ある書店の倒産

崖っぷちから向こう側へ―。

アメリカの小売書店業界第2位のボーダーズが今週中にも倒産する可能性が高い。日本でいえば、紀伊國屋書店に次ぐ業界2位のジュンク堂書店が潰れることに等しい。

個人的には、25年間住んだ首都ワシントンの店舗を随分利用させてもらったので、連邦破産法第11条の申請というニュースは残念である。しかしビジネスに感傷は必要ない。すでに紙の時代は過ぎたと言われて久しい。単行本だけでなく、新聞や雑誌も含めた紙媒体の上り調子ならぬ「下り調子」は続いていた。ある意味では判り切った結末だ。

アメリカで起きたことが10年後には日本でも起こると言われて久しいが、近年はそのサイクルが早まっている。近い将来、日本の大手書店が倒産というニュースは何も驚くべきことではない。

けれどもすべての書店が傾いているわけではない。業界トップのバーンズ&ノブルは健全な経営体制を維持している。それであれば、ボーダーズの経営戦略のどこかにミスがあったと考えてしかるべきだ。ビジネス上の意思決定に間違いはなかったのか、、、、(続きは堀田佳男公式メールマガジン『これだけは知っておきたいアメリカのビジネス事情』)。

エジプトから見えるアフリカの現実

「国外ニュースはエジプトにハイジャックされ続けている」

ヨーロッパからの東京特派員が嘆いた。カイロでの反政府デモが起きてから、東京発のニュースは本国で使ってもらえないという。無理もない。エジプトでの騒ぎがなければ、相撲の八百長事件や新燃岳噴火のニュースが伝えられていた。エジプロだけでなくイエメンやヨルダンの反政府運動も勃発しており、しばらく中東の民主化運動から目が離せない。

私がギザのピラミッドに腰を下ろしたのは何年も前のことである。ラクダの背中に客を乗せて法外なカネを取るあこぎな商売が鼻につき、ピラミッドやスフィンクスの印象が一気に悪くなった記憶がある。

夕刻になると、ピラミッドの周辺に張り巡らされた柵に鍵がかけられて中を歩くことさえできない。そんなことは行ってみるまで知らなかった。しかし、ラクダ屋のオーナーは「カネをよこせば柵の中に入れてやる」という。それだけではない。警備兵に賄賂をつかませなくてはいけない。

    

            

一般観光客は夕刻から朝方までピラミッドに近寄ることさえできない。日中であれば、誰でもピラミッドのそばに駆け寄って写真を撮れる。しかし、必ずといっていいほど他人がファインダーの中に入る。しかし特別な入場料を払えば、ピラミッドの壁面に夕日があたる時間帯を「独占」できる。カネでなんとでもなる世界だ。

地元ではミネラル・ウォーターを買うのでさえ、観光客と地元の人とでは値段が違う。空港の警備員からもカネをせっつかれる。「袖の下」を渡すことでコトがスムーズに運ぶ国は何もエジプトだけではないが、守銭奴と言われるムバラクの統治が30年も続いた国らしい醜態が流布している印象だ。

現地で何人ものエジプト人と知り合った。ムバラクを褒める者はほとんどいなかった。貧困と社会格差、独裁体制が自らの首を絞めることになるのは時間の問題に思えたが、ここまで来るのに予想以上に時間がかかった。それほど反政府勢力は去勢させられていた。

民主化運動で独裁政権が崩壊することは間違いないが、現政権に代わってイスラム勢力と軍部が市民の代弁者になることは望まれない。こうした状況で思い出されるのが、アフリカの小国の駐米大使とある大学教授の言葉である。

大使はこう言った。「アフリカの小国は外からの攻撃を受けると、3日で政府が潰れてしまいます。けれども、国家を再建するには10年の歳月が必要です」。そしてある教授は諭すように述べた。

「アフリカの国々で今後、本当に民主主義が機能するかどうかはわかりません。日米だけでなくヨーロッパ諸国は民主国家ですが21世紀になってますます多くの問題を抱えるようになっています。今は中国の方が政治的にも経済的にも安定している現実があります。アフリカ諸国が中国を手本にしはじめる流れがあるのです」

言論の自由や反政府運動を認めない限り、真の民主主義とはいえない。圧政の下で生きた国民であれば、抑圧からの解放を求める力が強いのは必然だ。けれども、その声をどう収束していくかは別次元の政治力が必要になる。

外交の裏舞台でアメリカがエジプトの新政権にどう関与し、反イスラエルの国家にならないようにするかが見ものであると同時に、民主化という動きがアフリカで機能するかどうかを見られる好例となるはずだ。(敬称略)

サッカーと市民革命

李忠成の決勝ゴールで、日本はアジアカップで優勝し、歓喜に包まれた。

      

試合前日(土)、中学時代の友人8人と蕎麦打ち会にでて帰宅し、試合を観はじめたが延長戦が終わるまで眼をあけていられなかった。翌日のニュースで勝利を知り、渋谷のスクランブル交差点で気勢を上げる若者たちをテレビ画面で観た。

