GMの終焉

アメリカ政府がビッグ3を救済するかしないかの議論が続いている。

フォードは自力回復できる可能性があるが、GMとクライスラーはすでに倒産したと思ってさしつかえない経営状況である。私が2年半前、デトロイトで取材した時点で、すでに現地の評論家は「GMはいつ破産法第11章を申請してもおかしくない」とはっきりと言った。その時の原稿には、「2008年末までにGMは破綻する」と書いた。いままさにその時期がきている。

連邦上院は11日、ビッグ3救済法案を廃案にした。死に向かいつつある特定企業に多額の税金を割くべきではないという考えだ。妥当である。ところが、ホワイトハウスは何らかの救済措置を取るかもしれないという。私はGMの延命措置は無駄だろうと考えている。1兆円や2兆円くらいのカネの注入であの企業は改革できない。

モルヒネを何本か打つだけで、病魔は消えない。経営陣は10年以上前に抜本的な改革をすべきだったのだが、手をこまねいていただけだった。90年代半ばであれば救えただろう。だが、過去10年で彼らがやってきたのは工場閉鎖とレイオフを繰り返し、体重を落とすことくらいだった。内側からの本質的な改革には手をつけなかった。

全米自動車労組(UAW)との長年の契約で、「レガシー・コスト」と呼ばれる退職者の年金に多額の カネを割かざるを得ないという状況はよく理解している。だがGM内部の人間に話をきくと、「凍結した中間管理職」という言葉に代表されるように、あまりにも肥大化した官僚的組織の中で中間層が動かないという内部批判もある。さらに古い製造ラインがあまりにも多く、簡単に斬新なデザインの新車種に切り替えてゆけない。

GMの倒産による経済的打撃は大きいし、メディアはアメリカ製造業の終焉とさえ書くだろう。だが、破産法第11章の申請は、ある意味で本当のGMの改革の出発点となると考える。

まず経営陣をすべて一掃できる。現在のCEOワゴナーはGMの生え抜きである。GMの手あかのついた人間にはすべてお引き取り願って、外から人をいれる。そしてGMを車種ブランドごとに切り売りしたり、再建させる。日本でGM車を乗っている方は少数派だが、アメリカには根強いファンがいないことはない。

 「キャディラック」「ブュイック」「シボレー」「ポンティアック」「オールズモービル」といった車種ブランドの名前を聞けば、「ああ」と思われる方も多いと思う。大型車である「ハマー」もGMである。採算のとれそうなブランドだけを残し、あとは閉鎖である。長期的な改革計画を練って良質の車を製造してゆけば、復興は十分にあるだろうと考えるが、莫大な設備投資をしても構わないという買い手がどれだけいるか。

私は一刻も早く破産法第11章を申請すべきだと思っている。(敬称略)

ニューヨークの裁きの現場

取材でニューヨークにきている。普段あまり足を向けないアメリカの裁判所での取材である。内容は後日雑誌に掲載されるので、このブログでは雑誌には書けない「おもわずクスッ」という話をつづろうと思う。

マンハッタンのダウンタウンにある地方裁判所に朝から入った。前日に電話をすると「午前9時半から開廷するから、それ以後であればいつ来ても結構です」という。

裁判所の受付で持ち物の検査をする。カメラと録音機器は法廷内に持ち込めないので受付にあずけ、1階の一番奥の法廷にはいった。広報課の係官から「あの法廷が面白い」と勧められたからである。

その法廷では前日に軽犯罪を犯した容疑者が裁かれていた。傍聴席からみて正面左のドアから容疑者たちが5人くらいずつ入ってくる。

手錠をかけられている者はいないが、多くの容疑者の顔には一晩拘置所で過ごした疲れがでている。その中に身長160センチほどのダークヘアの男がいた。傍聴席からでも髭が濃いのがわかる。顔の下半分は黒ごまがまぶされたかのようだ。

その男は法廷内に入る時、ピョンピョンと飛び跳ねていた。歩幅が狭いのである。さらに両手が下腹部にある。最初は足かせと手錠をかけられているのかと思った。が、違った。

まず、スニーカーが大きいのだ。かかと部分は5センチほどの隙間があいている。さらに下半身は裸で、ブルーシートが巻きつけられていた。 

前日ニューヨーク市警に拘束された時、(たぶん)靴を失い、下半身はむき出しになっていたのだ。そのままでは入廷できないので、当局が靴とブルーシートを与えたと思われる。

