「品川猿の告白」

「品川猿の告白」というタイトルを記したが、ほとんどの方は何のことかおわかりにならないかと思う。実は2月に文藝春秋社からでた村上春樹氏の文庫「一人称単数」のなかにおさめられている短編のタイトルなのだ。

村上氏の小説を読むのは久しぶりで、本屋に平積みになっていたので手にとった。品川猿というのはいったい何なのか。

村上氏らしい一人称の筆致で、群馬県の温泉宿に泊まったときに、風呂に猿が入ってきて「お湯の具合はいかがですか」「背中をお流ししましょうか」と尋ねるのだ。猿は温泉宿で働いており、見事な日本語を話す。

猿が言葉を喋ること自体、普通ではないが、猿と主人公との会話がごくごく自然に描かれており、村上氏の筆力を感じざるをえない。もちろん小説としての面白さは、現実では起こり得ないことが眼前で繰り広げられることなのだが、読み進めるうちに「本当に日本語を話す猿がいるのではないか」と思ってしまうほどの話なのだ。

猿は「ずいぶんお寒うなりましたですね」といった言葉遣いで、小さい頃から人間に飼われていたので言葉を覚えたという設定だ。しかも東京の品川区にいたので、品川猿というタイトルになっている。久しぶりに楽しい小説を読んだ。