さらに遠のく拉致問題

北朝鮮に拘束されていた3人のアメリカ人が解放された。これはトランプ政権の外交手腕がいかされたことに他ならない。

それでは日本の拉致被害者はなぜ返ってこないのか。

安倍はトランプに拉致問題についても「お願い」したようだが、3人が解放されても日本人拉致被害者は帰ってくるどころか情報さえ出てきていない。

トランプだけでなく、アメリカの歴代大統領は人権問題には敏感なので、本気で拉致問題を議題にしたと思えるが、この問題はやはり当事国の日本政府、安倍が全面にでて解決しなくてはいけない。

今年4月11日、首相官邸ホームページに「米朝首脳会談の際に拉致問題が前進するよう、私が司令塔となって、全力で取り組んでまいります」発言が載った。だが安倍がほとんど何もしていないことは5月11日のフジテレビの生出演で明らかだった。

フジ側が「4月27日の南北首脳会談で、金正恩は『なぜ日本は拉致問題について直接われわれに言ってこないのか』と文在寅に言ったという。この点についてはどうですか」と質問されると、安倍はこう言った。

「これは見方によってはですね、、、それは、、応じるかもしれない、、そういう分析もできる」

まったく答えになっていない返答しかできなかった。「北京の大使館を使ってやっている」とは述べたが、金正恩に直接伝える術をもっていないことを明かした。

国交がなくともトランプはポンペオを秘密裏に平壌に派遣した。日本もそれくらいのことは最低でもしないといけない。

先日、テレビ番組で一緒になった日本の元外交官に「北朝鮮に行かれたことはありますか」と訊くと、「いくわけないじゃないですか。そんなことしたらクビですよ」と即答する。

これでは北朝鮮とパイプができるわけもない。私ですら個人で平壌に行っているのである。あらゆるルートを使えば金正恩に接触することは可能なはずだ。

1971年、ニクソン政権の安全保障問題担当補佐官だったヘンリー・キッシンジャーが国交のない北京を極秘に訪れて、米中和解の足がかりをつくったように、メディアの見えないところで秘密裏にコンタクトをとることすらしない安倍外交には落胆させられるだけである。

彼には本気で拉致問題を解決しようという気がないことの証左である。(敬称略)

核兵器を共有しませんか!?

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(2011年4月、北朝鮮側から撮った板門店。右奥の白い建物が会談が行われた平和の家)

板門店で南北首脳会談がはじまった。

午前9時半、金正恩が和やかな表情で文在寅に近づき、握手を交わした。さらに2人は手をつないで国境を行き来し、会談場所へと歩を進めていく。

これだけを眺めると、南北首脳が過去のいざこざをすべて過去へ押しやり、両国が統一に向けて歩きだしたかに見える。

統一という最終目標を重視し、そこに至る途上のデコボコや障害をすべて乗り越えるだけのエネルギーと手腕があれば、最終地点に行きつくことは可能に思える。それほど両首脳が出会ったときの表情はよかった。

時に楽観は重要である。だが、それですべてがうまくいくわけではない。北朝鮮が核兵器をすべて放棄するとは考えにくい。一度手にした「魔のオモチャ」は手放せない。核兵器こそが最後のカードであり、国家の自信につながるからだ。

仮に「核兵器は捨てません。でも文さん、われわれと共有しませんか」といった提案が金正恩から発せられたらどうするのか。

今日の会談でどこまで核兵器について語られたのか。すべてを知りたいところである。(敬称略)

似た者同士

8日午前、トランプが金正恩からの招待を受けたことで、米朝関係は急速に前へ進みそうだ。

しかし今年1月1日、金正恩は「新年の辞」で「アメリカ本土全域が我々の核攻撃の射程内にあり、核ボタンはいつも机の上にある」とアメリカを威嚇していた。

翌日にはトランプが、「より大きく強いボタンが自分の机の上にある」とツイートで反撃。2カ月半前まで、米朝関係は緊張状態にあった。

それが平昌オリンピックを契機に、まず南北が接近し、雪解けとも思えるような関係改善から、北朝鮮は急にアメリカに接近してきた。

表面的にはたいへんいいニュースだし、私も昨日、テレビの生放送でそう発言した。しかし、いつトランプと金正恩に心変わりが起きてもおかしくない。それほど二人は気まぐれであり、サイコパスといっていいほど反社会的な人格を形成してきたと思える。

