ガスマスク配布開始

タイトルだけを読まれると、何のことかと思われるだろう。

日本の大手メディアがほとんど報道していないニュースなので致し方ない。

イスラエル政府は7日から、全国民に対してガスマスクの配布を始めた。国民全員に行きわたるように800万個を用意し、2013年までに配布を終わらせるという。これはもちろんイランからの生物・化学兵器の攻撃に備えてのことである。 

実は、イスラエル政府は1月5日にガスマスクの配布を決めていた。すでにテルアビブ市民などには配っていたが、いよいよ国民全員への支給を始めたのだ。日本人からするとただ事ではないが、イスラエルでは20年前の湾岸戦争時にもあったことで、日本人ほど驚いていない。

オバマ政権が7日発表した「核体制の見直し」(全49頁)には、イランと北朝鮮への核攻撃オプションも含まれており、アメリカとその盟友がイランをジワジワと追い詰めている現実がある。ガスマスク配布というのは社会に浮上した因果関係の一つに過ぎない。

私はオバマが昨年4月に宣言した核兵器廃棄という考えを全面的に支持している。しかし、アメリカには今回の「核体制の見直し」を手ぬるいとし、核兵器の全廃に反対する者も少なくない。

ピューリッツァー賞を受賞したコラムニストのマイケル・グッドウィルはその一人だ。ニューヨーク・ポストで書いている。

「核兵器を廃棄するという考えは右寄り左寄りといった政治哲学の問題ではない。アメリカ社会の健全さを脅かす子供じみた空想にすぎない」

もちろん彼の考えは、核兵器のある強いアメリカこそが世界の平和を死守できるというものだ。けれども、オバマらしさというのは理想主義の追求であり、それをを少しずつ現実の世界へ引き入れていくところに彼の政治的価値がある。そこが失せたらオバマではなくなる。

イランに対する核兵器使用のオプションというシグナルは、イラン人にとってもイスラエル人にとっても脅威であるが、私は「核体制の見直し」の結びにあった次の言葉に思いを託す。

「2010年版の核体制見直しの特徴というのは、全世界から核兵器を全廃するという究極的な目標にむけて活動することです。そればかりか、世界中で核不拡散体制を強化し、テロリストに核兵器や核燃料を入手させない手だてを図り、国際的な安全保障体制を強化していくことです」

イスラエルのガスマスクが無用の長物でおわることを祈りたい。(敬称略)

            

サクラの中へ

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生まれて初めて千代田区千鳥ヶ淵の桜を見にいった。

皇居のお堀にそって約700メートル。260本の桜が花弁を風にそよがせていた。折り重なるように枝をのばした木々は花のトンネルをつくり、見物客がそこを抜けていく。

木の下での宴会がまったく見られないところがいい。

薄ピンクの花冠をよく見ると、どこか寂寥感を漂わせている。短い命を象徴しているかのようである。お堀に垂れさがるようにして咲くここの桜は、「咲き誇る」というより「咲きこぼれる」という表現がふさわしい。

木々の本数ではここを勝る名所がいくつもあるだろうが、賑やかにして寂寞(せきばく)な桜はそう多くはない。

じつに日本らしい桜である。

テレビ、TV、てれび

4月から日本テレビNEWS24の「デイリープラネット」という番組の特別解説員になりました。CS放送なのでスカパーかケーブルでしかご覧になれませんが、時間のある時にご覧いただければ幸いです。初回は3月30日午後8時。

       

                      

アメリカ、国民皆保険へ

 by the White House

やっとこぎつけた。

連邦議会下院が21日、懸案の医療保険改革法案を可決した(写真は法案が可決した瞬間のホワイトハウス)。オバマはもちろん法案に署名するので、やっとアメリカにもヨーロッパ諸国や日本のような国民皆保険がうまれることになる。

しかし共和党議員は全員が反対した。いまの議会はこの分野ではみごとに二分されている。日本の政党のような党議拘束がないにもかかわらず、共和党議員は誰一人として賛成票を投じなかった。むしろ民主党から34名の反対票が入った。

共和党が反対する理由は議員によっても違うが、「保険業界が政府にコントロールされる」、「財政赤字がさらに増える」、「月々の保険料が増える」、「税金が無保険者に使われる」といった内容である。

保守系新聞ウォールストリート・ジャーナルは社説で「国民皆保険は健保システムと国家財政の破壊であり、アメリカの自由闊達な企業家精神と自由社会の気質、政府の役割に大きな疑問符が投げかけられる」とこきおろした。

だが、批判が本当に的を得ているかどうか、さらにアメリカ社会にとって有用なのかどうかは始めてみないと判明しない。私はアメリカが大枠の国民皆保険を作ったことは喜ぶべきことであり、「国家の義務」であるとの立場なので民主党の立場を支持する。課題の一つだった公的保険制度を創設できなかった点で、むしろ改革は手ぬるいと考える。

21日下院で通過した法案は、昨年一度通過した法案よりもさらに分厚く(2309頁)、コンピューターでダウンロードして条項を速読すると目が痛くなる。

法案内容の大半は、実はオバマが07年の大統領選で語った内容に準拠していることが再確認できた。というのも、当時オバマ案が成立すると10年間の政府負担は85兆円程度で、無保険者の1500万人ほどは救えないということだったので、ほぼその通りに「落ち着いた」という印象である。

ヒラリー案の方がむしろ徹底していて、無保険者全員をカバーし、予算もオバマ案の1.5倍ほどの規模だった。だから、オバマ案の方がより現実的であり、「とにかく国民皆保険をつくる」という意気込みが法案成立へと押し上げる結果になった。

ひとたび制度ができれば他のシステム同様、修正案で微調整し、将来は本当の意味での国民皆保険にしていけばいい。(敬称略)