スーパーチューズデー(3):トランプ好きの精神構造

トランプ氏がスーパーチューズデーで圧勝したことにより、11月の本選挙は「バイデン対トランプ」という流れができた。米国では約半数の有権者がトランプ氏を推しているかに思えるが、米独立調査機関「ピュー・リサーチセンター」の調査によると、63%の米国人はトランプ氏を「好ましくない」と答えていることがわかった。

63%もの反トランプ派がいながら、なぜ予備選ではトランプ氏に票が集まり、共和党の代表候補になろうとしているのか。そこにはなかなか表には出てこない人間の心理が作用しているかにみえる。

かつてドイツにエーリヒ・フロムという社会心理学者がいた。同氏が書いた『 自由からの逃走 』という本を読むと、人間は何故ヒトラーのような独裁者であり殺人者を支持するようになったかが解き明かされている。トランプ氏はヒトラーではないが、ある意味で横暴で独善的な行動をとりがちな政治家という点では共通項があり、いつの時代でもこうしたリーダーは一定層の市民から支持を得ることができるという。

人はおうおうにして特定の人に従属し、破壊行為に加担したり、独裁的な政治体制に身を置くことがある。組織を破壊にまで追いやるリーダーの愚行に熱狂的なまでにつき従う追随者が存在しもする。時に人は追随することの心地よさを知ると、リーダーが多少非倫理的なことをしても許容し、つき従うというのだ。

同時に、多くの人は生きている間中、従う相手を求めている。つき従うことの心地よさを覚えると、絶えず導いてくれる人を求めるものだという。そうした点では、良い悪いは別にすると、トランプ氏は強いリーダーといえるのかもしれない。 『 自由からの逃走 』 を読みながら、そんなことを考えた。

スーパーチューズデー(2)

米時間3月5日(火)は全米15州と米領サモアで予備選が同時に行われるスーパーチューズデー。この原稿を書き始めた日本時間6日午前11時10分の時点でもすでにドナルド・トランプ氏が圧勝の形勢で、予想どおり対抗馬のニッキー・ヘイリー元サウスカロライナ州知事に大差をつけている。

「あのトランプ氏がどうして支持されるのか」との思いを抱かれる方は多いかと思うが、これまで当欄で記してきた通り(トランプが強い理由)(トランプの支持率がいまだに高い理由)、バイデン氏に対する失望や「トランプ復活」を願う有権者は思っている以上に多いことが今日の選挙結果で示されるかと思う。

Super Tuesday GOP National Map
from the New York Times

現段階ですでに15州中10州でトランプ氏に当確がでており、ほぼ間違いなく11月は「トランプ対バイデン」の戦いになるはずだ。

スーパーチューズデー

Super Tuesday contests next in 2024 presidential election - CBS News

米時間3月5日(火)に大統領予備選の前半の山場であるスーパーチューズデーが行われる。1日で15州と米領サモアで同時に予備選が行われ、民主党バイデン大統領と共和党トランプ氏がそれぞれの党代表になるために地歩をかためる。

今年、米市民は2度、投票所に足を運ぶ。最初は予備選であり、2度目は本選挙の11月5日である。当欄ですでに記しているとおり、民主党は現職バイデン氏が、共和党はトランプ氏が候補になる流れがすでにできている。その先を見据えて、トランプ氏はバイデン氏を破って大統領になる「ほぼトラ」という言われ方もされているほどだ。

ただトランプ氏はいま、全米3州(コロラド州、メイン州、イリノイ州)から2021年1月の連邦議会議事堂襲撃にかかわったとして、立候補資格を取り消されており、このままいくと同3州では勝てるチャンスがない。これは反乱等に関与した人物の公職就任を禁じる憲法修正第14条3項にしたがったもので、最高裁は今月、同件でトランプ氏の立候補資格の判断をするが、立候補が認められればこのまま選挙戦に残ることができる。

予備選は州ごとに人口比で割り振られた代議員を勝ち取っていくプロセスである。共和党であれば代議員総数は2429人、民主党は3936人で、州によって代議員のすべてを奪えるところと、得票率によって分けられるところとあるが、共和党であれば過半数の1215人を、民主党では1969人を獲得した時点で党の代表候補が決まる。

11月の本選挙まで2人がどういった政策を論じ、どういった戦術を繰り広げてくるかに注目したい。

選挙戦略を変えたバイデン:「トランプは実存的脅威」

バイデン大統領はこれまでの選挙戦で、自身の大統領としての成果や実績を喧伝することに多くの時間を費やしてきた。だが支持率は上がるどころか下降しており、不支持率の方が高くなっているのが実情なので、バイデン氏は最近になって対抗馬の共和党トランプ候補を攻撃することに重きを置く選挙戦略にシフトしはじめた。

そして2月7日、ニューヨーク市で選挙活動を行ったバイデン氏はトランプ氏に痛烈な批判を浴びせた。使った言葉は「実存的脅威( existential threat )」である。実存的脅威という言葉の意味は平たくいえば「人類の存続を脅かす」ということで、それがトランプ氏であると断言したのだ。

「 There is only one existential threat we face in the world(世界が直面する実存的脅威がたった一人いる) 」

つまり存在そのものをが危険であり、真っ向から否定されてしかるべき人間であるというのだ。

さらにバイデン氏は連邦議会の共和党議員たちが盲目的にトランプ氏を推していることを厳しく非難。議会における共和党は機能不全に陥っているとした。そして彼らが「問題を解決するために(議会に)いるのか、それとも武器として利用するためにいるのか」と疑問を投げつけた。そしてトランプ氏は民主主義にとっての脅威であり、個人の自由を脅かす人物であるとの見方を強めている。

支持率の推移を眺めると、最近はほとんどの州でトランプ氏がバイデン氏を数パーセントリードしているが、こうした個人攻撃が功を奏するのかどうかは微妙なところだ。

バイデン圧勝:サウスカロライナ州

2月3日にサウスカロライナ州で行われた民主党予備選で、現職バイデン大統領が快勝した。開票率50%の時点で、バイデン氏の得票率は96.4%という数字で圧勝である。

以前から記しているとおり、私は大統領選を「自身のライフワーク」と述べている通り、これまで長期に渡って選挙を取材し、さまざまな媒体で報道してきた(1990年から)。過去、この段階ですでに民主・共和両党の代表がほぼ決まってしまったことは珍しく、そういう点では選挙への関心が一気に薄れてしまったことは否めない。

予備選は全米50州が独自に選挙を行い、それぞれの州がどの候補を大統領として相応しいかを決める戦いだが、バイデン対トランプという対戦相手が決まってしまったことで、今年6月8日まで続く予備選は形骸化してしまう。両者にはとことん政策を議論してほしいと思う。