彼らに対して何の違和感も反発もない。興奮してアドレナリンが増し、精神の高揚を覚えることは自然である。

「彼らのこうした動きが政治の世界で働けばなあ」

画面のこちら側で1人つぶやいていた。

日本の政治に対する批判は多い。しかし菅の支持率が30%前後を低迷していても、若者が反政府の運動を組織的に始めたという話は聞かない。

少なくとも平穏な生活環境が続いているからだ。軍事クーデターもないし、扇動家が登場して革命を起こすこともない。

「日本人は生活に満足しているからだ」

アメリカのある教授が私に言った。

生活レベルは世界のトップクラスとはほど遠い。だが、市民は大規模なデモを組織するほど大きな不満を抱えていない。「まあ、いい線いってるんじゃないの」「これくらいでしょう」的な思いが強いからだ。

サッカーで勝利した時と同じほどの勢いを永田町や霞が関にぶつけるという流れにはならない。多少なりとも「現状への満足」がある限り、エジプトの若者がムバラクに対して反旗を翻すような行動はとらない。

逆に、日本の政治がどこまで堕ち、腐敗すれば市民は立ち上がるのだろうか。日本人にも市民革命を起こせるのだろうか。もしそうなったら、私は喜んで路上に飛び出すと思う。(敬称略)

これくらいでいい、、、

昨年は「雇用」と「いのち」。今年は「将来の成功」と「平成の開国」。

日米両首脳が年頭の演説で口にしたテーマである。

ネットで二人の全演説を観た。菅は官僚の書いた硬い文章に目を這わせ、必至な形相で読み上げる。一方のオバマは時々笑いをとりながら、テレプロンプターに映し出される原稿を読んでいく。文化の違いもあるが、オバマの演説のうまさは相変わらずだ。

所信表明(日本では施政方針)演説は、国のリーダーとしての意気込みを語るもので、象徴的なイベントである。民主党のマニフェストと一緒で実行がともなわなくとも罰されはしないが、政治家としての責任が問われる。

毎年、両国首脳の演説内容を比較しているが、今年は特に日本の内向き志向を如実に示すくだりが多かった。菅はこう言った。 

「内向きの姿勢や従来の固定観念から脱却する。そして、勢いを増すアジアの成長を我が国に取り込み、国際社会と繁栄を共にする新しい公式を見つけ出す」

その中には経済連携の強化や新成長戦略、雇用対策や社会保障の充実が入るが、私が「内向き」という言葉を使う理由は「、、、交渉の再開、立ち上げを目指します」「、、、工程表を着実に実施します」「雇用対策全般も一層充実させていきます」という言い回しに終始しているからである。

背後には「今あるものをなんとかこなします」的な消極的な態度がみえる。政治家や官僚だけでなく、日本中がそうした空気に覆われている。間違っても、「日本を再び世界をリードできる経済力のある国にしていく」とは言わない。

ところがオバマは演説でなんと言っただろうか。

「アメリカは単に地図上の国家としてではなく、世界に光を与えてきたリーダーシップを今後も維持していく。(中略)アメリカ経済はいまでも世界最大で、もっとも繁栄している」

そしてどの世代の人間も犠牲をいとわずに新時代の要求に応えるべく、戦わなくてはいけないと国民を鼓舞した。さらに「アメリカをビジネス上、最善の場所にしなくてはいけない」と語り、教育に力を入れ、イノベーションを促し、国家建設にいそしんで、未来を勝ち取らなくてはいけないと告げる。

こうした積極的なくだりを耳にすると、私はうな垂れるしかない。ガクーン、、、、である。

そして最後にオバマは「夢とは何か」というフレーズを口した。そしてアメリカンドリームはまだ生きていると説くのである。

                          

 

                                                  by the White House            

30年前であれば、まだ日本にもこの種の熱い演説に酔う空気があったかもしれない。いま仮に菅が同じセリフを述べたら、逆に虚しさからしらけるかもしれない。

今の日本は「これくらいでいい、、、」で満たされている。たぶんもう2度と世界1を争うポジションには戻ってこないかもしれない。(敬称略)

胡錦濤、ワシントンへ

上昇気流に乗る中国と下降線を描くアメリカ―。

中国がGDPで日本を抜くことは何年も前からわかっていたし、いずれアメリカをも凌駕することは誰もが気づいている。ただ今のアメリカは不安でしようがない。堕ちていく自分たちの姿を直視できないかのごとくである。

その態度の裏返しが、オバマの胡錦濤に対する強気の態度なのだろう。いまだにアメリカが世界一であることを誇示したくてしようがない。

                     

      

                  by the White House

            

いまでも経済力、軍事力、外交力のどれをとってもアメリカの優位性はゆるがない。けれどもそう遠くない将来、中国に追いつかれ、そして水をあけられる。早ければ10年後だ。

歴史的にみると、帝国が凋落していく時に現体制は保護主義的になる。それが共和党であろうが民主党であろうが同じである。中国の為替操作を責め、レアアースの輸出規制に対する制裁を検討するのもその表れの一つだ。

今後、世界はアメリカと中国の二極社会に本当に移行するのか、それとも中国がアメリカを蹴落として限りなく1極に近くなるのか。インドやブラジル、ロシアを含めた多極化の世界に移るのか、いまだに誰も明確な答えはもちあわせていない。

今週、J-WAVEに出演した時には時間がなくてその話のサワリしか語れなかった。ラジオ・フランスでも少し話をしたが、やはり話し足りない。今週はフラストレーションが溜まったまま、週末をむかえる。(敬称略)