世界一の白い砂

私は以前、世界の砂を集めていた。さまざまな国を訪れた時、ビーチに行く機会があれば、そこの砂を一掴みもってきて透明の平たいグラスに並べていた。

もちろん地質学的な分析ということではなく、単なる自己満足である。ビーチだけでなく、サハラ沙漠の砂も手にしたし、アリゾナ沙漠の砂もあった。興味深いのは、すべて色と粒子の大きさが少しずつ違っていたことだ。

集め始めて10年ほどした頃、米国内でUSエアウェイズ(2015年にアメリカン航空に統合)に乗っていた時に機内誌の記事で、「世界白い砂チャレンジ」というタイトルを目にした。それまでそんなものがあることを知らなかったので、心臓をバクバクさせながら一気に読んだ。

世界で最も白くて最も粒子の細かい砂のビーチはどこかを争うコンテストであり、優勝したビーチが記されていた。南太平洋のどこかの島か、カリブ海あたりかと思っていたが、優勝は「シエスタ・キー」という米フロリダ州メキシコ湾側にある島の砂だった。

タンパ市から50キロほど南にいったところで、島は半島と橋でつながっているという。砂の写真も出ていたが、雪のように白かった。本当なのか、、、。確かめるしかない。

記事を読んだ翌年だったと思う。2000年代初頭のことだ。その砂を握りしめることだけを願って、シエスタ・キーに行った。ちなみにシエスタはスペイン語で昼寝という意味で「昼寝島」となる。人気の少ない広々としたビーチにでて目を疑った。

「ナンダコレワ!」である。

本当に雪のように白かったのだ。砂を手にとると、サラサラと指からこぼれ落ちる。しばらく目を瞑ってからパッと目を開けると、スキーのゲレンデにいるような錯覚さえあった。ビーチのそばで地元の人に訊いてみた。地域の人にとっては自慢だったようで、砂の謎をすぐに教えてくれた。

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アパラチア山脈には水晶の鉱脈があり、何万年という単位で地下水によって水晶が削られ、川に運ばれて海流に乗ってシエスタキーに水晶の粒子が結集したということだった。

驚愕と同時に深く納得し、ふんわりした笑顔で私はワシントンに戻ったのだが、世界で一番、、というものを手にいれてしまったことで、世界の砂集めに対する興味が一気に冷めてしまったことは少しばかり残念である。