トランプ勝利:ニューハンプシャー州

米時間23日に行われた米大統領選ニューハンプシャー州予備選で、米メディアは開票率35%で共和党ドナルド・トランプ氏に当確をだした。

現時点(日本時間24日午前11時20分)でトランプ氏は53.6%の得票を得ており、アイオワ州に続いてニューハンプシャー州でも勝利をおさめた。予想どおりの展開で、筆者にとっては少しばかり拍子抜けするが、このままいくと11月の本選挙はますます「トランプ対バイデン」という対決になりそうだ。

トランプ氏の強さの理由は当欄で記したとおり(トランプが強い理由)。

トランプが強い理由

米大統領選の候補者選び(共和党)で、予備選最初のアイオワ州でトランプ前大統領が圧勝した。先週まではライバル候補のニッキー・ヘイリー氏やロン・デサンティス氏に追い上げられ、トランプ氏は苦戦を強いられるとの見方もあった。

だが蓋をあけると、トランプ氏の得票率は51%で、2位のデサンティス氏の21%をダブルスコア以上で負かした。しかも驚かされるのは、アイオワ州にある99の郡の中で1郡を除いてすべてでトランプ氏がトップにきたという点である。

あらためてトランプ氏の強さがどこにあるのかを分析してみたい。最初は昨年8月31日の当ブログで指摘したとおり(トランプの支持率がいまだに高い理由)、アメリカでは近年、世間の関心が女性やマイノリティーにいきがちで白人男性が社会的に軽視される傾向があることから、白人男性からの逆襲的な意味合いで、トランプ氏に支持が集まっている側面がある。トランプ氏の支持者の多くが白人の中高年男性で、「いま米国で最も軽視されているのが我々」といった被害者意識がトランプ支持に集約されたといえる。

別の理由は、バイデン氏をはじめとする多くのアメリカ人は多様な文化を尊重する「多元主義」を信奉しているが、南部を中心にした白人層にとっては、それほど多様ではない小さな都市にこそ「本当のアメリカ」があると捉えている。トランプ氏はその考え方を携えているため、古き良きアメリカを再び具現化してくれるとの願いからトランプ氏に支持が集まっている。

さらに保守派の白人たちにとって、トランプ氏はある意味でヒーローであるとの見方がある。背が高く、碧眼で、経済的に成功し、多くの困難を乗り越えてきた人物であることからカウボーイに見立てており、単純明快な論理でものごとを推し進めていける成功者であるとみている。トランプ氏が大統領になれば、再び古きよきアメリカが戻ってくるとの願望が根底にある。

まだ予備選も1州が終わっただけに過ぎないが、11月5日の本選挙では「バイデン対トランプ」の戦いの可能性がさらに強まってきた。

ニッキー・ヘイリーという候補

今年11月の大統領選挙は、現職のジョー・バイデン大統領(民主党)とドナルド・トランプ前大統領(共和党)の戦いになる可能性が高いが、いまトランプ氏に猛追する共和党候補がでてきている。

元国連大使だったニッキー・ヘイリー氏(51)だ。最初の予備選が行われるアイオワ州(党員集会:1月13日)では昨年11月時点で、同氏はトランプ氏から12ポイントの差をつけられていたが、CNNが行った最新の世論調査では、トランプ氏の39%に対してヘイリー氏は32%にまで迫ってきている。

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トランプ氏はこの結果を出した世論調査を「フェイクだ」と糾弾したが、有権者の中に反トランプの流れが確実に広がっているとみていい。

ニューハンプシャー州にあるセント・アンセルム大学の教授で、大統領選の研究をしているクリストファー・ガルデリ氏は、最近の世論調査について、「これはヘイリー氏がトランプ氏に代わる主要候補として浮上していることを示すもの」と述べており、トランプ氏が負かされる可能性も示唆している。

しかし、政治問題を専門にしているウェブサイト「FiveThirtyEight(538)」によると、アイオワ州と、ヘイリー氏の地元サウスカロライナ州では、トランプ氏がそれぞれ51%と53%という過半数の有権者から支持を得ており、トランプ候補が依然として優勢であることに変わりはない。ただ選挙戦がより興味深くなってきたことは間違いないため、目が離せなくなってきた。

