナ疑惑が今後深度を増し、違法行為があったかを弾劾プロセスで問われるかどうかが焦点になる。

それよりも先日、あらためて政治家たちが自分たちのことしか考えていないと思える事があった。トランプの弾劾を支持するかしないかで、それは表面化した。

連邦下院(定員435名)は現在、民主党が過半数を占めており235名。共和党が198名。無所属と欠員が1名ずついる。共和党議員の中にはトランプの言動に疑問を持ち、ウクライナ疑惑において、ここまでで入手できる情報だけでもトランプは「十分に弾劾にあたいする」と考える議員がいても不思議ではない。いや、いなくてはいけない。

だがニューヨーク・タイムズが先週、調べた結果では共和党下院議員でトランプの弾劾を支持する人は「ゼロ」だった。態度を保留した議員が14名いたが、最初から弾劾にゴーサインを出した人はいない。

逆に235名の民主党議員のうち弾劾支持が227名で、8人が弾劾すべきでないとの回答だった。この8人はある意味で、当件を真剣に熟慮して党の方針よりも自身の判断を優先させたという点で稀有な例である。

本来ならば、トランプの弾劾という重要な問題では党利党略の政党政治から抜け出て、国民から選ばれた連邦議員として、ダメなものにははっきりと「ノー」と言えなくては政治家としての存在意義はない。

共和党議員で、トランプを敵にまわすと自分の政治生命が危うくなることはわかるが、それは政治家として本来すべき職務をしていないことになる。真実に目をむけて行動を起こしてない政治家がいかに多いかの証明にもつながる。アメリカの連邦議員、、、こんなものである。(敬称略)

2020年米統領選(16):バイデンの素顔

今月12日、民主党候補による第3回目のテレビ討論会が行われた。1回目と2回目は2日間にわたって行われた(計20名)が、今回から上位10名に絞られて一晩だけの舌戦となった。

以前にも書いたが、討論会では各候補は45秒から1分間で質問に答えなくてはいけないため、テレビ的に「目立つ発言」を繰り出す傾向があり、候補の全貌を知ることにはならない。「瞬間芸」ができるかどうかを見定めるという点では有益だが、大統領としての資質や政策を理解するという点ではあまり役にたたない。

候補の人となりや基本的な考え方を知るには候補が出演したテレビ番組や、メディアとの長いインタビューを精査するのがいい。候補が番組のMCと20〜30分ほど落ち着いて話をするトークショーなどでは、台本に書かれていない本音が表出して興味深い。

9月初旬、ジョー・バイデンがCBSのトーク番組『レイト・ショー(Late Show)』に出演した。同番組は1993年から2015年までデイビッド・レターマンが司会を務めた名物番組で、私は番組が始まった年から日本に戻る2007年までずっと観ていた。

15年からは司会がスティーブン・コルバートに代わったが、小気味いいしゃべりと巧みにイマを切り取るセンスに感心させられている。そこにバイデンがゲスト出演したのだ。同番組には4回目の出演で、おしゃべりなバイデンらしさがでていて、人間バイデンが手に取るようにわかる。

コルバートとの会話の中で目をひいたのは、大統領選出馬の動機だった。コルバートがどうして出馬したのか、まっすぐな質問をすると、バイデンは一呼吸おいてから「シャーロッツビルだね」と、まるで孫に話をするかのような自然体で語ったのだ。

どういうことかというと、バージニア州シャーロッツビルで17年8月、白人至上主義者と反対派による衝突があったのだ。ネオナチを名乗る男が車で反対派に突っ込み、死傷者をだした。この事件を契機に米社会が抱える人種問題の亀裂が再び表面化した。

バイデンは番組でこう言ったのだ。

「アメリカという国の魂を誰かが回復させなくてはいけない」

元副大統領はすでに十分な資産を手にしていたし、76歳になったいま、敢えて大統領を目指す必要はないかに思われた。だが国家が分裂し、人が傷つき、トランプ大統領が解決への手立てをとらない中で、「自分がやるしかない」と思ったという。