名前を呼ばれて判事の前にくる時、縛り上げるようにしてビニールシートをもち、ピョンピョンとコミカルな動きをみせる。国選弁護士が横にたって判事の方を向いた男は判事の質問に答えている。その声はみょうに甲高く、元気な小学1年生のような受け答えである。

やり取りの内容は傍聴席まで聴こえなかったので、どういった罪で拘束されたかはわからない。泥酔して下半身をむき出しにして捕まったのかもしれない。

軽犯罪なので、容疑者の中にはその場で釈放されて傍聴席から退廷する者もいる。「ピョンピョン」も2分ほど判事とやりとりをした後、うしろから出ていった。

私はそれからしばらく傍聴席にいて、一人の検察官と話をしたあと退廷した。裁判所の外にでると、なんと「ピョンピョン」が歩道を歩いている。ビニールシートとスニーカーはつけておらず、下半身が涼しげだ。

うしろから見ると、シャツがぎりぎり局部を覆っており、超ミニのスカートを着ているようだ。その時である。前から歩いてきた警察官に「ピョンピョン」が甲高い声で言った。

「Have a good one, sir(ごきげんよう)」

おもわずクスッ、である。

ワッパーの威力

「ヤラレター」というのが正直な感想だった。

アメリカのテレビ・コマーシャルを観ていて、すぐにその商品が食べたくなった。こうした思いを抱くのは実に久しぶりである。

バーガーキングというハンバーガーのチェーン店がある。アメリカのフロリダ州マイアミに本社があり、世界65カ国で1万1000店舗をもつ。そこの売りが「ワッパー」である。日本には1993年にお目見えしている。

アメリカで最初にバーガーキングの店舗に入ったとき、なんと発音するのかわからなかった。「Whopper」とつづられている。最初、「フーパー」と言った。するとカウンターの向こう側にいた黒人の女性店員が小さく笑った。次に「ホーパー」と言ったら、彼女の笑いは大きくなった。

私は矢継ぎ早に「フッパー?ホッパー?」といったら、彼女はマネジャーを連れてきた。皆で涙を流さんばかりに笑っている。失礼な話だが、どういうわけか私も一緒に笑った。大笑いが一段落すると、彼女はやさしく「ワッパー」と告げた。そうだったのか、、、、。

出てきたサイズはそれまでのハンバーガーの3倍はあろうかと思えるほどだった。アメリカらしさを感じた瞬間だった。

そのバーガーキングがドッキリカメラのコマーシャルを制作した。現在、アメリカのテレビで放映されている。本物の客を相手に、店員たちは「もうワッパーは売らないんです。永遠にメニューから消えました」とやる。

Tシャツを着た長髪の青年は「ウソだろ」。「本当です」と店員が言うと、「ワッパーがあるからバーガーキングなんだろう。ないんだったらバーガークイーンにしちまえよ」とすごむ。ドライブスルーに現れた女性客は「店長を呼びなさいよ」と怒っている。中年男性は「そんなこといつ決めたんだよ。俺はマクドナルドは嫌いなんだよ」とまくし立てている。

見事である。コマーシャルとしては久しぶりに会心作を観た思いだ。面白いコマーシャルはたくさんある。笑ってしまうものも多い。けれども多くは商品と直接むすびついていない。コマーシャルに登場するキャラクターやストーリーは覚えているが、商品名や企業名がなかなか出てこないCFが数多い。

けれどもワッパーのドッキリコマーシャルを観て、すぐに頬ばりたくなった。実に久しぶりのことである。「ヤラレター」という思いは、企業側の成功の証しである。

リスのシチュー

アメリカは銃社会といわれる。

国内に出回っている銃砲の正確な数は誰もつかめていない。2億5000万丁とも3億丁ともいわれる。アメリカの人口は昨年10月に3億の大台に乗ったので、一人につき一丁というのがおおよその目安である。

銃が使われた事件もずいぶん取材しているので、よほどのことがないと驚かないが、先週、思わず「エーッ」と唸ってしまったことが二つあった。両方ともアメリカのできごとである。

一つはフォックスTVを観ていて驚いたニュースだ。テキサス州に住む男性が警察に電話をしてきた。会話はすべて録音されている。それがすぐにTV局に持ち込まれるところもアメリカらしいが、その録音テープの内容にびっくりさせられた。

