にきり醤油の魔力

知り合いの編集者は1年の3分の2ほどを旅している。

国内外で実に多くの場所を訪れている。以前、彼と取材旅行中、「日本各地を回りながら、最高の醤油を探し求めていたんですが、ついに見つかりました」とうれしそうな顔でいう。訊くと、瀬戸内海の小豆島の醤油だという。

「堀田さん、すごいですよ。冷や奴をたべますよね。醤油がメインなんです。豆腐はワキで醤油がメインになるんです」

実は、妻が小豆島出身なので自宅では「島」の醤油を使っている。小豆島の醤油といっても醸造所はたくさんあり、「タケサン」「マルキン」「ヤマロク」「ヤマヒサ」など、どれも味わい深い。

それで満足していたが、最近、やはりうまい「にきり醤油」には負けるかなあという思いが強い。

「にきり」はご存じのように江戸前鮨ではかかせない醤油である。醤油を酒やみりんと合わせて火にかけ、文字どおり「煮切って」つくるが、鮨屋によって醤油、酒、みりんの比率が違う。かつお節を入れる店もある。

しかも、ウマイ鮨屋は1軒で何種類もの「にきり」を使いわける。旬のヤリイカに合わせるものと、白身のネタ、さらに赤身(マグロ)のヅケでは濃度が違う。和食の極致をみるおもいである。

さらに先日、銀座のある鮨屋で、にぎる前に一つ一つのネタを「にきり」にくぐらせ、すぐに「にきり」を紙に吸いとらせる技法をみた。すぐに質問した。

「ネタの水分をとるんです。さらにシャリとの相性もよくなります」

鮨はネタをごはんの上に乗せて食べるだけの、世界でもかなりシンプルな料理だが、奥は底が見えないほど深い。

                    

失敗からなにを学ぶのか

小沢一郎が『日本改造計画』を出版したのは1993年のことである。

翌94年、英語版『Blueprint for a New Japan』がでている。当時、私はワシントンにいたので、この英語版を読んだ。

         

                              

アメリカだけに安全保障問題を頼らず、国際的な役割を積極的に担っていくことを軸に、社会党(当時)との連携はできるだけとらず、小選挙区を中心にした多数決ですすめていく政治をめざした。それは細川政権で象徴されたように、自民党からの離脱を意味し、その姿勢は今も変わっていない。

小沢が当時から変わっていないことがまだある。カネに依拠する政治スタイルである。

昨年3月、西松建設疑惑の時にブログで書いたとおり(参照:転がり落ちる政)、不正なカネの受領がないかぎり、検察は秘書を逮捕しない。彼のボスであった田中角栄も金丸信も不正なカネを受けとった。

検察が厳格にコトを進めると、自民党の多くの議員は同じ運命をたどるだろうが、小沢のカネへの執着は二人のボスと何らかわるところがない。

金丸の時を思い出していただきたい。92年、東京佐川急便から5億円のヤミ献金があった。東京地検は金丸に対し、再三にわたって事情聴取を要請したが、彼は応じなかった。今と酷似する。

世間の風当たりはいまと同じように強く、金丸はいちおう罪を認めたかたちをとるために上申書を提出した。

そして地検は金丸を略式起訴にする。これはほとんど無罪放免にちかい処分である。実際は東京簡易裁判所から罰金20万円の略式命令をうけただけである。5億円で20万円である。

小沢と地検の攻防が金丸と同じ軌跡をたどらないことを祈るだけである。

アメリカで同じような罪で起訴されると、懲罰的な量刑もくわわって実刑100年ということがないわけではない。もちろんこれは死ぬまで刑務所からだなさいという司法の意志表示である。

田中と金丸の行状をつぶさにみてきた小沢はいったい何を学んできたのだろうか。(敬称略)

ハイチ大地震

中南米のハイチで13日(日本時間)に大地震が起きた。

マグニチュード7.0という数字は、地震の専門家でなくともこれまでの地震との比較からとてつもない揺れであったことが想像できる。

日本のメディアは地球のほぼ裏側ということもあってか、事実を淡々と伝える報道だ。けれども7.0という規模と震源地が首都のポルトープランスからほど近いということで心配である。

首相官邸はどう動くのだろうか。

「私が首相だったら」という勝手なシュミレーションを地震発生から2時間後、CNNを観ながら行った。日本時間13日の午前中だったので、その日の夜までに医師団を含めた国際緊急援助隊を200人ほど現地に派遣させる。

通常、こうした場合はハイチ政府からの要請を受けるが、こちらから要請を投げかける。もちろん日航のチャーター機を使う。

それでも現地に着くのはほぼ24時間後になる。状況に応じてすぐに増派も考える。早期に動かなくては意味がないので、かりに徒労に終わったとしても国際援助に動いたという意味で重要だ。

こうした緊急時の対応によって、一国のトップとしての資質がとわれる。アイデアは浮かんでも、それを実行するために外務省、消防庁、海上保安庁、JICAなどをフル稼働させなくてはいけない。超法規的な行動をとる必要があるので、それは首相権限として責任をもって動く。

本来なら自衛隊を派遣したいところだが、海外派遣は災害救助が目的でも法律の縛りがつよすぎて首相の一存ではむずかしい。ここが日本の弱さである。

AP通信は現地の政治家のコメントとして「死者は50万人に達するかもしれない」と伝えている。数字の信憑性はないが、それほど壊滅的な損害を受けているということで、日本も迅速に救助に動くべきである。

情報を待っていてはいけない。情報収集と政治決断は間断なくおこなうものである。

丸一日たっても鳩山が動いたというニュースが伝わってこないのが残念である。(敬称略)

                             

オバマ政権、もうすぐ1年

by the White House

今月20日で、オバマ政権が誕生して1年になる。

昨年末、『プレジデント』誌上で4回にわけて「オバマの通信簿」と題した短期連載を行い、国内政治、外交、社会問題、日米関係という4分野にわたって初年度の評価を書いた。

誌上でも述べたが、私の総合評価は83点である。

支持率は政権発足当初から比べると30ポイント前後落ちたが、経済危機、イラクとアフガニスタンでの戦争、医療保険改革、教育問題、エネルギー問題などを考慮すると、いまだに50%前後の支持率を保っていることは十分評価すべきだ。ニクソン、カーター、パパブッシュ、ブッシュの各政権が不況に直面したときの政権支持率は軒並み20%代である。

ただ初年度からあまりに多くの難題に同時に取り組みすぎているきらいはある。欲張りすぎとも思えるほどだが、それが彼の公約だったし、中間選挙前までにいくつかの案件のカタをつけておく必要があるので、駆け足ですすむのは致しかたない。 

というのも、中間選挙で民主党はほぼ確実に議席を失うからだ。「やるべきことは今のうちに」ということである。現在民主党は上院で60議席、下院でも256議席(全435議席中)を維持しているが、今年11月の選挙では両院で議席を失う。しかし共和党に過半数を奪われることはないだろう。

目の前にある課題は、すでに上下両院を通過している医療保険制度改革法案をすみやかに法律にすることであり、テロ対策強化である。アルカイダによるテロ未遂事件があったばかりなので、

「アルカイダとは戦争状態にある」

という言葉は真剣である。そのため今のオバマに普天間に気をとられている時間はない。(敬称略)