全面戦争を憂う

ロシア軍は10日、ウクライナ全土の20カ所以上にミサイル攻撃や空爆を行った。クリミア大橋で8日に起きた爆発の報復であると、プーチン大統領は断言しており、これはもう、今年2月に始まった「ロシア対ウクライナ」の争いが全面戦争に入ったとみていい。

プーチン氏は これまで、ウクライナへの侵攻はあくまで「特別軍事作戦」でああって、「戦争」「攻撃」「侵攻」と表現することは違法であるとしてきた。 「虚偽の情報を広げた場合には刑事罰を科す」との法律を発布したほどである。だが、10日の首都キーウをふくめた広範な地域への軍事攻撃は、あらためてウクライナに宣戦布告をしたと言って差し支えないだろう。プーチン氏自身が戦争という言葉を使うのは時間の問題かもしれない。

私が憂慮するのはここからである。米国は先月末の段階で、すでに 162億ドル(約2兆3000億円)もの軍事支援をウクライナに行ってきたし、今後も継続して支援する姿勢を示している。プーチン氏が今後、戦争という言葉をつかい、ウクライナだけでなく、支援国家とも剣を交えることになると、最悪の場合は第三次世界大戦という流れになりかねない。

その時にネックになるのはやはりプーチン氏という独裁者の思考である。単独の権力者が国家の進む道を決め、盲目的といえるような政治決断をすることで負の連鎖がうまれる。被害者はいつの時代でも一般市民である。

なんとしてもプーチン氏の愚行を止めなくてはいけない。

素晴らしき人生

「92歳になったいまも、幕末明治にまつわる文献の山と格闘しながら、週に原稿用紙6枚のペースで執筆を続ける、、、」  

こんな書き出しで、今朝の朝日新聞17面に、ある思想史家の記事が掲載されている。渡辺京二さんは今年7月に『小さきものの近代1』(弦書房)という最新刊を出版。これまで40冊以上の書籍を出版してきてなお、高齢を理由に執筆をやめようとしない。

「読めば読むほど、読むべき資料が増えていく。楽しい晩年のはずが、なぜこんなにしんどいことを続けているのでしょうね」と言うが、本人にとってはモノを読み、執筆することこそが生きがいであり、生きている証を感じられることなのだろうと思う。

いくつになっても人間はやり甲斐をみつけ、追求することが大切であることを教えられる。私もいちおう「モノ書き」を生業にしているが、渡辺さんの年齢まで書き続けていられるか疑問である。

自身にノルマを課しているようにも思えるが、それでも「休んでもいいんじゃない」「そんなに頑張らなくてもいいよ」といった内なる声が湧き上がってきて、年齢を重ねるに従って自分に甘くなる気がしている。

さあ、ピシッと小さな鞭を打ってみますか。

トランプの暴挙

ドナルド・トランプ前大統領は3日、CNNに対して4億7500万ドル(約690億円)という途方もない額の損害賠償訴訟を起こした。トランプ氏は訴状の中で、「(CNNは)政治的に(トランプ氏を)敗北させる目的で中傷している。2024年の大統領選に出馬させないようにするため、誹謗・中傷キャンペーンを行い、過去数カ月でそれはエスカレートしている」と糾弾した。

メディアが批判的な目で社会の事象や人物を斬るのはいつの時代でも行われてきたことである。確かにCNNはリベラル派のテレビ局として反トランプの論調を張っているが、それだからといって690億円もの損害賠償請求をおこなう図太さと利己的行為には呆れてしまう。

メディアが大統領に対して厳しい意見を述べ、批判的な論調を張るのはアメリカ文化の伝統であり、それに目くじらを立てるだけでなく、損害賠償請求を起こすということは、そこから逆に利益を得ようという目論見があるとしか思えない。

ワシントン・ポスト紙は今回の訴訟で、トランプ氏をこう糾弾している。

「他のトランプ大統領の訴訟と同様、この訴訟も中身がない、もっとはっきり言えばゴミのようなものだ」

ノーベル医学・生理学賞

今年もノーベル賞の時期になった。3日は、医学・生理学賞の発表があり、ドイツのスバンテ・ペーボ教授の受賞が決まった。

当ブログで何度も書いているが、私はエイズの治療薬を開発した国立国際医療研究センター研究所長の満屋裕明氏ついての本を出版した関係で(エイズ治療薬を発見した男 満屋裕明 (文春文庫))、いくつかのメディアから事前に「満屋先生がノーベル賞をとった時はコメントをください」と頼まれていた。近年は毎年、この時期になると同じような連絡が入る。

満屋氏がAZTという世界最初のエイズ治療薬を開発したのは80年代。すでに40年近くたっているが、ノーベル賞は研究成果が発表されてから何十年かたったあとでも賞が授与されるので、毎年のように満屋氏は対象者の一人に挙げられている。

私が満屋氏に米首都ワシントンで最初のインタビューをしたのが1987年。それから満屋氏とは個人的に飲食をする間柄になり、つい最近も一緒に晩御飯を共にしたばかりだ。彼はノーベル賞については多くを語らないが、受賞すれば世界的に注目され、さらに研究が加速されていくことになるだろう。

ノーベル賞は一人の研究者が達成した研究結果に対する褒美であるが、それ以上に満屋氏の場合は、エイズというそれまで「不治の病」といわれていた疾病に治療の道筋をつけ、多くの患者の命を救ったという点で何にもかえ難い。「来年こそは」と思っている。