北朝鮮のクーデター

脱北者の一人である金光鎮が3日、東京で記者会見を開いた。北朝鮮の元政府高官として、内部事情を知る人物である。いまだに顔写真は撮らせない。

「金正日が死んだ時、軍事クーデターが起こる可能性があります」

  

                   

昨年9月、金正日の三男、金正恩が実質的な後継者に選ばれたが、28歳の三男が朝鮮人民軍と労働党を全面的に掌握できるまでにはなおも長い年月が必要になる。軍の上層部が若い三男の言うことを聞くとは思えないというのが、金光鎮の見立てである。

「金正日でさえ両方を完全に掌握するまでに、ほぼ20年の歳月がかかっています」

専門家の間では北朝鮮が内部崩壊した時のシナリオがいくつも描かれている。もっともあり得る時期は、金正日が死亡した時だ。彼が長命であれば、三男への移行はよりスムーズかもしれないが、「近い将来」となると、三男では北朝鮮はまとまらない。

実は金正恩がお披露目された昨年9月、党の規約27条が改正されている。国防委員会の力が大幅に弱まり、労働党中央軍事委員会が北朝鮮の最高機関になった。その時、三男は軍事委員会の副委員長に就いた。

これは金正日が死亡したとき、三男が委員長としてトップに立つことを意味する。しかし、名目上のリーダーと実質的な権力の掌握とは別である。

金光鎮によれば、「三男は故意に風貌を祖父、金日成に似せることで威厳を出そうとしている」らしいが、真の政治力が28歳の若者にあるわけがない。

「今後は北朝鮮からの挑発行為がより頻繁に起こるはずです。そのサイクルは今後、ますます短くなるでしょう」

近隣諸国で唯一、北朝鮮に影響力のある中国も経済協力こそ行っているが、政治的な助言はほとんど効力を持たない。金正日は聴く耳をもたないのだ。

世界の動きから自らを隔離している北朝鮮。同時に、自らを追い詰めているようにしか思えない金体制はいつまで持続するのだろうか。(敬称略)

ある書店の倒産(2)

先日のブログで記したように、全米第2位の規模を誇る書店ボーダーズが倒産した(ある書店の倒産 :詳細版)。

                                      

   

                                        

今ある600店以上の店舗すべてが閉鎖されるわけではないが、200店ほどが閉じられ、再生に向けて新たなスタートが切られる。もちろん平坦な道のりではないし、実質上の倒産である。

インターネットの時代に入り、町の書店が苦戦していることは子供でもわかる。少なくとも過去10年、経営陣はネット時代にどう利益を上げていくかを策定すべきだったが、実践できなかった。むしろボーダーズは逆の流れに進み、書店数を増やして国外での店舗展開を行った。経営判断ミスだった。

ボーダーズが潰れたことで、ネット書店のアマゾンと業界最大手のバーンズ&ノブルの両横綱に書店業界が席巻される図式ができた。

ボーダーズの債権者はペンギン・パットナムをはじめ、サイモン&シュースター、ランダム・ハウスといった大手が含まれる。それぞれがボーダーズに対して30億円前後の貸しがあり、アマゾンとバーンズ&ノブル以外、これからガタガタと音をたてて崩れていく憂慮さえある。

フォレスター・リサーチが昨年発表した報告書は、2025年までに新刊本の4分の1は電子書籍になると記している。たぶん電子書籍の流れはもっと早い。

昨年のクリスマスに電子リーダーをプレゼントされたアメリカの子供たちの中には、もうゲームはやらず、テレビも観ず、ひたすら電子リーダーで本を読むようになった小学生がいるという。

歴史を振り返ると、時代が代わる移行期というのは「つらい時期」ではあるが「楽しい時期」でもある。抵抗するだけ無駄ということである。

オートパイロット

ピープルズパワー!

エジプト人には本当に「おめでとう」という言葉を捧げたい。エジプトから見えるアフリカの現実 で述べたように、ムバラクは辞任し、独裁政権は幕をおろした。だが彼らが本当に熟考し、行動に出なくてはいけないのはこれからである。

いまは軍部が権力を掌握している。市民から一応敬意を払われている軍が、ムバラクの擁護にも打倒にも積極的に加担しなかったことで無血革命が達成できた。ただ反ムバラク派の代表的リーダーの顔が見えない。IAEA(国際原子力機関)の前事務局長のエルバラダイは国をリードすることに興味を示さない。

チュニジアに始まるアフリカの革命の特徴はアメリカのCIA(中央情報局)が大きく関与していないことだ。「していない」と表現するより「できなかった」と記すべきだろう。アメリカの世界に及ぼす影響力が年々、小さくなっていく様子が手にとるようにわかる。

1979年のイラン革命時、CIAはテヘランへ使者を送ってホメイニを亡命先のパリからイランに帰国させた。CIAは途上国のトップの首をすげ替えることもできた。イラン革命は彼らが絵に描いた通りの革命であった。これは後にイラン外務省の政府高官を父に持つ男から直接聞いた話である。

しかし「エジプト革命」はCIAも指導者もいない市民革命として今後歴史に残る。フェイスブックがきっかけにはなっただろうが、実際に動いたのはエジプト人たちである。アメリカ政府は民主主義を根付かせようとイラクやアフガニスタンで何兆円ものカネを割いているが、国民の心を動かすことにはなっていない。

この点で日本はどうだろう。すでに民主主義は広く認知され、どこに行くにも行動の制約はないし、言論の自由は保証されている。だが、普通の会社員が積極的に政治活動に参加したりはしない。法律で認められた権利であっても、公に出ていく人は稀である。

それは政治体制とは別次元の社会規範があるからである。個々人の中で自己制御が強く働いている。個人だけではない。グループや団体、会社という組織に属していれば、そこでの規律もある。言い換えれば、それが日本を律する国にしている。

