遅れる人材誘致

昨日(7月5日)の日本経済新聞の朝刊一面に、ロシアの頭脳流出が深刻な状況にあるという記事が出ていた。プーチン氏によるウクライナ侵攻は国外からの批判に晒されているが、国内にいるロシア人にとっても反プーチンの流れは止まらず、「もうロシアには居られない」として今年2月、3月だけで30万人がロシアを去ったという。高学歴、高収入な人ほど脱出する傾向が強いという。

ロシア国内にある非政府調査機関の調査によると、24歳以下の若者で国外永住を希望するロシア人は今、なんと50%を超えているという。頭脳流出という事態は国家にとっては大変深刻なことで、このままではロシアは成長が止まり、競争力を失った敗者となりうる。それほどプーチン氏がウクライナでやっている暴挙は悪影響があるということだ。

ただ日経新聞の記事の狙いは他にもある。ロシアを脱出した優秀な人材を受け入れるのが、スウェーデンや米国、オーストラリアといった国々が中心で、日本は高度人材の誘致指数を眺めると先進国33カ国中25位に沈んでいるというのだ。もちろん、日本語というある意味で特異な言語体系のせいで、国外から優秀な人材を誘致しにくいという理由はある。

ただそれ以上に、日本社会は国際的に実質賃金が低いだけでなく、移民の受け入れ体制が十分ではない上、社会の寛容性も他国と比較すると低いという。例えば実質賃金を眺めると、日本はアメリカの56%でしかなく、報酬面で他国と比較すると見劣りがする。また移民に対する差別撤廃の法律の整備も遅れている。こうした点は以前から繰り返し指摘されてきたことだが、政府をはじめ民間レベルでも深刻に改善していこうという意識が低い。

これは日本社会の国際性の低さということにもつながっており、日本の将来に対して暗い影を落とす。海外に出ていくことも大切だが、本当の国際性というのは、どれほど国内で外国人を受け入れられるかということだろうと思う。

ロシア:追い詰められたあと

ロシアがウクライナに軍事侵攻して4ヵ月が過ぎたという話は6月30日のブログでも記したが、プーチン氏の暴挙といえる行動は、ロシアが西側諸国に押され続けてきた結果でもある。同氏が長いあいだ圧力を感じてきたということだ。

北大西洋条約機構(NATO)の首脳会議が30日に終わり、そこでの最大関心事もロシアで、参加国はロシアを「もっとも重大かつ直接の脅威」と捉えた。フィンランドとスウェーデンがNATOに加わったのも、ロシアの脅威を単独ではなく複数国で受け止める方がより効果的という意味がある。それほどロシアという国はいま、ヨーロッパ諸国にとって脅威なのだ。

それは同時にNATOが首脳会議でロシアを敵国と認定したため、敵対関係がより如実に浮き上がってきたということでもある。もちろん、誰も戦争を望んではいないだろう。ごく少数の政治家だけが戦争によって得られるモノを期待しているだけである。プーチン氏にこれ以上、暴挙を起こさせないためには何をすればいいのかを、西側諸国は考えなくてはいけない。

昨日、外国特派員協会のワークルームで、ヨーロッパからの特派員とこのあたりのことを話し合った。ヨーロッパ諸国内ではいま、対ロシア政策が統一されているわけではないが、反ロシアという意識は今後さらに強まるはずだとの見方では一致していた。話し合いの中で一人の記者が語気を強めて言い放った「プーチンは決して信用できない」という言葉が今も耳に残っている。ただそこからプーチン氏を暴発させないための妙策はなかなか出てこない。

大きな戦闘に発展しないように対話をし、将来を見据えた政策を熟考することは当然だが、確実に具現化できる策がない。ここが国際関係の難しさでもある。

アフリカ諸国はなぜウクライナを支援しようとしないのか

ロシアによるウクライナ侵攻からすでに4カ月以上が経った。ウクライナ東部での戦闘は収まるどころか、さらに激化するとの見通しが有力だ。首都キーウが3週間ぶりにロシア軍に攻撃されてもいる。

それに対し、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は6月25日のビデオ演説で、「すべての都市を奪い返す」と強気の発言をしており、ウクライナ戦争はほぼ間違いなく長期化しそうな情勢である。

そんな中、同戦争に対する興味深い見方がワールドニュースのスポットライトを浴びた。アフリカ連合(AU)加盟国55カ国のうち、「被害国」であるはずのウクライナに加担する国がほとんどいないことが明らかになったのだ。

 ロシアがウクライナに一方的に軍事侵攻したという事実は国際的に広く認知されているはずだが、それは世界中の国々で共有されている統一見解ではない(続きは・・・アフリカ諸国はなぜウクライナを支援しようとしないのか)。

バイデン訪日で本当に求められること

端的に述べると、いま日米がやるべきことは「いかにして中国を除外するか」に尽きるかと思う。

ロシアがウクライナに侵攻したように、中国が今後、台湾へ、また日本へ牙を剥くことは十分に考えられる。それを防ぐために中国の周辺国とどういった形で連携を整えていくかが重要になる。

バイデン氏の来日で24日には日米豪印(クアッド)が首脳会合を開くし、23日にはインド太平洋地域の新たな経済枠組みであるIPEFが創設される。ただ、新しい枠組みを作ったからといって、日米が中国をどう変容させていくかははっきりしていない。

今日も日本外国特派員協会で数人の記者仲間が集まった時、バイデン氏が本当に何をしたいのかが見えていないという話になった。単に中国を除外するだけでなく、今後の米中関係、日中関係のあり方が政権内で想定されていないのではないか。

IPEFにしても、枠組みを作りはするが、その先にどういった国際秩序を求めていくのかが伝わってこない。明確な外交政策とそれを具現化する方策がバイデン政権内には希薄だということだ。バイデン氏が脆弱に見えている原因はそこにあるのかもしれない。

悲観的な中国の未来

いまフランスの人口学者エマニュエル・トッド氏の『老人支配国家 日本の危機』(文春新書)という本を読んでいる。トッド氏は人口学者であるが、いまの世界を歴史的、統計的な立場から論じている学者で、独自の視点がいつも興味深い。最近も月刊文藝春秋で「日本核武装のすすめ」という論文を書いている。

『老人支配国家 日本の危機』でもハッとするような記述に出会う。同氏はこう書いている。

「中国が、今後、「帝国」になることは、政治的にも経済的にもないでしょう。中国の未来は悲観せざるを得ないという点で、人口学者は一致しています」

多くの方は中国はすでに帝国になりつつあると思われているかもしれない。そうした考え方をトッド氏は否定する。その理由は「少子化と高齢化が進んでいるから」と述べる。特に出生児の男女比が、男子118人対女子100人という点に注目している。通常は106人対100人であるという。

これは中国では妊娠中に女子であることがわかると、選択的堕胎が行われていることを意味している。中国社会では女性の地位の低さがいまでも指摘されており、伝統的な価値観が流布している。さらに若いエリートが国外に流出しているため、中国経済はいま内需が弱く、輸出依存の脆弱な構造になってもいるとトッド氏は述べる。そして「砂でできた巨人」と形容する。

その流れで、日本は思い切った少子化対策を打つことが大切だと書く。「子どもは宝」とはよくいったもので、子どもこそが将来の国家を支える存在なので、子どもへの投資は将来への投資になることをすべての日本人は意識すべきかもしれない。