これが100%の動機であるかはわからない。けれども、76歳のおいじちゃんが思い当たる動機としては十分に説得力がある。本当であることを祈りたい・・・。

Photo courtesy of CBS News

2020年米統領選(15):勝負は5州

来年の大統領選(11月3日)まで、まだ1年以上の月日があるが、現職トランプと民主党候補が実際に勝負することになる州というのがすでに決まっている。

下記の地図をご覧いただきたい。

2020map

(地図はクリックすると大きくなります)

赤色(ピンクも含む)の州がほぼ間違いなくトランプ(共和党)が獲得する州であり、青色の州が民主党候補が奪う州である。薄茶色が激戦州で、現段階ではどちらが獲るかわからない。

大統領選は総得票数で争う選挙ではなく、州の奪い合いの選挙である。人口比でそれぞれの州に割り当てられた数字(選挙人)を足していき、安定多数(過半数)の270以上を獲った候補が勝ちとなる。ちなみにカリフォルニア州がもっとも人口が多いので選挙人数は55、モンタナ州やノースダコタ州はそれぞれ3が割り当てられている。

フロリダ州、ペンシルバニア州、ミシガン州、ウィスコンシン州、アリゾナ州はどちらに転ぶかわからないので、上記の5州でどう勝つかが来年の選挙の真の姿と言って差し支えない。(敬称略)

2020年米統領選(15):現時点の順位

7月末に行われた民主党候補による2回目の討論会も終わり、候補もほぼ出そろった。正式には年末まで出馬できる機会はあるが、主要候補はほぼ出馬表明を済ませている。ここまで民主・共和両党、そして独立候補も含めると807名が2020年大統領選に立候補している。

共和党はトランプでほぼ間違いないが、民主党は第1回目、2回目の討論会でそれぞれ20名ずつが参加した。年内にあと4回予定されており、3回目は9月12、13日にテキサス州ヒューストンで行われる。実際には上位7名に絞られるだろう。その7名の名前を挙げておく(世論調査を行っている10団体の数字を参照)。

1 ジョー・バイデン(76)

2 バーニー・サンダーズ(77)

3 エリザベス・ウォーレン(70)

4 カマラ・ハリス(54)

5 ピート・ブダジャッジ(37)

6 ベト・オルーク(46)

7 コーリー・ブッカー(50)

テレビの討論会は候補が政策を述べて議論する場のはずだが、実際には顔をみせて、「話しぶり」を有権者にわかってもらう場ににすぎない。各候補に与えられた1回の時間は45秒に過ぎず、ほとんどまともな内容は話せない。いかに話をコンパクトにまとめる術を持っているかどうかの勝負になり、本質的な議論になっていないのが残念だ。

2020年米統領選(14):新たな候補

民主党から新たな候補が出馬した。トム・ステイヤー(62)。

すでに主要候補20名による第1回目の討論会が終わり、出馬の時期としては遅いとの見方もある。だが、来年2月3日から始まる予備選まで半年以上もあり、問題はないだろう。

むしろあと出しジャンケンのように、遅れての出馬の方が注目されることもある。アメリカの大統領選には選挙期間が定められていないので、いつ出馬してもかまわない。問題は出馬のタイミングよりも、ステイヤーの主張がどれだけ有権者に受け入れられるかである。

steyer7.11.19

from Twitter

ステイヤーはヘッジファンド(資産運用)企業ファラロン・キャピタル・マネジメントを26年間も経営し、2012年に同社の株式を売却して多額の資産をえた。現在の個人資産は約1720億円。大統領選出馬にあたり、アメリカ社会の貧富の差の是正に努めたいと言い、半分の資産を寄付しても構わないと述べている。

ステイヤーはまた、多額の政治献金をする人物としても有名で、2016年大統領選ではヒラリー・クリントンと民主党に約70億円もの献金をした。環境問題に対する意識も高く、クリーンエネルギーの推進に力をいれ、自らも「ネクストジェン・クライメイト(NextGen Climate)」という環境団体を設立している。

今回の出馬ではまた、トランプ弾劾の必要性を訴えており、どれだけ有権者の心を震わせられるかが見ものだ。(敬称略)