この国は官僚から一般市民にいたるまでオートパイロットが働いているのである。少しでも軌道から外れる行動や考えは、ほぼ修正されてしまう。それは潜在下で行われるので、大企業の社員が反政府デモを首謀しようなどと思わない。

テレビカメラに映り、新聞に顔写真が出るような行為は慎まれる。それが法的に認められた行動であってもだ。行動に出ると会社の上司は言うかもしれない。

「あれはちょっとまずいんじゃないの」

「自由な政治活動は憲法で保証されていますから、いちゃもんをつける方がおかしいです。会社員であっても、自分の信じることはやります。会社には迷惑はかけません」と言い返しても、波風を立てたということで周囲に釈然としないものを残す。そこまで冒険をする人はいなくなる。

独裁者によるクーデターでも起きて言論統制が布かれれば反政府運動が起きるだろうが、普天間問題や債務超過、社会保障問題が解決できないくらいではデモさえも起きない。

これを平和というのかどうかは疑問である。(敬称略)

ある書店の倒産

崖っぷちから向こう側へ―。

アメリカの小売書店業界第2位のボーダーズが今週中にも倒産する可能性が高い。日本でいえば、紀伊國屋書店に次ぐ業界2位のジュンク堂書店が潰れることに等しい。

個人的には、25年間住んだ首都ワシントンの店舗を随分利用させてもらったので、連邦破産法第11条の申請というニュースは残念である。しかしビジネスに感傷は必要ない。すでに紙の時代は過ぎたと言われて久しい。単行本だけでなく、新聞や雑誌も含めた紙媒体の上り調子ならぬ「下り調子」は続いていた。ある意味では判り切った結末だ。

アメリカで起きたことが10年後には日本でも起こると言われて久しいが、近年はそのサイクルが早まっている。近い将来、日本の大手書店が倒産というニュースは何も驚くべきことではない。

けれどもすべての書店が傾いているわけではない。業界トップのバーンズ&ノブルは健全な経営体制を維持している。それであれば、ボーダーズの経営戦略のどこかにミスがあったと考えてしかるべきだ。ビジネス上の意思決定に間違いはなかったのか、、、、(続きは堀田佳男公式メールマガジン『これだけは知っておきたいアメリカのビジネス事情』)。

エジプトから見えるアフリカの現実

「国外ニュースはエジプトにハイジャックされ続けている」

ヨーロッパからの東京特派員が嘆いた。カイロでの反政府デモが起きてから、東京発のニュースは本国で使ってもらえないという。無理もない。エジプトでの騒ぎがなければ、相撲の八百長事件や新燃岳噴火のニュースが伝えられていた。エジプロだけでなくイエメンやヨルダンの反政府運動も勃発しており、しばらく中東の民主化運動から目が離せない。

私がギザのピラミッドに腰を下ろしたのは何年も前のことである。ラクダの背中に客を乗せて法外なカネを取るあこぎな商売が鼻につき、ピラミッドやスフィンクスの印象が一気に悪くなった記憶がある。

夕刻になると、ピラミッドの周辺に張り巡らされた柵に鍵がかけられて中を歩くことさえできない。そんなことは行ってみるまで知らなかった。しかし、ラクダ屋のオーナーは「カネをよこせば柵の中に入れてやる」という。それだけではない。警備兵に賄賂をつかませなくてはいけない。

    

            

一般観光客は夕刻から朝方までピラミッドに近寄ることさえできない。日中であれば、誰でもピラミッドのそばに駆け寄って写真を撮れる。しかし、必ずといっていいほど他人がファインダーの中に入る。しかし特別な入場料を払えば、ピラミッドの壁面に夕日があたる時間帯を「独占」できる。カネでなんとでもなる世界だ。

地元ではミネラル・ウォーターを買うのでさえ、観光客と地元の人とでは値段が違う。空港の警備員からもカネをせっつかれる。「袖の下」を渡すことでコトがスムーズに運ぶ国は何もエジプトだけではないが、守銭奴と言われるムバラクの統治が30年も続いた国らしい醜態が流布している印象だ。

現地で何人ものエジプト人と知り合った。ムバラクを褒める者はほとんどいなかった。貧困と社会格差、独裁体制が自らの首を絞めることになるのは時間の問題に思えたが、ここまで来るのに予想以上に時間がかかった。それほど反政府勢力は去勢させられていた。

民主化運動で独裁政権が崩壊することは間違いないが、現政権に代わってイスラム勢力と軍部が市民の代弁者になることは望まれない。こうした状況で思い出されるのが、アフリカの小国の駐米大使とある大学教授の言葉である。

大使はこう言った。「アフリカの小国は外からの攻撃を受けると、3日で政府が潰れてしまいます。けれども、国家を再建するには10年の歳月が必要です」。そしてある教授は諭すように述べた。

「アフリカの国々で今後、本当に民主主義が機能するかどうかはわかりません。日米だけでなくヨーロッパ諸国は民主国家ですが21世紀になってますます多くの問題を抱えるようになっています。今は中国の方が政治的にも経済的にも安定している現実があります。アフリカ諸国が中国を手本にしはじめる流れがあるのです」

言論の自由や反政府運動を認めない限り、真の民主主義とはいえない。圧政の下で生きた国民であれば、抑圧からの解放を求める力が強いのは必然だ。けれども、その声をどう収束していくかは別次元の政治力が必要になる。

外交の裏舞台でアメリカがエジプトの新政権にどう関与し、反イスラエルの国家にならないようにするかが見ものであると同時に、民主化という動きがアフリカで機能するかどうかを見られる好例となるはずだ。(敬称略)