気温のナゾ

東京は穏やかな晩秋の日が続いている。11月初旬であるにもかかわらず、コートなしで外出できる。

昔を思いかえしてみると、小学生の頃の方が確実に寒い日が多かった。普通であれば、ここで地球温暖化という言葉がでるのだが、私はかねがねその信憑性に疑問をいだいてきた。

その発端はアラスカ州のイヌイット(エスキモー)の取材をした時にさかのぼる。北極海の氷が溶け出すスピードが速まり、北極海をおおう氷の面積が減っている。周囲の自然を知り尽くしているイヌイットは、驚いたことに「化石燃料のせい」といわなかった。

1年365日、狩りをしていたビリーは、イヌイットに何万年も伝承される「かれら流の自然」の話してくれた。

 by NASA

「いまから1万5000年くらいまえに氷河期が終わっている。いまは間氷期だから気温があがるのはあたり前さあ。イヌイットの暦って知っているかい。365日じゃないんだ。氷河期のサイクルなんだよ」

「ホントウ、、、、、」

すぐには信じられなかったが、気温の上昇を氷河期のサイクルとして捉えていたことには驚かされた。

少し調べてみると、アカデミズムの世界でも地球温暖化を化石燃料の燃焼として説明する理論と、「地球軌道の変化による放射強制力の上昇」とする理論があり、後者は氷河期のサイクルのことをさしている。

人間が気温や大気のことを科学的に分析しはじめたのは20世紀に入ってからにすぎないが、コンピューター・シュミレーションなどから、過去の大気中の二酸化炭素濃度やメタン濃度などがわかってきている。

そうしたデータをみるかぎり、前回の間氷期だったおよそ12万年前の南極の気温はいまより摂氏3度も高かった。二酸化炭素濃度やメタン濃度も現在より高かったと推測される。

そこから言えることは、温暖化は化石燃料の燃焼だけではないということだ。時間軸を計算すると、いまはさまに間氷期であり、気温が上がる時期なのだ。もちろん数万年後にはまた氷河期がやってくるので、寒冷地帯は凍りつく。過去40万年のシュミレーションデータをみるとそうしたことが推論できる。

だからビリーの話は外れてはいなかった。

けれども、間氷期の理論だけを温暖化の理由にしてしまうと、いまのグリーンエネルギーへの努力が無駄になるから、無節操に石油や石炭を使い続けるべきでないことは言うまでもない。

ノーベル賞受賞のコツ

オバマがノーベル平和賞を受賞したことで、世界中に賛否両論が渦巻いている。

私は「平和賞にあたいするだけの功績はなにも残していない」という考えなので、個人的にオバマへの愛着はあっても、受賞そのものには反対である。今年1月のブログに、オバマはノーベル平和賞を取るかもしれないとは書いたが( 参照:So long, Bush!)、中東和平を実現させてからという注文をつけた。

オバマはいまだにその分野で大きな1歩さえ踏み出せていない。プラハでの核兵器廃絶への大胆な演説が評価対象ともいわれるが、それとて成果という段階にさえ至っていない。前向きな政治姿勢に対してということだけであれば、評価が甘い。「期待賞」ということであれば極めて異例である。

なぜノーベル賞を受賞できたかという点で、私は一つ思いあたることがある。

90年代半ば、ジョージア州アトランタでノーベル文学賞受賞者の集いがあり、取材したことがある。生存する受賞者がほとんど顔をそろえていた。大江健三郎も出席し、彼に話を聞いた。またナイジェリアの詩人、ウォーレ・ショインカとも話をした。

そこでわかったことがある。それはノーベル賞を取るコツとでもいえるものだ。

文学賞の場合、まず英語で多くの作品が出版されていなくてはいけない。さらに重要なのは歴代の受賞者が「次は誰にするか」という時、推薦する権利があり、影響力を持つということだ。大江はショインカだけでなく、他の受賞者を受賞前から知っていた。もちろんこれだけが理由ではないが、ひとつの力にはなる。

今年の平和賞には205人がノミネートされていた。200倍強の倍率でオバマが選出されたのは、オバマに好意的と伝えられる05年受賞者のムハンマド・エルバラダイや、07年に受賞したアル・ゴアの推薦があったからかもしれない。しかしオバマが「自分を推して」とは言わなかっただろう。

いずれにしても、彼には前を向いて走ってほしいだけである。(敬称略)

        

       By the White House

タイフーン・メロウ

 

        

台風18号が本州を過ぎ去った。数日前、秋雨前線とぶつかるので大雨を降らせると聞いた。関東地方には8日の”夕刻”に通過するとも聞いた。どちらも当たらなかった。コンピューターを導入した予報でも、翌日のことさえわからない。株価の動きに似ている。

18号は国際コード名ではメロウという。ご存じの方も多いだろうが、台風やサイクロン、ハリケーンには国際コード名として男女の名前が交互につけられる習慣がある。

メロウと聞くと、多くの方は「芳醇な」という意味を思い浮かべるかもしれない。だが違う単語である。「メロウな音楽」という方は「Mellow」で、今回の台風のメロウは「Melor」。もともとはフランスの聖者の名前だ。