似た者同士のリーダーである点で大変仲良くなる可能性があると同時に、すぐに心変わりして相手を嫌悪し、憎しみを抱くこともあるだろう。

しかも2012年4月、北朝鮮は最高人民会議で憲法改正をおこなって、序文で「核保有国」になったと明記した。その国が簡単に「非核化」を行うとは思えないし、信じられないのだ。

非核化をするということは、憲法違反のなにものでもない。金正恩はどう説明するつもりなのだろうか。たぶん本心には、非核化などないとみる。

米朝関係は楽観と悲観をかかえたまま、相互に出方をうかがいながら進んで行くことになるが、私は楽観視していない。(敬称略)

北朝鮮問題の落とし所(3)

来週9日、南北高官が会談をひらく。韓国の文在寅政権側からの提案だが、なぜ北朝鮮は対話の提案に乗ってきたのか。

北朝鮮側には、圧力をかけ続けてきた日米韓の連携を分断させる意図があるとの報道もあるが、本当だろうか。アメリカ側からの経済制裁が効いてきているからとの見方もあるが、私の考え方は少し違う。

昨年11月、金正恩は火星15号の打ち上げのあと、朝鮮中央通信で「最終的に国家核戦力の完成という歴史的偉業を達成した」と宣言した。「完成」という言葉を使いはしたが、実際のところ核弾頭が機能するかはわからず、ICBMがアメリカ東海岸に本当にとどくかもわからないままだ。

それでも核兵器を持ったという事実は間違いないだろう。日米韓がいくら強力に核兵器の放棄を迫っても金正恩は今後「絶対に」核兵器を放棄しないはずだ。

核こそが唯一の生きる道なので、核兵器を今後放棄することはないと考えなくてはいけない。放棄する時は北朝鮮という国家の崩壊を意味することになる。

北朝鮮がいま望むのは抑止という体制の確立である。昨年12月初旬、国連のジェフリー・フェルトマン事務次長がピョンヤン入りした。そこで北朝鮮側の要望を聞いている。

短期的に北朝鮮が望んでいるのは「抑止力が働く保障体制の確立」であるという。それはアメリカから攻撃されないという確証に他ならない。

やはりアメリカが怖くて怖くてしかたがないのだ。

北朝鮮が核保有国であることは、国際的に認知されていない。誰もが核を保有するとわかっていても認めない。

アメリカはあくまでも放棄をめざすし、圧力をかけることを止めない。それが現実的な流れだ。

そのため韓国と北朝鮮が対話をしても、冬季五輪や離散家族については話し合いができても核放棄については平行線のままのはずだ。

そうなると、核兵器をもったまま米朝は今後も緊張の中でにらみあいをつづけることになる。

中長期的に両サイドが抑止体制を保つようになるのが、私が描くこれからの流れである(北朝鮮問題の落とし所)。(敬称略)

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(平壌郊外にて。2011年)

北朝鮮問題の落とし所(2)

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(北朝鮮側から撮った板門店。2011年)

金正恩に会うために中国共和党幹部の宋濤(そうとう)がピョンヤン入りしていたが、面会できずに北京にもどった。

宋濤は中央対外連絡部長という肩書で、共産党の政治局員ではない。北朝鮮トップに会うには格が下ということもあるが、金正恩が中国からの圧力や対話にはいっさい応じないという頑ななサインでもある。

北朝鮮はアメリカ側からの対話にも一切応じていない。北朝鮮側にしてみると、アメリカや日本からの核兵器放棄といった要求を受け入れるわけにはいかないので、会わないということである。

朝鮮半島周辺で行われる軍事演習を日米韓がやめれば、対話のテーブルにつくことがあるかもしれないが、それで問題が解決するわけではない。むしろ事態は膠着する。

北朝鮮は一度手にした核兵器を放棄しない。小国であればあるほど核兵器という武器にしがみつこうとするはずで、非核化はいまとなってはほとんど無理である。

アメリカ政府が対話へのハードルをさげて米朝会談が実現しても、両国は平行線をたどるだけだ。

核兵器を諦めさせるためにアメリカはさまざまな条件をつけるだろうが、北朝鮮はおいしい汁だけ吸って核廃棄をしない。

となると、交戦的な高官たちは軍事オプションを真剣に考える。北朝鮮市民ではなく、金正恩を含めた政権中枢だけを抹殺できればそれにこしたことはないが、過去も現在も未来も、軍事オプションには強いブレーキが働いている。

結局、現実的な近未来は交戦がないまま、米中間の緊張が維持された状態でにらみ続けるという流れになるはずだ(北朝鮮問題の落とし所)。