オバマ初来日

                by the White House

オバマが13日夜に初来日する。シンガポールのAPEC(アジア・太平洋経済協力会議)に出席するため、まず東京に立ち寄る。ビル・クリントンが98年、日本に寄らずに中国に行ったことから「ジャパン・パッシング(日本通過)」といわれて日本国内で騒がれたことをアメリカは忘れていない。

APECがなければ、今オバマが日本に来なければいけない理由はないが、来年で日米安保改定50周年を迎えることもあり、「安保再生」という意味合いで両国が同盟関係の再確認をすることには意味がある。けれども、両国首脳が顔を合わせると、いつも「日米同盟の重要性を確認した」と報道されるだけで、新しい安保の形にまではいたらない。

それは相変わらず日本が、アメリカの対応を気にした「こて先外交」に終始しているからにほかならない。

アフガニスタンの復興支援に5年で50億ドルをだすが、鳩山は先週「自衛隊をアフガニスタンの復興支援に派遣する発想を持ちあわせていない」と発言し、相変わらず「小切手外交」も繰り返している。

その背後には「アメリカを喜ばすため」という意識が見え隠れする。外交儀礼はどの国にもあるが、アメリカをことさら喜ばすために自国の意にそぐわないことをすべきではない。アメリカを恐れることはない。

アフガニスタンで本気の支援をしたいのなら、カネではなく人とモノを送り込んで現地政府と密接な連携を強化していくしかない。そのためにも、鳩山政権は日米安保を基礎にした、明確な日本の安全保障戦略を打ち出すべきである。いや、それこそが両国にとって、また東アジア地域、さらに地球全体にとって良策になるのである。

かりに自衛隊を送りたくないのなら、米軍のアフガニスタンからの撤退を促すと同時に、対テロ対策の別次元での対応策をうちださなくてはいけない。

鳩山が真剣に「日米の対等な関係」を望むのであれば、積極的に国際的な役割を果たさざるを得なくなる。いやそうしなくてはいけない。だが現状をみるかぎり、その可能性は低く、外交については昔のままの日本である。(敬称略)

「方針」という安全保障

民主党政権が誕生しても、「相変わらずだなあ」と思うのが日本の安全保障問題への姿勢である。

党内にはこれまでも安全保障問題に取り組んできた議員はいるが、党本部や国際局が外交政策や安全保障政策を国家戦略という立場から立案してきた経験がないので、あたふたとしたまま時間だけが過ぎている。こうした態度は自民党も同じだった。

なにより外務省に安全保障戦略の大局的なビジョンがないので、民主党が政権をとっても大きな変化はない。外務省の人間にこういう話をすると「そんなことはない」というが、大枠では日本は戦略をもたないと断言してもいい。 アメリカの態度を見ながら「方針」を決めてきただけである。

最近の普天間基地の移設問題が好例である。沖縄に住む人たちにしてみると移設は大きな問題だが、一国の安全保障問題の中の一案件であって、外相の岡田からも鳩山からも東アジアの安全保障の枠組みの中でどうしなくてはいけないという発言はきかれない。「方針」という言葉をつかっている。

これは日本が自分たちの安全保障戦略を敷いていない証拠である。それでなければ移設問題でこれだけの時間とエネルギーを費やすことはない。メディアの中にも戦略という概念を本当に理解し、そこから報道している記者はほとんどいないだろう。

それでなければ「普天間、普天間」と騒いだりはしない。というのも、それより大きな問題があるからだ。

インド洋上での給油問題にしても、継続するかしないかといった些末な議論ではなく、戦略としてアフガニスタンでの対テロ活動に法律の枠内で積極的に加担していくか、さもなければオバマ政権に米軍のすみやかなアフガン撤退を国際活動として進めていくかのどちらかの行動を起こすという自然な流れがある。

だが、相変わらずアメリカの顔色をうかがいながら「どうしようかなあ」という態度でいるのがいまの民主党である。

      

