イマに乗る

「大変なことが起きていますね」

その一言で、こちらはすべてを察しなくてはいけない。

1時間前に起きたニュースであれば知らないこともあるが、同業者は知っていて当たり前という口調で電話をかけてくる。もちろん知らない場合は「何があったんですか?」と訊きかえすが、半日前のできごとを知らない時など、ニュースに携わる人間としては恥ずかしさが先にたつ。

今週も夜は同業者や政治家との酒席が続き、話題はイマに集中する。政治・経済問題、社会問題、芸能にまで話がおよぶ。

しかもすべての出来事を知っていて当然という「語り出し」がほとんどなので、こちらは常にニュースに目を這わせ、いつもアンテナを張り巡らせていなくてはいけない。

先日も、ある番組のディレクターから電話があり、アメリカ大統領選の話をしてほしいとの要請があった。ディレクターは「おじさんがすごいこと言っていますね」と振ってくる。

その一言だけで、こちらは誰がどういう発言をしたかをすぐに察しなくてはいけない。

それが当たり前と言えば当たり前で、「誰ですか」などと訊き返すことはジャーナリストとして「イマに乗れていない」ことを証明するようなものである。

ただ時々、本当に知らないことがある。

相手はわかっていて当然という態度で話を進めてくるので、その時は黙って聞いているしかない。電話が終わり、こちらは慌ててリサーチをする。

知らないことは決して恥ずかしいことではないが、ニュースを仕事にしている人間にとっては大いなる恥である。

またスマホを手にしたまま路上で赤面しないために、アンテナの受信感度は高めておくことにする。

米ニューヨーク市に住んでいる知人が興味深いメールを送ってきた。

「ハンプトンズの夏の貸別荘の家賃が100万ドル(約1億2300万円)を超えています。異常と呼んで差し支えない値段です」

ハンプトンズというのは、ニューヨーク州ロングアイランドの東端に位置する海浜の高級住宅街で、ニューヨーカーの夏の避暑地として多くの別荘が貸し出されている。

5月下旬の祝日から9月初旬の祝日までの3カ月半の借り賃として、1億円超を払う人がいるというのだ(億万長者が金持ちではなくなった米国の異常)。

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Photo courtesy of Global14.com

「僕はどちらかと言えば内向的なんです。でも大統領になりたい」

2016年に行われる米大統領選に正式に出馬したジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事(以下ジェブ)は15日、周囲の記者たちに自分の性格に関する本音とも受け取れる発言をした。

昨年から共和党の本命といわれてきたジェブだが、自身を「内向的(I’m introverted)」と認めたことで、今後の選挙レースで波紋が広がるかも知れない(ジェブ・ブッシュが共和党の大統領候補になる理由)。

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Photo courtesy of LibertyFact.com

猪熊弦一郎とネコ

四国、香川県丸亀市にきている。

丸亀駅から南側にのびる商店街はガランとしており、半数ほどの店舗はシャッターを降ろしている。昼間でも人通りが少なく、キャッチボールができるほどだ。

渋谷のセンター街の人混みを100とすると、丸亀駅商店街は5といったところか。

駅の隣に建つ猪熊弦一郎現代美術館に足を運んだ。いま「猫達」という特別展がひらかれている。

猪熊弦一郎と聞いて、すぐにピンとくる方は多くないかもしれない。20世紀に生きた洋画家(1902―1993)で、モチーフのひとつが猫だった。

1938年にフランスに渡ったときにマティスと出会って影響をうけている。55年からはニューヨークに拠点を移し、20年以上も過ごした。

48年から40年間、小説新潮の表紙絵を描く一方、百貨店三越の包装紙やショッピングバッグのデザインも手がけた多才なアーティストだった。

美術館はありあまるほどの空間が生かされて、猫の絵がずらりずらりと、これでもかと言わんばかりに展示されている。何百匹という猫たちをさまざまな手法で、新しく、そして普遍的に描いた。

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美容室に男子・・・解禁?

まったく知りませんでした。

男性はヘアサロン(美容院)でカットをしてもらえない、、、というルールがあったことを。

厚生労働省は1970年代、美容室に対してある通知をだしていた。それが「男性にヘアカットだけのサービスを提供してはいけない」というものだ。そのルールがこのほど撤廃された。

しかもいまだに政府は「ヘアサロン」でも「美容院」でもなく「美容室」という言葉をつかっている。どうしたのだろう?という思いである。

逆に女性がバーバー(理容室)にいって髪を切ってもらうことに問題はなかった。実に不思議なルールである。「50年遅れちゃいました!」という感じである。

もちろんこれまでも男性がヘアサロンにいき、髪を切ってもらうことに実質的な問題はなかった。政府のルールは有名無実化していたが、なぜそうした縛りを作ったかに驚かざるをえない。

ルールは撤廃されたが、今後も理容師と美容師は同じ場所で働けないというつまらぬ規制は残るという。両者は国家資格が違うかららしいが、同じ空間で仕事をしてはいけない理由が見いだせない。

つまらぬ理由を言ってきたら、論破したいくらいだ。

わたしは過去30年以上、美容院で髪を切ってもらっている。過去何年かは同じスタイリストさんだ。

そのヘアサロンには男性客もくるが、やはり20、30代の女性客が中心である。周囲の会話は恋バナで弾んでいたりする。

ワシントンに住んでいたときもヘアサロンに通っていた。モデルのような白人女性が横にきたりすると、なんとなく落ち着かないこともあった。

だがある日、ブルーと黒のストライプのシャツを着た70歳前後と思われる男性客がいた。8割ほどが白髪だった。

けれども、ひるんだり、恥ずかしがるような素振りはまったくない。むしろ、楽しそうに若いスタッフと話をしながら髪を切ってもらっている。

「負けました」

心のなかでつぶやていた。

ただ、わたしがいつまで平常心のまま20代の女性たちに混じって髪を切ってもらえるかは正直わからない。それでもあと10年くらいは大丈夫そうな気がしている。