本選挙の票読み

アメリカ大統領選挙はオバマ対マケインという対立軸ができたことで、軸を中心にしてどれだけの求心力が得られるかが今後の焦点となった。メディアの関心は二人の政策や副大統領候補が誰になるかに向けられるが、私はすでに既存メディアで発言しているので、ここでは触れない。

ブログのよさはいい意味の過激さであり、先見性であると思うので、ここでは11月4日の本選挙の予想を試みたい。

本選挙は選挙人の数で争われる。予備選でしきりに語られた代議員とは違うシステムだ。全米50州と首都ワシントンの全選挙人をあわせると538人。過半数の270人を獲得した候補が次期大統領となる。それでは現段階での予想を記していこう。

予備選が終わったばかりだが、本選挙で民主・共和両党が確実にモノにする州というのが見えている。いくらオバマに人気があろうが、「ほとんど勝ち目のない州」がいくつもある。たとえばテキサスやアラバマだ。逆にマケインがどれだけ奮闘しても勝てない州がある。ニューヨークやカリフォルニアだ。

オバマが高い確率で勝つ州はカリフォルニア、ニューヨーク、イリノイ、ハワイ、ワシントン、オレゴン、メイン、バーモント、マサチューセッツ、コネチカット、ロードアイランド、デラウェア、ニュージャージー、ペンシルバニア、メリーランド、ワシントンDC,ミネソタ、アイオワの18カ所。選挙人の合計は228だ。

一方、マケインが勝つと思われる州はアラスカ、モンタナ、アイダホ、ワイオミング、ユタ、アリゾナ、ノースダコタ、サウスダコタ、ネブラスカ、カンザス、オクラホマ、テキサス、アーカンソー、ルイジアナ、ミシシッピー、アラバマ、ジョージア、ウェストバージニア、ケンタッキー、テネシー、サウスカロライナの21州である。合計選挙人数は163だ。

勝った州の数はマケインの方が多いが、選挙人数はオバマに軍配があがる。選挙人は代議員と同じで人口の多い州に多く割り振られているため、オバマが228でマケインが163という数字がでてくる。

問題は残りの12州である。いわゆる激戦州(パープルステート、スウィングステート)だ。オハイオ、インディアナ、フロリダ、ネバダ、コロラド、ニューメキシコ、ミシガン、ウィスコンシン、バージニア、ノースカロライナ、ミズーリ、ニューハンプシャーの合計選挙人は147。それを二人がどう取り分けるか。勝負はそこである。アメリカで過去4度、予備選から本選挙まで取材したことで見えてくるものがある。

今年の予備選を振り返ると、オバマは激戦州の多くでヒラリーに負けた。それはマケインにも負ける可能性が高いということに等しい。白人の人口比が高く、労働者や低所得者の比率が高い州である。

そうした状況をすべて加味して激戦州を二人に割り振るとどうなるか。結果は272対266でオバマ辛勝ということになる。

共和党の選挙戦術の巧みさや、支持基盤であるキリスト教福音派の力強さはもちろん指摘されるべきだが、アメリカ大統領選は間接選挙であり、州ごとに集計される点を忘れてはけない。現時点の総合判断によると、私はオバマ勝利と予想する。(敬称略)

オバマ政権のウチガワ

5月24日発売の『週刊現代』に「オバマ政権が誕生したら」という内容の記事を書きましたので、読んでいただけますと幸いです。

「ワシントンはすでにオバマ候補の副大統領候補の話題で持ちきりです」

事実上の民主党代表候補に決まったバラック・オバマ候補は、8月25日からコロラド州デンバーで行われる党大会までに副大統領候補を選ばなくてはいけない。

時間は十分にあるが、「早期に決めた方が共和党ジョン・マケイン候補と戦う戦略を練りこめるので有利です。ヒラリー・クリントン候補を副大統領に指名するかどうかが最大の注目点です」とワシントンのシンクタンク「責任政治センター」のマシー・リッチ氏は語る。

