プーチンを動かしている男

このところニュースはずっとウクライナ問題に席巻されている。プーチンがウクライナをベラルーシのような国にしたいと思っていることは容易に察しがつくが、それだからといってウクライナ人を殺傷していいわけがない。

過去2000年ほどの歴史を辿っただけでも、ある意味で「戦争の歴史」と言えるほど人類は争い事を繰り返してきた。学生時代、21世紀になると人間は以前よりも賢明になって戦争を回避するようになるかもしれないとの淡い期待を抱いていたが、それは過ちだったと言わざるをえない。

ロシア軍による攻撃でウクライナの幼児が殺傷される姿は目を覆いたくなる。プーチンは自国軍によるそうした殺傷行為を十分に理解した上で侵攻の命令をくだしているわけで、ある意味で殺人者と言っても過言ではないだろう。

最近、ニュースで散見されるプーチンをみると、孤独な独裁者のように見えなくもないが、ウクライナ侵攻を一人で指示してきたわけではない。頼りになる腹心がいるのだ。国防相のセルゲイ・ショイグがその人である。ショイグは2014年のクリミア侵攻の立役者といわれた人物で、軍事面でプーチンが最も頼りにする腹心である。

いまでも戦略だけでなくイデオロギーの観点からもプーチンが全面的に信頼を寄せる参謀だ。プーチンがウクライナ侵攻を単独で主導することなど所詮は無理な話で、こうした部下がプーチンを「動かしている」という現実がある。逆に西側諸国はこうした人物に強力に働きかけて停戦にむかわせるべきだろう。(敬称略)

プーチンが下した鉄のカーテン

いま欧米メディアで「鉄のカーテン」という言葉が使われ始めている。この言葉はもちろん冷戦時代にヨーロッパを分断する象徴的な事例を表したもので、共産主義陣営と資本主義陣営を隔てる表現だった。

1990年10月に東西ドイツが統一されたことで「鉄のカーテン」は終結をみる。だが、ウラジミール・プーチン大統領がウクライナを軍事侵攻してから、再び使われ始めている。

英フィナンシャル・タイムズは「ロシアは再び鉄のカーテンの向こう側へ」というタイトルの記事を掲載。米公共ラジオ放送NPRも「マクドナルドなどの企業が提携を解消し、ロシアに経済的な鉄のカーテンが降りる」と告げた。

さらに米クリスチャン・サイエンス・モニター紙は「新たな鉄のカーテン? ロシアの侵攻は世界をどう変えるのか」と題した記事で、ウクライナ侵攻によってプーチン氏は孤立を深めていくことになると記した(続きは・・・プーチンが下した鉄のカーテン、ロシア経済と社会激変)。

ウクライナの今後

ロシアがウクライナに軍事侵攻してから半月がたつが、いまだに戦火が止む気配はない。むしろ、本当に過激さを増すのはこれからだろうと思っている。

当欄で3月2日に「練り込まれていたウクライナ侵攻」というブログを書いたが、その中でイギリスの王立防衛安全保障研究所(RUSI)が2月15日に公表した「ウクライナ破壊の陰謀」という報告書を紹介した。

同報告書はこれからロシアがウクライナで何をしようとしているのかが予見されており、驚くべきことに、公表からほぼ1カ月がたって、大方の記述は当たっているのだ。報告書には、「、、、、ロシアの諜報機関である特殊部隊(SSO)、連邦保安庁(FSB)、対外情報庁(SVR)、軍事情報部(GU)はすでにウクライナ全土で活動している。FRB第5局のウクライナチームは大幅に拡大されて、積極的に情報調査を実施している」とある。さらに「キエフにはロシアの秘密特殊部隊が2個中隊ほど進駐しているとみられる」との記述もある。

報告書はまた「通常戦争が始まれば、、、」という前提の話もあり、ロシアがいかにウクライナよりも兵力で優位にたっているかが記されている。そしてロシアがいかにしてウクライナ領土に侵略するかの詳細もある。ウクライナに接するロシアのロストフ州から部隊は西に侵攻するだけでなく、ウクライナ北部のベルゴロド州からは南下、クリミアからは北上するとある。これは実際にロシアが侵攻する10日ほど前に公表された報告書であるが、いまその通りのことが起きている。

ただ、当初予見されていたよりもウクライナ側からの抵抗が強いと思われる。実は報告書内にはその時のことも述べられており、「圧倒的な火力で戦うことを選択するかもしれない」とある。その時は全面戦争に拡大する可能性があり、今後も注視していかなくてはいけない。