「バイデン氏は来年ホワイトハウスから追い出される可能性あり」

上記の発言をしたのは前大統領のバラク・オバマ氏である。同じ民主党の政治家が「現職が危ない」と黄信号を灯したのだ。オバマ氏は米ウォールストリート・ジャーナル紙の取材に本音を語ったのだが、現時点では現職バイデン大統領と共和党のトランプ氏の支持率はほぼ互角。状況をつぶさに眺めると「両者に勝つチャンスがある」と述べた方が正確だろうかと思う。

ただ、RealClearPoliticsという政治ニュースサイトの世論調査では、現在トランプ氏がバイデン氏を2ポイントリードしており、オバマ氏は「接戦になることはわかっているが」と前置きした上で、トランプ氏が勝つ可能性を指摘し、「この選択肢は民主主義にとってかなり危険だ」と発言。ただ数週間前は、逆にバイデン氏がトランプ氏を数パーセントリードしており、まだまだ両者の戦いは混戦が続くと思われる。

以前から述べているとおり、来年の本選挙が「バイデン対トランプ」になることは今後大きな番狂わせがない限り変わらないが、私が指摘したいのは、民主党レースから外れて独立候補として選挙にとどまっているロバート・ケネディ・ジュニア氏の動向がカギを握るかもしれないということだ。

10月9日に ペンシルべニア州で、「バイデン氏とトランプ氏の好感度はいずれもマイナスの領域に入っている。これは2大政党政治がもたらしたものである。2つの政党からの独立を宣言する」 と述べて、独立候補として大統領選を戦うことにしたケネディ氏。3者が戦った場合の直近の数字をみると(Fox news)、トランプ氏が36%、バイデン氏が31%、そしてケネディ氏は16%で、ケネディ氏に勝つチャンスはほとんどない。

だが レースに残って戦い続けるかぎり、 バイデン氏の票を奪うことになるため、結果的にトランプ氏を勝たせることになりかねない。

過去100年の大統領選を眺めても、第三政党の候補が勝ったことはなく、ケネディ氏は自身の立ち位置を精査して進退を決める必要がある。

「バイデンは勇退すべき」の声

今月20日に81歳になったジョー・バイデン大統領。高齢であっても来年11月の大統領選挙にむけて着々と選挙活動を展開しており、本人はやる気満々である。現職ということもあり、民主党では現在向かうところ敵なしという状況だ。

米政治に特化したウェブサイト「FiveThirtyEight」の最新世論調査によると、党内でのバイデン氏の支持率は67.7%で、2位の作家マリアン・ウィリアムソン氏の7%を大きく引き離しており、独走状態が続いている。

ただこのところ、党内からは「やはり勇退すべきではないのか」との声が大きくなっている。歩く姿をみても、ポツポツとしか足を進められないといった様子で、当選してもあと4年間大統領を務められないだろうとの思いを抱く人は少なくない。

いま民主党内で議論がまき起きているのが、「バイデン氏が再選を望まないとしたらいったい誰を次期大統領候補にすべきか」という点である。出馬しているウィリアムソン氏は著述家として名前は知られていても、政治の世界では大きな期待はもたれていない。

バイデン氏勇退の場合、いまから若い候補を擁立することは難しく、民主党が今よりも有利になる可能性は極めて低いというのが共通する認識だ。となると、いまの副大統領のカマラ・ハリス氏を起用することがもっとも現実的なチョイスと言われているが、ハリス氏の支持率はCNN調査によれば33%でしかない。人気がないのだ。

本選挙でトランプ氏と戦った場合、民主党が勝てるチャンスはかなり低くなる。あとはカリフォルニア州のキャビン・ニューサム知事を起用するという手もあるが、トランプ氏を負かすことはできないというのが現時点での見立てだ。いずれにしても民主党は苦しい戦いを強いられることになる。さて、どうなるのか。