ヒラリー候補は選挙戦序盤からオバマ候補とタッグを組むことを否定していない。オバマ候補も遊説中、「ヒラリー候補が(副大統領の)人選リストに入っている」と述べるなど、ライバルでありながら互いを意識してきた。

オバマ候補は党内の若者と黒人を中心にしたリベラル層から強い支持を得ているが、白人の中高年有権者や女性、労働者からの支持は強くない。ヒラリー候補と組めば話題性だけでなく、支持層の拡大は間違いない。ただ、両候補は1年以上もライバルとして非難しあっており、正副大統領としてしっくりした関係に戻れるかは疑問だ。

他の候補者としては、バージニア州のジム・ウェブ上院議員、ニューメキシコ州知事のビル・リチャードソン氏、オハイオ州知事のテッド・ストリックランド氏、アリゾナ州知事のジャネット・ナポリターノ氏などの名前が挙がっている。

先行する話題は副大統領候補だけではない。すでにオバマ政権の閣僚人事にまで話がおよんでいる。もちろん現段階では予測にすぎないが、主要ポストの候補者を記しておこう。

まず外務大臣にあたる国務長官だ。副大統領候補にも名前が出ているビル・リチャードソン氏が有力視されている。国連大使をこなした経験が買われている。ゴア副大統領にエールを送る声もある。また、日本人には馴染みが薄いミシガン州知事のジェニファー・グランホルム氏の名前も挙がっている。オバマ候補と同じハーバード大学ロースクール出身の女性だ。

財務長官候補にはヒューレット・パッカード(HP)社前社長のカーリー・フィオリーナ氏やマイケル・ブルームバーグ・ニューヨーク市長などが有力視されている。ダークホースとしては投資家のウォーレン・バフェット氏の名前が取りざたされている。

国防長官には、4月にオバマ支持を打ち出したサム・ナン元上院議員が噂されている。長年、上院外交委員会の重鎮として国防に携わってきた人物だ。さらに4年前の大統領選に出馬した退役軍人のウェズリー・クラーク氏、同じく退役軍人のポール・イートン氏などの名前も挙がっている。

司法長官には選挙戦をともにたたかったジョン・エドワーズ元上院議員を望む声がある。エドワーズ氏は早々と副大統領候補にはならないと宣言したが、閣僚ポストを辞意しているわけではない。司法長官という役職ならば受ける可能性はある。

それではオバマ政権が誕生すると内外の政策はどうなるのか。ポイントを整理したい。

内政を一言でまとめると、「増税による社会保障の拡充と弱者への手厚い加護」ということになる。これは伝統的な民主党政治にもどることを意味する。たとえば所得税は現行の上限である35%から約40%に引き上げられる予定だ。ブッシュ大統領が実施した富裕層への減税からの離脱である。もちろん税制改革は多岐にわたり、専門家からは「むやみに複雑になるだけ」との批判を浴びている。

その経済政策を練るのが数人の若い経済学者たちである。筆頭にくるのがシカゴ大学経営大学院のオールタン・グルービー教授で、オバマ政権が誕生したときにはホワイトハウスの国家経済会議か経済諮問委員会のメンバーになるだろう。さらに、ハーバード大学のデイビッド・カトラー、ジェフリー・リーブマン両教授も側近になる可能性が高い。

彼らは経済成長によって得られる所得の分配と、社会保障の拡充を主張している。その柱に教育や社会インフラのさらなる拡充、エネルギーの自給自足、研究開発費の増額を打ち出している。高い教育水準は中長期的に働き手の賃金上昇を生み出し、それによって富の不均衡が是正されると考える。実に民主党らしい政治理念である。

それがアメリカ貿易赤字の積極的な是正という態度に表れる。北米自由貿易協定(NAFTA)はアメリカを他国に安く売りすぎていると観点から修正するつもりだし、対中貿易赤字を削減させるためには強硬手段も辞さない構えだ。

それでは日本についてはどうか。現在まで、オバマ候補は対日政策にはほとんど言及していない。それは日本がアメリカにとって、もはや「問題国」ではないことの証拠でもある。日米両国はオバマ政権下でも重要な二国間関係でありつづけるし、同盟関係をゆがめることは誰にでもできないだろう。

