こういう人物が現れると本当に安心する。安心というより、正直に生きることの大切さをあらためて教えられて、頭が下がるのである。
誰のことかと言えば、ビル・テイラーというウクライナ駐在の米代理大使である。いま話題のウクライナ疑惑で、キーパーソンとして浮上してきた。どういうことかご説明したい。
ウクライナ疑惑の柱は、トランプがウクライナのゼレンスキー大統領に対し、「俺の言うことを聞けば軍事支援してやる」のいう内容の発言をしたかどうかである。「俺の言うこと」というのは、大統領選のライバルであるジョー・バイデンの息子、ハンター・バイデンのウクライナでの「所業について調べろ」ということである。
もちろんトランプはそんなことは言っていないと否定。だがテイラーは22日、連邦議会の聴聞会で、トランプのこうした言動を覚えている限り詳細に話をしたのだ。普通は公聴会という一般にも開放されたスタイルで行われるが、今回は密会で、参加者は連邦議員のみ。同席していた議員たちからは「これでトランプの弾劾は間違いない」というコメントがでてきている。
いまアメリカではトランプの「俺の言うことを・・」という脅し文句を「quid pro quo」というラテン語で表現している。辞書では「交換」とか「代償」と訳され、日本のメディアでは「交換条件」と訳している。
だがそれではわざわざquid pro quoという言葉を使う意味がない。単なる交換条件では意味がぼやける。本来の意味は「脅して交換条件を迫る」であり、トランプのマフィアまがいの言動がこのラテン語の表現なのである。
それを米代理大使であるビル・テイラーが議会で明らかにしたのだ。大統領に反抗したガッツある外交官に拍手をおくりたい。(敬称略)