電話をした男性の隣家に、二人の男が窓ガラスを割って侵入した。それを見た男性はすぐに警察に電話。警察官と会話をしながらこう言うのである。

「銃をもってくる。奴らを止めなくては」

午後2時。電話口の警察官が落ち着いた口調で諭す。

「家の中にいてください。警察官がいまそちらに向かっていますから」

「出てきた出てきた。撃つよ、撃つよ。このまま見過ごすわけにはいかない」

「いや家の中にいてください」

男性は電話を持ったまた外にでた。「オダブツダナ」と言ったあと、ガンショット3発。数分後に駆けつけた警察官が死亡した二人を確認した。

検察側はテキサス州法の自衛権を逸脱する行為だと主張。弁護側は自衛権の行使であると真っ向から対立している。男性が起訴されるかどうかは大陪審の判断にゆだねられている。

やってくれるものである。92年にルイジアナ州で起きた服部君事件を思い出した。犯人のピアースは正当防衛が認められて無罪になったが、私はいまでも過剰防衛だと思っている。銃社会の弊害以外のなにものでもない事件である。

そうしていたら、ワシントンの友人が電話でスゴイ話をしてくれた。彼は長い間、ワシントン郊外に一軒屋を借りて住んでいた。同時に、ウェストバージニア州に3000坪の土地と別荘を所有している。ウィークデーは借家に住み、週末は別荘で過ごすライフスタイルだ。だが、最近になって借家を引き払って別荘に住み始めた。

電話の向こうから、「ライフル銃を購入した」というセリフを聞いた。長いつきあいなので、銃所有にずっと反対していることは知っていた。だが今では銃の所有者になったという。

「隣人がハンターで、一緒にスーパーに行ったときに勧められたんだ。護身用というよりハンティング目的だよ」

「いつからハンティングをするようになったの?」

「いや、まだ撃っていない」

何を狙うのか聞いたら、リスだという。リスを撃つ話はよく聞いていたので驚かなかったが、次の彼の言葉で息をのんだ。

「僕もびっくりしたよ。先日、隣人がパーティーに招いてくれたんだ。『自宅の裏庭でリストを10匹ほど撃ったから今晩はリスのシチューだ』って言うんだよ。いやあ、食べられなかった」

ところ変われば品変わるというが、「撃つものが違うだろ」というのが正直な感想である。憲法修正第2条の武器所有の権利は熟知している。全米ライフル協会のロビー活動のしぶとさもよく知っている。だが、増え続けるだけの銃砲に歯止めをかけなくして銃関連の事件が減らないのも事実である。

アメリカ、、、嗚呼である。

エクササイズ・エリート

大統領選挙の取材でワシントンに短期間もどっていた。

時差のせいで、朝5時ごろに目がさめる。ボーッとしていてもいけないので体を動かすことにした。今回泊まったホテルは日本にも進出している「ゴールドジム」と契約していて、宿泊客は無制限で使用できる計らいがされていた。

営業時間を調べると、平日は午前5時からオープンだという。別に「ゴールドジム」の宣伝をするわけではないが、朝5時からという時間に「やってくれるものである」と感心してしまった。ちなみに、東京の表参道店を調べると午前7時からだった。

ただ、その時間帯に行ってどれほどの人がエクササイズしているか疑問だった。私は自分が汗を流すことよりも、ウィークデーのまだ夜も明けていない時間からジムにくるアメリカ人に興味をもち、出かけてみた。

午前5時40分。広大なジムに入ってすぐに口が半開きになった。60人ほどの老若男女が蠢(うごめ)いていた。勤めに行く前に汗を流す人が多いことは知っていたが、これだけの人数が集まっているとは考えなかった。

20歳前後の女性から頭部が薄くなった60代と思われる男性まで本当に老若男女で、トレッドミル(ランニングマシーン)やサイクル式マシーン、ウェイトトレーニングなどでみな黙々と汗をながしている。誰も話をせず、一人で悦にいっているような印象である。

アメリカの肥満度は近年ますます上昇しているが、その日、日の出前から汗をながしていた彼らのほとんどは引き締まった体をしており、取り付かれたように自身の体を磨きこんでいた。肥満の人たちが増え続ける一方で、確実に「エクササイズ・エリート」が増加しているのもアメリカの今の姿である。

収入の社会格差が拡大しているのと同じで、体型格差も拡大しているのだ。日本では「ビリーズ・ブートキャンプ」が話題になり、再びアメリカ型のエクササイズが話題だが、日本はまだアメリカほどの体型格差はない。

私はその日、常連の「エクササイズ・エリート」たちに圧倒されながら、少しばかり手に汗をかいたところでホテルに戻った。