相変わらずタクシーにたくさん乗っている。運転手さんと話もしている。
私が最近、切り出す話題は東京都内の道である。ナビは便利だが、プロのドライバーである以上、道を知らなくてはいけない。
「運転するようになってまだ半年です」と、30代と思えるドライバーが言った。「私は運転手になる前の10年ほど、ある会社の営業職として毎日都内を走っていたんです。だから道には自信がありました。でも運転手になって、自分があまりにも道を知らないことを思いしらされている毎日です」
それほど道を知るということは奥深いらしい。昨年、ハンドルを握ってちょうど50年間になると言った71歳の運転手さんが述懐していた。
「3区わかればいいですね。それ以上は無理」
50年間乗っても、たとえば世田谷区、渋谷区、杉並区の3区がせいぜいだという。あまりに少なすぎやしないか。東京は23区もある。
ただ、今週も運転歴30年のドライバーが「2区わかればいい」という発言をした。
彼らにとっての「わかる」というのは、小道から路地まですべてを走り尽くし、どこを通ったらどこに抜けるかを熟知しているということらしい。彼がつけ加えた。
「普段あまり走りなれていない板橋区を走っていて、新しく乗せたお客さんが、たとえば「隅田公園(東京都墨田区向島にある隅田川沿いの公園)」と言った時です、大変なのは。幹線道路を使えばナビを使わなくともいけますが、裏道を使った最短ルートでは難しい」
何ごとも奥が深いということである。