選挙戦略を変えたバイデン:「トランプは実存的脅威」

バイデン大統領はこれまでの選挙戦で、自身の大統領としての成果や実績を喧伝することに多くの時間を費やしてきた。だが支持率は上がるどころか下降しており、不支持率の方が高くなっているのが実情なので、バイデン氏は最近になって対抗馬の共和党トランプ候補を攻撃することに重きを置く選挙戦略にシフトしはじめた。

そして2月7日、ニューヨーク市で選挙活動を行ったバイデン氏はトランプ氏に痛烈な批判を浴びせた。使った言葉は「実存的脅威( existential threat )」である。実存的脅威という言葉の意味は平たくいえば「人類の存続を脅かす」ということで、それがトランプ氏であると断言したのだ。

「 There is only one existential threat we face in the world(世界が直面する実存的脅威がたった一人いる) 」

つまり存在そのものをが危険であり、真っ向から否定されてしかるべき人間であるというのだ。

さらにバイデン氏は連邦議会の共和党議員たちが盲目的にトランプ氏を推していることを厳しく非難。議会における共和党は機能不全に陥っているとした。そして彼らが「問題を解決するために(議会に)いるのか、それとも武器として利用するためにいるのか」と疑問を投げつけた。そしてトランプ氏は民主主義にとっての脅威であり、個人の自由を脅かす人物であるとの見方を強めている。

支持率の推移を眺めると、最近はほとんどの州でトランプ氏がバイデン氏を数パーセントリードしているが、こうした個人攻撃が功を奏するのかどうかは微妙なところだ。

バイデン圧勝:サウスカロライナ州

2月3日にサウスカロライナ州で行われた民主党予備選で、現職バイデン大統領が快勝した。開票率50%の時点で、バイデン氏の得票率は96.4%という数字で圧勝である。

以前から記しているとおり、私は大統領選を「自身のライフワーク」と述べている通り、これまで長期に渡って選挙を取材し、さまざまな媒体で報道してきた(1990年から)。過去、この段階ですでに民主・共和両党の代表がほぼ決まってしまったことは珍しく、そういう点では選挙への関心が一気に薄れてしまったことは否めない。

予備選は全米50州が独自に選挙を行い、それぞれの州がどの候補を大統領として相応しいかを決める戦いだが、バイデン対トランプという対戦相手が決まってしまったことで、今年6月8日まで続く予備選は形骸化してしまう。両者にはとことん政策を議論してほしいと思う。

トランプ勝利:ニューハンプシャー州

米時間23日に行われた米大統領選ニューハンプシャー州予備選で、米メディアは開票率35%で共和党ドナルド・トランプ氏に当確をだした。

現時点(日本時間24日午前11時20分)でトランプ氏は53.6%の得票を得ており、アイオワ州に続いてニューハンプシャー州でも勝利をおさめた。予想どおりの展開で、筆者にとっては少しばかり拍子抜けするが、このままいくと11月の本選挙はますます「トランプ対バイデン」という対決になりそうだ。

トランプ氏の強さの理由は当欄で記したとおり(トランプが強い理由)。

トランプが強い理由

米大統領選の候補者選び(共和党)で、予備選最初のアイオワ州でトランプ前大統領が圧勝した。先週まではライバル候補のニッキー・ヘイリー氏やロン・デサンティス氏に追い上げられ、トランプ氏は苦戦を強いられるとの見方もあった。

だが蓋をあけると、トランプ氏の得票率は51%で、2位のデサンティス氏の21%をダブルスコア以上で負かした。しかも驚かされるのは、アイオワ州にある99の郡の中で1郡を除いてすべてでトランプ氏がトップにきたという点である。

あらためてトランプ氏の強さがどこにあるのかを分析してみたい。最初は昨年8月31日の当ブログで指摘したとおり(トランプの支持率がいまだに高い理由)、アメリカでは近年、世間の関心が女性やマイノリティーにいきがちで白人男性が社会的に軽視される傾向があることから、白人男性からの逆襲的な意味合いで、トランプ氏に支持が集まっている側面がある。トランプ氏の支持者の多くが白人の中高年男性で、「いま米国で最も軽視されているのが我々」といった被害者意識がトランプ支持に集約されたといえる。

別の理由は、バイデン氏をはじめとする多くのアメリカ人は多様な文化を尊重する「多元主義」を信奉しているが、南部を中心にした白人層にとっては、それほど多様ではない小さな都市にこそ「本当のアメリカ」があると捉えている。トランプ氏はその考え方を携えているため、古き良きアメリカを再び具現化してくれるとの願いからトランプ氏に支持が集まっている。

さらに保守派の白人たちにとって、トランプ氏はある意味でヒーローであるとの見方がある。背が高く、碧眼で、経済的に成功し、多くの困難を乗り越えてきた人物であることからカウボーイに見立てており、単純明快な論理でものごとを推し進めていける成功者であるとみている。トランプ氏が大統領になれば、再び古きよきアメリカが戻ってくるとの願望が根底にある。

まだ予備選も1州が終わっただけに過ぎないが、11月5日の本選挙では「バイデン対トランプ」の戦いの可能性がさらに強まってきた。

ニッキー・ヘイリーという候補

今年11月の大統領選挙は、現職のジョー・バイデン大統領(民主党)とドナルド・トランプ前大統領(共和党)の戦いになる可能性が高いが、いまトランプ氏に猛追する共和党候補がでてきている。

元国連大使だったニッキー・ヘイリー氏(51)だ。最初の予備選が行われるアイオワ州(党員集会:1月13日)では昨年11月時点で、同氏はトランプ氏から12ポイントの差をつけられていたが、CNNが行った最新の世論調査では、トランプ氏の39%に対してヘイリー氏は32%にまで迫ってきている。

Nikki Haley (@NikkiHaley) / X
from X.com

トランプ氏はこの結果を出した世論調査を「フェイクだ」と糾弾したが、有権者の中に反トランプの流れが確実に広がっているとみていい。

ニューハンプシャー州にあるセント・アンセルム大学の教授で、大統領選の研究をしているクリストファー・ガルデリ氏は、最近の世論調査について、「これはヘイリー氏がトランプ氏に代わる主要候補として浮上していることを示すもの」と述べており、トランプ氏が負かされる可能性も示唆している。

しかし、政治問題を専門にしているウェブサイト「FiveThirtyEight(538)」によると、アイオワ州と、ヘイリー氏の地元サウスカロライナ州では、トランプ氏がそれぞれ51%と53%という過半数の有権者から支持を得ており、トランプ候補が依然として優勢であることに変わりはない。ただ選挙戦がより興味深くなってきたことは間違いないため、目が離せなくなってきた。