外交政策ではすでに「オバマ・ドクトリン」と呼べる基本理念ができつつある。一言で書くと、「ブッシュ政権で失墜したアメリカの威厳を回復し、民主主義を世界に広める」という内容だ。目新しさはないが、オバマ候補は真剣だ。

具体的には何をするのか。オバマ候補が端的に述べている。

「イラク戦争を終わらせます。キューバのグアンタナモ基地を閉鎖します。アルカイダとのテロ戦争を終結させます。そして21世紀に我々が直面している共通の脅威である核兵器、テロリズム、気候変動、貧困、大量虐殺、疫病と戦います」

メッセージとしては大変りっぱだが、具体的な政策の詳細はこれかである。そこがヒラリー候補から「口先だけ」と言われ続けた理由でもある。本当に内外の問題を解決してゆけるかは未知数だ。

昨年11月中、演説中にこう述べている。

「あなた方こそがこの国を動かせるのです。あなた方の将来こそが私たちの将来です。いま動く時がきたのです」

政治家としての真価が問われるのはこれからである。

カネの威力、再び

「いつまで続くんですか。半年くらいやっていますよね」

先日、髪を切ってくれる女性が訊いてきた。

「予備選は6月3日で終わりますから」と答えると、彼女はまた訊いた。

「ヒラリーはもう勝てないんですか」

日本の新聞では、朝日や日経が「オバマの勝利宣言」と伝えたが、読売は「勝利宣言は控える」、毎日は「終結宣言は見送る」と書いた。正確には読売と毎日が正しい。すでにヒラリーに勝ち目はないが、オバマは対戦相手が投了していないし、獲得代議員総数も過半数に達していないので、正式には「勝った」ことになっていない。事実上の勝利に違いはないが、オバマ自身も「代表候補に手が届くところ」と表現している。

アメリカにいる日本の特派員はそのあたりの事情を呑み込んでいるのだろうが、紙面からは読み取れない。過半数は2025で、オバマは20日のケンタッキー、オレゴン両州の予備選が終わった段階で、いまだに1962(CNN調査)である。公式な勝利はもうすこし先である。

大統領選挙について綴った拙著『大統領はカネで買えるか』を持ち出して恐縮だが、本の帯に「ヒラリーが負けない本当の理由」というコピーが躍っている。事実上負けてしまったので弁解の余地はないが、カネがどれだけ集まっているかで勝者をある程度読めるという点では間違っていなかった。

昨年末まで、ヒラリーの選挙資金はオバマをはるかに上回っていた。だが、今年は1月からオバマがヒラリーを凌駕している。4月の集金額を比較しても、オバマは約36億円、ヒラリーは約28億円と差がある。昨年からの集金総額は、オバマが約272億円であるのに対しヒラリーは約220億円で、50億円ものひらきができてしまった。

カネだけで票は買えないが、集金力の差が絶大な力をもつことは事実である。ヒラリー陣営は、ここまで集金力で差がでるとは思いもよらなかったはずである。今後の選挙はオバマ対マケインになるが、ここまでのカネの集まり方だけをみるとオバマ圧勝である。マケインは約98億円しか集まっていないので、オバマのほぼ3分の1だ。

けれども、秋になると共和党の集金マシーンがあらたに稼働しはじめるはずである。オバマがいまのまま本選挙でもインターネットを通じてカネを集め続ければ、専門家の間で語られ続けている「オバマ不利」という構図を覆すことも可能だろう。

オバマにとっての本当の戦いは夏以降である。(敬称略)

秒読み

しばらくブログの更新を怠っていたら、「ヒラリー撤退」が秒読み段階にまできた。

 先月下旬、NNN24の大統領選挙特番に出演した時、民主党の代表候補が決まる時期をボードに書かされたので、思いきって「6月中旬」と記した。テレビはそういう媒体なので、ハズレても悔いはない。

