タクシーの中へ(4)

相変わらずタクシーにたくさん乗っている。運転手さんとよく話もしている。

消費税が上がるのにともなって、初乗り値段も710円から730円になった。

だが売上が上がったという運転手さんは1人もいない。同時に、客数が大きく減ったという話もきかない。つまり値上げ前と後ではほとんど変化がないのだ。

「値上げで売上があがったというのは思い過ごしですね。ゼーンゼン変わりません。ハイ」(有楽町から日本橋までの運転手さん)

20円だけの違いでタクシーから足が遠のく人はほとんどいないらしい。むしろ景気はよくなっていないというのが、運転手さんたちの共通した思いだ。

「アベノミクスなんて、お兄さん(ありがとうございます)、実感あります?ないでしょう。5月の売上なんて、去年の方がよかったくらいだもの」(江古田駅から実家までの運転手さん)

大企業の中には「景況感が改善されてきた」というところもある。だが、それは本当にごく一部に過ぎない。なにしろ大企業というのは日本全国に約380万社の企業があるなか、たった0.3%に過ぎないのだ。

少し前、日本経済新聞の1面に「企業の景況感が改善」という見出しが躍った。直後に日経の記者と会う機会があったので、「あれは大企業だけと書かなくてはダメ」と言ったら、何も反論しなかった。

失業者が路上にあふれているわけではないし、暴動が起きているわけでもない。だが日本経済という言葉ではなく、一般の生活者が本当に収入がふえたとか、活気がでてきたという言葉を自然に口にするようにならない限り、アベノミクスが本物とは言いがたい。

タクシーの中へ入れば、それが如実にわかる。