追悼・坂本龍一

「いつも読んでますよ」

30年近く前、ニューヨークのカフェで坂本龍一氏にインタビューした時、彼は私にそう言った。私は嬉しくなり、すこし浮かれ気味に話を続けたのを覚えている。

当時、私は読売新聞が発行していた米国版の紙面にコラムを書いていて、それを読んでくれていたのだ。会う前まで、彼が私のことを知っているとは思っていなかったので、本当に嬉しかったのを覚えている。

インタビューの内容はほとんど覚えていないが、たいへん穏やかで、物静かに話をする人との印象が強い。インタビューが終わったあと、プライベートな話もずいぶんして、ニューヨークは刺激があると同時に人に干渉してこないのでとても気に入っているという話をしていたのを覚えている。

日本であればどこに行ってもすぐに「坂本龍一だ!」と騒がれるだろうが、ニューヨークではそうしたことが少ないので、本人は自分らしさを保てたのだろうと思う。

芸術的な才能だけでなく、人間としてもたいへん魅力がある良識家で、行動力も持ち合わせていた稀有なアーティストだった。ご冥福をお祈りしたい。