「イラク政府はもう対処できない!」

10日午後、東京青山にある国連大学でイラクの現状についての少人数の会合があり、出席してきた。

イラクに常駐している国連の調整官リズ・グランデから話を聴きくと、イラクは来年になると今よりもさらに状況は悪化するという。17都市がいまイスラム国(IS)の支配下にあり、今後1100万人から1200万人が自分の家に住めなくなる可能性がある。

東京都の人口とほぼ同じ人数が自宅を追われるということである。シリアの難民問題も深刻だが、イラクの状況も悪化しているのだ。

1ヵ月ほど前の当ブログで、国連はイスラム国を殲滅させるような戦闘集団ではないと書いたとおり(国連は機能しているのか )、イスラム国を駆逐するという点で、国連は手立てをもたない。戦いは米英仏を中心とした有志連合に頼らざるをえない。

グランデが所属する国連開発計画(UMDP)は逃げだした無辜の市民に手を差し伸べることを使命とする。イラク政府はほとんど何の対処もできず、お手上げ状態であるという。

シリアにしてもイラクにしても、その惨状は日本で生活しているかぎり想像の外側にある。

会合が終わったあと、アメリカの特殊部隊の活動について訊いてみた。知っているはずだと思っていた。

グランデはアメリカ政府が発表する人数よりもはるかに多くの特殊部隊がイラク領内に送り込まれていると言った。そして「米軍は優勢で、イスラム国を叩いている」と口にした。

目をおおいたくなるような現状報告のなかで、それが唯一の希望と呼べるものだった。(敬称略)

TPPと「世の中こんなもの」

今朝は5時に起きて、ラジオ出演(ベイFM)の準備をする。今日のテーマはTPPだ。「いまさらながら」という感じではあるが、重要なトピックである。

2006年にTPPが始まった時はたった4カ国だけ(シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランド)の貿易協定で、小さな集まりだった。10年になってアメリカやオーストラリアなどが加わり、日本は13年に参加。最終的には12カ国、世界のGDPの4割をしめる大きな体制になった。

TPPが各国にどういう影響を与えるかについては、いまでも賛否両論がある。弱肉強食を前提とする新自由主義に反対する学者たちは、頑なに反対した。国内の農業従事者のほとんども反対。

首相の安倍も当初は反対していたが、のちに賛成にまわる。日本の大企業のほとんどはTPP推進派で、業種によって支持と反対が鮮明になっている。

各国の産業と市場にどういう影響がでるのか、本当のところはわからないというのが正しい判断だろうと思う。

なぜか。興味深い話がある。1994年1月、NAFTA(ナフタ・北米自由貿易協定)という自由貿易を推進する協定がアメリカとカナダ、メキシコの3国間で発効した。

発効前、経済学者の多くはNAFTAによってアメリカは隣国の市場を自国のように使えるので、輸出量が増えると読んだ。それまでの貿易赤字は解消にむかうと推測した。

だが結果はまったく逆だった。アメリカの対2国の貿易収支は94年以来、赤字が増え続け、累計赤字は1810億ドル(約21兆円)に達している。

「世の中こんなもの」と言えばそれまでだが、アメリカ産業界の損失は大きい。雇用は100万超が奪われたといわれる。

さらに、世界最大の農業大国であるアメリカがメキシコに安価な農作物を輸出したことで、メキシコの農業が壊滅的な打撃を受けた。それによって失業したメキシコの農業従事者がアメリカで仕事をしようと国境を越えている。

大統領候補のドナルド・トランプは国境に万里の長城を築くと言っているが、大量の失業者をだすきっかけはNAFTAにあったのだ。

この帰結をNAFTA締結前に正確に読んだ人はほとんどいない。私はワシントンでNAFTAの交渉をずっと見守っていたが、反対派こそいたものの、いまのような貿易赤字の拡大を見越した人は記憶にない。

TPPでも同じように、発効後に予想外のことが起きる可能性は十分にある。

なにしろ「世の中こんなもの」なのだから。

富裕層の難民

シリア難民の問題が深刻化している。

ヨーロッパ諸国はいまのところ、ドイツを除いて難民の受け入れには消極的だ。拒絶している国もある。そのため、多くのシリア難民はドイツを目指している。

そうした難民の中には富裕層の人たちもいる。内戦によって母国に住めなくなる状況は貧富に関係ないが、資産のある家族は別ルートですでに他国に逃げていることが多い。

パスポートやビザが正規のルートで入手できなければ、偽パスポートや偽ビザを使って飛行機で他国にわたる。すでに何ごともなかったかのようにヨーロッパ諸国に移り住んでいる富裕層もいる。

それはベトナム戦争時の南ベトナムからの難民にも同じことが言えた。ボートピープルと言われた人たちは小さなボートに乗って海に出た。

外国籍の船に拾い上げられればラッキーで、海賊に金品を奪われ、女性たちは強姦されたという話はいくらでもあった。ただ当時も富裕層のベトナム人がいて、彼らはボートではなく飛行機に乗って他国へ逃げた。

アメリカに住んでいたとき、その 1人に話をきいたことがある。印象的だったのは、彼らは平時から資産を土地や建物では持たなかったことだ。

戦争が絶えず行われて国境が変わるような国では、土地など「無」に等しいというのだ。お金持ちは資産をキャッシュか宝石で持つと言った。

ただ、いまテレビで映し出されるシリア難民の中には多額のキャッシュを抱えてドイツに向かっている人たちもいる。

今日、ヨーロッパ人の記者数人と話をしていて悲惨なストーリーを耳にした。

彼らの中には逃げる途中で、悪徳の越境請負業者に多額のカネを巻きあげられてしまう者がいるというのだ。組織犯罪グループが関与していることもある。

あるシリア人家族は悪徳業者から、「オーストリアの国境まで1000ユーロ(約13万円)でいってやる」と言われ、車に乗った。だが途中で金品を奪われたうえに、まったく知らない場所で降ろされたという。

そんな中、エジプトのビリオネアがすごい提案をした。地中海に浮かぶイタリア領の島を買いたいというのだ。もちろん難民に住んでもらうためだ。真剣にイタリアに「売って欲しい」と懇願した。

そこに新しいコミュニティーができれば何よりである。暗い話が多いなか、笑顔になれるニュースが降りてきて嬉しくなった。

気温73度

暑い日が続いている。

ただ暑い暑いといっても40度には到達していない。日本ではあまり報道されていないが、イランのバンダルマズハーという都市で今月2日、摂氏73度が観測された。73度である。

スポーツジムでたまにサウナに入るが、そこの温度が約80度。我慢にガマンして10分。それ以上いると、両眼にキラキラした花が咲いたようになるので、私はすぐ出てしまう。

イランの人たちは、73度をどうやって耐え凌いでいるのだろう。この熱波はイランからイラク、アラブ首長国連邦にいたる中東地域を襲っているという。

熱波は2020年には倍増し、40年には4倍になると国際組織の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が発表している。

地球は2030年からミニ氷河期に入るのか?」などと先日、記事を書いたばかり。

「無責任だなあ」と思う。雑文を書き散らしていると、こういう目に会うのである。

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by the White House

先日、都内で退役米軍将校と会食をした。在日米軍に長く勤務した元将校は、「米軍の見解ではない」と前置きしたうえで言った。

「正直に申し上げれば、普天間飛行場は必要ないです。辺野古への移設という問題ではなく、極東アジアの戦略上、沖縄に米海兵隊はいらないのです」

決して新しい論点ではない。しかし退役したはいえ、米軍の元将校が海兵隊不要論を述べた点で興味深い(米国も実は不要と思っている普天間基地 )。