                                              by the Pentagon

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核兵器のない世界

24日の朝7時半からFMラジオのJ-WAVEに電話出演し、オバマの国連での核不拡散・核軍縮への取り組みについて話をした。

前夜、鳩山とオバマの初会談がニューヨークであったが、ディレクターは核問題に絞りたいという。なかなか分かった人である。番組では日米会談にはまったく触れずにオバマの核問題への姿勢と今後の課題についてだけナビゲーターの別所哲也と話をすすめた。

   

      

                                                            

鳩山が渡米前に少しばかりアメリカを挑発する論文を書いたからとはいえ、それで日米関係が音をたてて崩れることはない。アメリカ側からすると、日米会談は重要テーマではない。

「ジャパン」は案件ランクの中ではトップ10にさえ入らないだろう。それは両国が現段階で波風のない関係を維持しているという印でもある。新聞は日米同盟をことさら取り上げるが惑わされてはいけない。

理想主義路線をいくオバマの野望は、核兵器を「作らない、売らない、買わない」という不拡散と、保有国に対しては「減らしていく」という軍縮の流れをつくる点につきる。それは昨年の選挙中から念頭にあった「核兵器なき世界」への実現でもある。

4月にプラハで行った核廃絶の演説の内容を実現させたいとの意志が、安保理首脳会合での議長役を買った動きに表れている。アメリカ大統領でここまで大胆に踏み込んだ人はいなかった。

ただ核を保有する5大国をふくめ、インド、パキスタン、北朝鮮らがみずから核兵器を手放すことがあるかというと、残念ながらその答えは否定的である。先週までのアメリカ取材で話をした外交専門家は、「今後はサウジアラビアやヨルダンも核保有を探っており、保有国は増えこそするが減りはしないだろう」と現実の厳しさを語る。

オバマの取り組みは重要だし、世界的な動きとして推進すべきだが、国防長官のゲーツはアメリカの核弾頭の新型デザインを考慮しているくらいなので、廃絶にはあと10年はかかりそうな気配である。(敬称略)

民主党への風

総選挙が迫っている。

永田町の人間でも一般有権者でも今度は民主党が、との考えは共通している。

しかし、15年ほど日本の選挙を眺めている知人のイギリス人記者は、「俺は信じないね。いままで民主党には何度だまされてきたか。結果がでるまで民主党が勝つと思わない」と猜疑心が強い。

4日、外国特派員協会にやってきた政治評論家の伊藤惇夫も、「日本の選挙は『風』という不思議なものに影響されやすい。投票日の3,4日前にならないとわからない。民主党はこれまであと一歩という時にミスをおかしてきた」と追い風が吹いているはずの民主党に疑問符をつける。

だがジャーナリストの上杉隆は「いま全国300の小選挙区を歩いている。どこにいっても自民党へ懲罰的な『風』が吹いている。05年の郵政選挙とまったく逆のことが起きているので、民主党が勝つのでは」と、民主党が勝つ可能性が高いという。7月の都議選の結果が如実に物語るように、自民党に疑問を抱いた有権者が民主党候補に一票を投じると考えるのは妥当である。

都議選の期間中、候補を何人か取材した。実家のある中野区では、民主党から新人の西沢という30歳の青年が出馬していた。今春まで議員秘書をしていた快活な候補である。準備は十分でなかったし、有権者のほとんどは彼について十分な知識を持ちあわせていなかったと思う。しかし、トップ当選する。彼に限ったことではない。流れは完全に民主党の水域に入っている。

この現象は日本だけの話ではない。オバマ政権が誕生した理由の一つは、アメリカ国民が反ブッシュの勢いに乗ったからという解釈がある。オバマ本人への圧倒的な人気も理由の一つだが、共和党8年で大きく右に振れた政治の振り子が必然的に左に振れてオバマ支持が広がったという見方は的をえている。

