米中間選挙:上院は民主党が多数派

米中間選挙が終わってそろそろ1週間が経とうとしている。選挙前は、共和党の圧勝という予想だったが、思っていたほど票は集まらず、上院は民主党が50議席に達したことで、トランプ氏の期待は外れることになった。下院は日本時間14日現在、いまだに最終結果が出ていない。

トランプ氏は2年前の再選で、バイデン大統領に負けた人物である。その敗者が中間選挙前に、自分こそが「共和党の顔」であるかのような振る舞いを見せていた。多くの米有権者にとって、トランプ氏のあさましさ、頑迷さは体験的によくわかっていることで、共和党が苦戦しても何も不思議ではなかったはずだ。

民主党だけでなく中道派の有権者からもトランプ氏は「よし」とされていなかった。選挙後のNBCニュースの世論調査では、回答者の72%がトランプ氏を「脅威」として捉え、共和党が苦戦したのはトランプ氏のせいであるとしていた。そもそもトランプ氏を党の前面に立てたことが共和党の敗因だったのだろうと思う。

ただ米議会政治を俯瞰的に眺めると、過去数年はほぼフィフティ・フィフティに議席が取り分けられていることがわかる。これは米国政治が右と左でほぼ均等に二分されているということであり、ある意味でバランスが取れていると言えるかもしれない。自民党が長年、過半数を奪い続ける日本とは明らかに違う政治の姿である。

米国では民主党政権が続けば、次には共和党政権が誕生し、そしてまた民主党が盛り返すという、一党だけに突出しない姿が何年も見られる。これは別に特定層の有権者がそう願っても実現されるわけではなく、全米レベルでどういった政治の在り方が国民にとって重要であるかが形となって表出しただけなのだろうと思っている。

中間選挙:開票まで1週間

今春まで、中間選挙は民主党有利で動いていた。だが「選挙は水もの」と言われるように、何が起きるかわからない。現時点の世論調査結果をみるかぎり、共和党有利で進んでいる。

というのも、米有権者の62%がバイデン大統領の仕事ぶりに不満をいだいているからだ。最近になって予想を上回るインフレ率が示されたことにもよるが、経済問題がバイデン政権の足かせになっている。私が渡米した1982年の頃から、「選挙は水もの」であると同時に「経済が結果を左右する」といわれてきた。有権者の懐ぐあいが悪ければ政権党が不利になる。

すでにホワイトハウスの民主党関係者ですら、連邦議会の上下両院で過半数を共和党に奪われるとの見方をしているという。さらにバイデン氏の個人的な支持率は40%で、9月よりも2ポイント下降した。

それでも今年6月24日、 米最高裁が1973年に認めた人工妊娠中絶の判断を覆したことで、女性の中絶権が奪われたとして民主党に追い風が吹いてもいた。若者や女性の有権者登録も増えた。だが10月になって中絶の権利保護を争点にすえていた戦略は「ピークアウト」し、勢いがなくなり、連邦下院はいま共和党が過半数を奪う公算が強まっている。

上院は接戦だが、共和党が両院の過半数を握る可能性が高まっている。

これを民主主義と言えるのか

イギリスに新しい首相が誕生した。

インド系のリシ・スナク氏(42)に個人的な敵愾心があるわけではないが、首相を選ぶプロセスに首をかしげざるを得ない。

イギリスといえば議院内閣制や二院制、複数の政党制など、世界中で採用されている民主主義の制度を生みだした国家であるが、今回のスナク氏を選択したプロセスは旧態依然としており、「2022年になってこれでいいのか」という思いを抱かざるを得ない。

というのも、トラス氏が首相を辞任した後、保守党内で党首選を行って新たな党首(首相)を選ぶ流れの中で、今回はスナク氏だけが立候補したのである。単独の候補がそのまま選ばれ、イギリスという国家の首相に収まるのである。それが「決まりごと」であることはわかるが、本当にこれが民主主義と呼べるのかと本質的な疑問を投げたい。

日本と同じで、一般の有権者は首相選に一票を投じられない。それだけに一つの政党に所属する政治家だけに選ばれるプロセスが、真の意味で民主主義と言えるかどうか大きな疑問である。その点、有権者が一票を投じて大統領を決めるアメリカのシステムの方がより健全なのではないかとの思いがある。

議員内閣制のルールを変えることはかなり高いハードルであることはわかるのだが、今回のイギリスの件には苛立ちさえ覚えた。

ウクライナで戒厳令発動

20日早朝、ネットでニュース記事をひらくと、真っ先に「プーチン氏併合4州に戒厳令」というタイトルが飛び込んできた。

「やってくれるものである」というのが第一印象。多くの方も同じ印象を持たれたのではないだろうか。プーチン氏は9月末、ウクライナの4州(ドネツク、ルガンスク、ザポリージャ、ヘルソン)を自国領に組み込むと一方的に宣言。それだけでも「プーチンらしい横暴さ」がでた行動だと思ったが、今度は戒厳令である。

戒厳令というのは一般的に、戦時下において司法、立法、行政を軍部に任せるという意味である。正式にはロシアの上下両院の承認をへて発動がきまるが、プーチン氏が音頭をとっているかぎり、ほとんど決定と思ってさしつかえないだろう。

軍隊が社会を取り仕切るということは、民主的な手続きを踏まずにモノゴトが上からの命令できまるということであり、明確な理由がないままに、官憲に逮捕されることもあるということだ。もちろんウクライナ4州に住む多くの人たちは「たまったものではない」という思いを抱いているだろう。

上から強制的にモノを押しつけて、それで社会の平静が保てるとプーチン氏は本当に思っているのだろうか。歴史を振り返れば答えは歴然としており、早晩、プーチン氏は自身の政治生命の危機を迎えることになるだろうと推察する。

全面戦争を憂う

ロシア軍は10日、ウクライナ全土の20カ所以上にミサイル攻撃や空爆を行った。クリミア大橋で8日に起きた爆発の報復であると、プーチン大統領は断言しており、これはもう、今年2月に始まった「ロシア対ウクライナ」の争いが全面戦争に入ったとみていい。

プーチン氏は これまで、ウクライナへの侵攻はあくまで「特別軍事作戦」でああって、「戦争」「攻撃」「侵攻」と表現することは違法であるとしてきた。 「虚偽の情報を広げた場合には刑事罰を科す」との法律を発布したほどである。だが、10日の首都キーウをふくめた広範な地域への軍事攻撃は、あらためてウクライナに宣戦布告をしたと言って差し支えないだろう。プーチン氏自身が戦争という言葉を使うのは時間の問題かもしれない。

私が憂慮するのはここからである。米国は先月末の段階で、すでに 162億ドル(約2兆3000億円)もの軍事支援をウクライナに行ってきたし、今後も継続して支援する姿勢を示している。プーチン氏が今後、戦争という言葉をつかい、ウクライナだけでなく、支援国家とも剣を交えることになると、最悪の場合は第三次世界大戦という流れになりかねない。

その時にネックになるのはやはりプーチン氏という独裁者の思考である。単独の権力者が国家の進む道を決め、盲目的といえるような政治決断をすることで負の連鎖がうまれる。被害者はいつの時代でも一般市民である。

なんとしてもプーチン氏の愚行を止めなくてはいけない。