「はっきりしたことはわかりません」などと慎重なことを言っていては興ざめである。予測は予測だ。もはやオバマが勝つことを疑う人はいない。それが早まるかどうかだけである。すでにオバマ陣営とマケイン陣営は、党大会までの3カ月間に討論会を行う計画を立てている。動きは早い。

政治家としての経験はマケインに敵うわけもないが、経験不足が理由で選挙に負けるわけでもない。ネケディもクリントンも経験不足のまま大統領に当選した。二人の対抗馬は老練なポリティシャン(ニクソンとパパブッシュ)だったが、決め手になる要素は他にあった。元首レベルの政治家になるための重要点は、学習能力の高さとリーダーシップ、コミュニケーション能力、そしてまぶしいくらいに輝くカリスマ性である。自民党の福田はそのすべてを欠落させている。 

11月の本選挙は選挙人システムで行われる。代議員もわかりにくかったが、今後は選挙人というさらなる難関が待ち受ける。そのシステムの中で、アメリカの有権者動向を冷静に眺めると、オバマよりも「マケイン有利」であることは明らかだ。

大統領選挙を丹念に追っているアメリカの研究者やジャーナリストはすでに州レベル、さらに激戦州の地区レベルで勝敗ラインの予想に入っている。民主党レースがこれだけ盛り上がっても、1980年以降クリントン政権を除いて共和党保守が大統領を当選させてきたことを考えると、マケインにカネが集まっていなくともあなどれない。

オバマの勢いと魔性が秋にどこまで共和党を崩せるかが見ものである。(敬称略)

橋下知事に必要なもの

大阪府知事の橋下が涙をみせた。それ自体に大きな意味があるとは思わないし、ヒラリーの涙落と同類であるとも思わない。

ここでの問題は橋下の改革案の見せ方にある。17日、府庁で43市町村の首長に財政削減案を示したが、いくら改革プロジェクトチームを組んでも1対43という立場で優勢な議論を展開できるわけもなく、説得もできない。

知事に当選してから、財政改革と重要政策立案の2つのプロジェクトチームを作った点は結構である。今年度予算で1100億円の金額を減らそうという心意気も買う。改革にはスピードが必要だからだ。

だが、橋下がやるべきことが2つある。最初は43人の首長との接し方だ。相手は10も20も歳が上の老練な政治家である。地元自治体への補助金が削減されて喜ぶ人間はいない。しかも、わざわざ1対43という構図で、浪花節的に涙をみせて「お願いします」でコトがうまく運ぶわけがない。

彼にプロの政治コンサルタントはついているのだろうか。政治はある意味で国民の面前で執りおこなうショーである。これからはプロの演出家をつけるべきだ。日本では首相官邸でさえ、その道のプロが勇躍しているとの話を聞かないので、橋下のもとには府庁職員がついているだけだろう。

17日、橋下は1対43ではなく、23対21になるくらいの勢力を前もっと作る必要があった。首長たちの反応をみると、17日に始めて具体的な改革案に触れたような印象だ。根回しはしたのだろうか。見せ方とアプローチのしかたが下手すぎる。

別に43人を同時に集める必要もなかった。個別に府庁に呼び出して、橋下案を支持する内外の専門家と一緒に10対1で攻め落とせば削減案を飲ませることはできたかもしれない。 

さらにプロジェクトチームが作成した財政改革案には「削減」の文字しか見えないように思える。財政削減をするにあたり、余分な脂肪を落とすことは必須だが、同時に新陳代謝を高める必要がある。それでないと引き締まった体は作れない。

すでに大統領選挙レースから退いたジュリアーニがニューヨーク市長だったとき、財政再建に成功したカギは減税だった。減税?税収が減るだろう、とお考えかもしれないが、彼は税を減らすことで消費を高め、法人のビジネスを加速させ、長期的には大幅な歳入増を実現させた。

どの国でも単年度で多額の赤字を黒にすることは無理だが、複数年府政を司る知事は首相とちがって不可能な仕事ではない。橋下は弁護士ではあっても、プロの政治家として見せ方と内外の行政手法をいろいろと学ぶべきである。(敬称略)