麻生の支持率はいま20%に満たない。今月30日、日本政治の振り子も右から左に振れる可能性が高い。ただ政権交代によって国内外の問題が解決するわけではない。オバマ政権が金融不況という嵐の中の船出だったように、日本の民主党政権にも荒れた海が待ち受けている。 

たとえば民主党マニフェストには、約100人の国会議員を官庁に配置して官僚主導の政治を改めるとあるが、効力を発揮するかは疑問だ。前出の伊藤がきっぱりと言う。

「政府に送り込まれる議員は若い議員が多い。たぶん1週間で官僚に取り込まれてしまうでしょう」

 何ごとも勉強ではあるが、時間的猶予は長くないのである。(敬称略)

演説の力

やってくれるものである。

またしてもオバマの演説(カイロ大学での演説原稿)にうなってしまった。6月4日にエジプトの首都カイロで行った中東問題についての演説は、04年にオバマがボストンの民主党大会で行った演説を彷彿とさせた。ワシントンにいるアメリカの研究者と電話で話をしても、いつもは辛口の彼が褒めている。

イスラエルとパレスチナとの積年の紛争は、カリスマ性のある指導者がアメリカに登場しても容易に解決しないことは誰もがしる。ただ、こうした演説によって両サイドに和平へのビジョンを示し、その可能性を真剣に探りはじめた点で評価できる。

しかも、しっかりとカイロ大学という教育の場を選んだところにホワイトハウスのしたたかさをみる。一般大衆ではなく学生が聴くという前提を作って「聴きてください」という口調でものを語ったことで、演説はむしろ講義に近かった。もちろん意図された聴衆は学生ではなく15億人といわれるイスラム教徒とユダヤ教徒である。

現場で観たかったが、ユーチューブで観るだけでもオバマらしい演説の力を再び実感できた。場内にいると想起して演説を聴くと、力強さと説得力が耳に心地よい。コーランや聖書の一節が巧みに引用され、スピーチライターのジョン・ファブローが書いたと思われる巧みな表現が数多く登場する。

「分断されるより利害を分かち合う方が人間としてはるかに強い」

オバマの中東和平への希求は選挙中からぶれていない。07年初頭、オバマが大統領選挙の候補として浮上してきた時、イスラエルのハアレツ紙はオバマを「もっともイスラエルには好ましくない候補」として挙げた。逆に多くのアラブ人は、オバマであればこれまでの親イスラエル政策をとるアメリカ大統領と違って「アラブ人の味方」になってくれると期待した。

しかしオバマは選挙中、イスラエルを刺激する発言はひかえ、イスラエルのロビー団体「アメリカ・イスラエル公共問題委員会(AIPAC)」の年次総会にも出席し、イスラエルへの配慮を忘れなかった。それでもクリントンやブッシュと違うのは、5月18日にホワイトハウスでイスラエル首相のネタニヤフと会談した時、入植地の拡大を停止するように求めたことだ。冷静にみれば当たり前のことで、これまでの大統領が政治的しがらみから言えなかったことである。保守派のネタニヤフはもちろんこれを好まない。

そうした中、オバマはカイロ演説で、パレスチナとイスラエルとの2国家共存という野望をアメリカの理想主義の延長線上に投影させた。もちろん紆余曲折の多いイスラエルとパレスチナが、オバマの描くシナリオどおりに戯曲を演じるとは考えにくいが、腕のいい新人戯曲家が登場したということをあらためて世界は知った。

麻生や鳩山にこうした国際的な戯曲が書けるだろうか。イギリスのブラウンもフランスのサルコジも、ロシアのメドベージェフも無理だろう。世界のリーダーの中で、中東和平を実現できる可能性のある政治家は現時点でオバマしかいない。そのためには中東で利害をいだくプレーヤーたちが舞台に上がらないといけない。積極果敢な外交姿勢を期待したい。(敬称略)

『プレジデント・ロイター』での連載:「オバマの通信簿」