日本は他国にくらべるとたいへん雨量の多い国で、それが豊饒な大地を生むことにつながっている。ただ梅雨や秋雨という言葉はあっても、雨季という言葉はほとんど使わない。

雨季(レイニーシーズン)という表現は、東南アジアやアフリカなど熱帯地方で使われると思いがちだが、国外の書籍には日本にも雨季があると記されていることが多い。しかも、6,7月の梅雨だけでなく秋の長雨も雨季とされるため、日本には春と秋の2回の雨季があると書かれている。そこに台風が加わる。

そう考えると、日本は年間を通して雨が多く、地震も多いが、自然災害に対する防備策が他国より秀でているかと思う。大雨の被害という点では、最近のインド南部の集中豪雨はすさまじく、150万人が家屋を失ったという。

まだまだ台風シーズンは終わらず、19号が発生すれば今度は女性の名前がつけられるはずである。

Rio!

2016年のオリンピック開催地がリオデジャネイロに決まった。

     

                     

4候補の中ではもっともふさわしい都市だと思う。シカゴと東京(アメリカと日本)は全国民レベルでオリンピックを渇望していただろうか。

そうした空気を選考委員は感じとっていたはずだ。これまで一度もオリンピックが開催されていない南米が選ばれた点は貴重である。私が選考委員でも最初からリオに一票を投じていた。

治安の心配をした人もいようが、中南米のどの都市にいってもファベーラ(スラム街)はある。今年4月に訪れたメキシコシティには中南米最大のファべーラがあって600万人が暮らすが、すでに1968年にオリンピックが開催されている。

リオには3年ほど行っていないが、新興国としての威信にかけても南米らしいエネルギッシュなオリンピックを開催してほしい。人とカネが集まれば大きなプロジェクトが動く。そうすればカネがさらに集まり、流れ、それが世界に還元する。

世界経済、特に貿易については統計にでてくる数字以外のところでカネの流れが増大しているので、貿易赤字が増加したからといってそれで一喜一憂する時代は終わったと思っている。たとえば中国の港からカリフォルニア州ロングビーチに入港した貨物船の実質バリューの約50%だけが中国産であり、残りの半分は自国アメリカを含む他国産である。

すなわち、経済はとうの昔に国境が失せているのだ。南米は距離的には日本から遠いが、経済的な緊密度は深く、リオ五輪でつながりは深度をます。16年はまだ先だが、大いに期待したい。

ある日のアラバマ

アメリカのディープサウス、アラバマ州を訪れていた。

州の南部は湿地帯が多く、ワニが生息する。ただワニを見に行ったわけではなく、人種問題についてのナマの声を聴くためである。

    

                                                                               

いまだに人種差別が色濃く残る南部で、オバマが大統領になって何かがわかったのか、変わりつつあるのか。この答えを探るには現地で取材するしかない。

オバマの人種問題への態度は、昨年7月のブログ「オバマ、黒人としての強さ 」で触れたとおりで、彼は同年3月の演説で、「今回は(人種問題を)後回しにしない。今回は問題の核心に迫りたい。今回は逃げない」と真剣だった。私はいまでも彼の前向きな姿勢を買っているが、もちろんそれで差別が消えるほど簡単な問題ではない。

バーミングハムという同州最大の都市で、黒人たちと腰を落ちつけて話をした。市民権団体の副会長や普通の市民まで、私のために時間をさいてくれた。熱が入ってくると、彼らは同じようなことを口にした。19世紀のKKKのリンチ事件から最近起きた差別の話まで、引きも切らない。それほど黒人に対する差別は、21世紀になった今でも意識だけでなく実際の行動としても慄然として残る。

ちょうど同市にいたとき、元大統領のカーターが「黒人(オバマ)はアメリカという大国をリードしていく資格がない」という大胆発言をしたので、それまで水面下で浮沈していた問題が再びアメリカ社会の表面にあらわれた。メディアの騒ぎ方もすさまじい。驚かされるのは、知人のアメリカ人がこの発言を容認したことである。

日本人の中にも黒人に対する差別意識をもつ人はいる。そうした人たちの中には昨年、「オバマフィーバー」の波に乗っていた者もいたが、一皮はがすと黒人への差別意識が強かったりする。

差別は無知からくることが多い。一度も中国にいったことがない人が「中国は嫌い」と口にし、差別発言をしたりする。黒人に対する差別意識も同じで、どれだけ彼らのことを知っているのだろうかと問いたい。

差別は教育と、本人の意識改革で解消されていくものであると私は信じている。しかしアラバマ州の黒人女性ははっきりといった。

「たとえ差別がなくなったとしても、差別されたことを忘れることはできない」。(敬称略)

プレジデント・ロイター連載: 米金融大手のCEOの年収は、いまだに社員の300倍