アメリカ通の養成

6月16日の朝日新聞朝刊に興味深いコラム「私の視点」が載っていた。

ロバート・デュジャリックというテンプル大学日本校日本研究所長が、日米関係についての持論を展開していた。デュジャリックはワシントンのハドソン研究所というシンクタンクに何年もいた物静かな男で、在米中に何度か会ったことがある。ゴールドマンサックスで企業買収に携わったこともあり、国際関係を冷徹にみられる人物だ。

コラムは、日本が日米関係をワシントンの知日派に頼りすぎているという指摘と、本物のアメリカ通を養成すべきという、日本人の知識人からほとんど耳にしたことのない内容で秀逸だった。あまり人のコラムは褒めないが、読みながら「その通り」と言っていた。

これまで首相の安倍や駐米大使をはじめとした日本政府関係者がワシントンにおうかがいを立てるときは、アーミテージやグリーンといった知日派を窓口にすることが多かった。しかし二人はすでにブッシュ政権を去り、いまやホワイトハウスにも議会にも知日派はいない。

相変わらずアメリカ政府の顔色ばかりみている日本政府は、ホワイトハウスに直接、物を言うガッツもなければ体制もできていない。デュジャリックはそんな弱腰の日本に対し、知日派などに頼らずに本物のアメリカ通を養成し、ワシントンで機能するネットワークを築くべきだと説く。

一般的に、アメリカ通はたくさんいるように思われるが、実はそうした人間のほとんどは知日派のアメリカ人としか付き合っていないのが現実である。日本に関心などないアメリカ人と円滑に付き合える人間はごく少数であり、ワシントンで強い政治力を行使できる役人や民間人は稀である。これは25年の滞米生活の結論でもある。

ワシントンに来る外交官、学者、ジャーナリスト、そのほとんどがいまだに学ぶ姿勢でやってくる。学ぶことは悪くないが、勝負にでられないのである。そこまで行く前に、ほとんどの人は帰国の途につく。

英語力の不足がまず一つ。アメリカ文化を自分のものにできないのが二つ目。三つ目はアメリカを動かす度胸がないことである。

改正イラク特措法の成立で航空自衛隊のイラク派遣が8月以降も継続される。ほとんどシンボル的な意味合いしかない空自派遣が単に「アメリカのため」であることは明らかである。アメリカとうまくつき合うためには、笑顔で派遣を止める術を身につけなくてはいけない。もちろん派遣を中止してもアメリカとは仲良くやっていくのである。

本物のアメリカ通がほしい、、、。(敬称略)

不動産バブルの嘘

東京にもどってきて気づくのは、アメリカ嫌いの人が多くなったということである。

これはブッシュの影響が大きいのだろうと思う。ブッシュ・イコール・アメリカという図式は短絡的であると誰もが分かっていながら、アメリカ人が選んで大統領にしたのだからアメリカそのものがあまり好きではなくなったというのだ。

その人たちにとって、アメリカが外交政策で失敗したり、経済が破綻したりというニュースは胸中に一瞬、さわやかな風が吹くような感覚らしい。90年代後半から続いている「不動産バブルの崩壊」というアメリカ発のニュースについても、「ヤッタ」という声を聞いた。

人生の半分がアメリカだったわたしにしてみると、複雑である。

不動産価格の高騰がバブルという説はエコノミストの間でも分かれるが、わたしはバブルという言葉はあたっていないと考える。メディアが記事のタイトルとして打ちやすいので連発しているのが真相だろう。

確かに過去10年、多くの都市で価格の高騰がみられたが、過去半世紀、アメリカの不動産はずっと右肩あがりできており、上昇率がそれまでより高かっただけでバブルとは呼べない。上昇しずぎた地域があるのは確かだが、すでに1割から2割の価格調整(減少)があっても、日本の不動産バブルが弾けたときのように、価格が半分以下になるという現象は起きていない。

ちなみにアメリカの中古住宅や中古マンションは、築30年であってもドンドンあがる。それは平均26年で建てかえる日本と、50年以上たった家屋でも普通に住むアメリカの違いである。新築を好む日本人と中古をまったくいとわないアメリカ人の差でもあるし、建築への姿勢の違いでもある。

全米不動産協会の報告によれば、昨年3月から今年3月にかけての一戸建て平均価格は21万7000ドルで、これは前年比で0.3%減少しているに過ぎない。地域によっては下落幅がもっと大きいし、逆に上昇している大都市もあるので全米レベルでのバブル崩壊などという表現はまったく当たっていない。

こう書くと「ヤッタ」から「ガックリ」になるかもしれないが、冷静にアメリカを逆利用すればいいのだろうと思う。日米の金利差を利用したキャリートレードは少し勉強すれば個人でも十分にできる。1%にも満たない日本の金融機関に個人資産を預けておく必要はない。もちろん、不動産を買える余裕のある方は長期的投資として、いまアメリカは「買い」である。(敬称略)

銃社会を解体するために

バージニア工科大学での銃乱射事件は、あらためてアメリカの銃社会の矛盾を提示したように思う。

1993年に「ブレイディ法」といわれる銃砲規制法が施行され、銃購入者の身元確認と数週間の保留期間が設けられた。それによりほとんどの州で殺人事件の発生率が減少したが、すでに2億4000万丁といわれる銃砲が社会に出回っており、そちらの規制はない。毎年のように学校内での銃乱射事件が繰り返されている。

新しい銃砲の購入規制だけでなく、すでにある銃砲の規制・撤廃に動くことが大切である。もちろん全米ライフル協会の強力なロビイング活動は知悉している。規制法案が成立しにくい政治事情だけでなく、銃を所有することの法的な権利、さらに伝統的に銃による護身と晩餐のおかずを獲ってくるという狩猟の民としての文化も熟知している。

それでもなお、厳格な銃規制の動きを活発化させるべきだと思う。1588年に豊臣秀吉が刀狩りを行ったように、連邦政府が主導して段階的な「銃狩り」をすべきだと思っている。政府が強い規制と撤廃の方向を示さないといけない。

いくらハンティングがアメリカで人気のあるスポーツであっても、「銃をもつことがアメリカの文化だから」と言い続けていられない時代に入っていると思う。決して不可能なことではないはずである。