アメリカでは11月8日に中間選挙(4年ごとの大統領選の中間年)が行われる。連邦議会上院の3分の1議席(34)と下院の全議席(435)が改選される。歴史上、中間選挙はホワイトハウスに入っている政権党が議席を失うことが多く、今年も春先まで、民主党が議席を減らす公算が高かった。
しかし共和党の勢いが6月以降、衰え始めており、このままいけば11月の選挙では民主党が多数党を維持する可能性がでている。理由の一つはトランプ前大統領への支持が分裂しはじめていることだ。
2024年の大統領選に出馬する意向があるトランプ氏は、相変わらず党内では根強い人気を維持するが、機密文書持ち出しをめぐる様々な不正疑惑が浮上してきており、保守派の中にはいま「嫌トランプ派」が増えてきている。唯我独尊的な言動も、疎まれる理由になっている。
さらに過去3カ月、ある理由によって共和党よりも民主党に追い風が吹き始めてもいる。それは日本国内では大きな報道になっていないが、人工妊娠中絶をめぐる、ある判決が起因している。6月24日、米最高裁は1973年に認めた人工妊娠中絶の判断を覆したのだ。
過去半世紀、アメリカでは人工妊娠中絶は女性がもつ当然の権利であるされてきた。73年の「ロー対ウェイド事件」で、最高裁が人工妊娠中絶を認めたことによるのだが、その最高裁が6月の「ドブス判決」で、一転して中絶を違憲であるとしたのだ。
州によって判断はわかれるが、すくなくとも6月の最高裁判断以降、半数以上の州では人工妊娠中絶が違憲となってしまった。この流れはこれまで米女性が築いてきた権利がガラガラと崩れることに等しく、今後大きな変化がもたらされることになる。
そこでいま、女性や若者、そして民主党支持者が中心となり、中絶を支持する政治活動が活発化しており、11月の中間選挙にむけて有権者登録が増えているのだ。ドブス判決以降、民主党の新規有権者登録者数は、たとえばペンシルベニア州では共和党の約2倍になっている。さらに共和党寄りの中部カンザス州でもドブス判決後、女性の有権者登録数が2ケタも伸びている。こうした流れにより、中間選挙では上下両院で民主党が多数党になる可能性がでてきている。