アメリカの祭り、カミングバック!

2012年のアメリカ大統領選が動き出した。

今月5日、オバマから「再選をスタートさせる手続きに入った」というメールが入った。メールの最後に「よろしくお願いします。バラック」という言葉がついている。もちろん大統領と知り合いというわけではなく、民主党のメールリストに私の名前が入っていただけだ。

私にとって大統領選はライフワークであり、祭りである。

14日、オバマは最初の選挙資金パーティーをシカゴで開いた。ミシガン湖につきだした海軍埠頭の特設会場に2300名が集まり、それぞれが100ドルから250ドルの献金をし、一晩で200万ドル(約1億6600万円)を集めた。

たまたま別の取材で、いまシカゴから北に約150キロいったミルウォーキーにいる。

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パーティーを仕切ったのは新しくシカゴ市長になるラーム・エマニュエルである(ある男の勝利)。

08年の選挙では史上最高額となる7億5000万ドル(約620億円)ほども集めたオバマは、今回は10億ドル(約830億円)を目指すという。実際の本選挙まで1年半以上もあるので本気で大台に乗せるつもりだ。

しかも選挙本部はワシントンではなく、オバマの地元シカゴに置いた。拙著『大統領はカネで買えるか?』で記したとおり、本当にオバマがその額を集められたら、圧倒的な優位にたつ。もちろん現職の強さもある。

アメリカ史上、現職大統領が再選で負けたことは9回しかない。現時点では団子状態にある共和党の候補予定者たちに水をあけているが、オバマ自身の支持率がギャラップ調査で41%まで落ちており、今後の選挙対策本部の動きが見ものである。(敬称略)

変わる面白さ

「ライフワーク」と自称している大統領選挙は、予想通りオバマ勝利に終わった。

多くの媒体から執筆やコメント、出演の依頼を受け、出せるものはほとんど吐き出してしまったという印象が強い。6月初旬、オバマがヒラリーを破って民主党代表候補に決まったときから、11月の本選挙で彼が勝つことは疑う余地がなかった。

共和党大会の前後で「ペイリン現象」なるものが生じたが、それは短期的な時流であって、底流に流れるオバマ支持にはほとんど影響がなかった。それは安心して見ていられた。

だが私は、今年の選挙で二つの過ちを犯した。拙著に記したことが外れたのである。民主党ではヒラリー、共和党ではジュリアーニが本命と書いた。本の原稿を書き終えたのが昨年11月末だったことは言い訳にならない。なぜなら、拙著を読んでいただくのは今年だからである。

昨年の今頃、ヒラリーはオバマに10ポイント以上の差をつけていた。ヒラリーは集金額でもオバマに大きく差をつけていた。ジュリアーニしかりである。だが、結局はヒラリーもジュリアーニも過去の人となり、見事に外れた。

新聞社にいる記者であったら更迭もあったかもしれない。大手新聞社の友人は以前、「政局を外したら部内でなんらかの仕打ちがある」と話していた。フリーランスという立場はありがたく、「どうして外したんですか」と正面から言ってきた人は一人だけだった。

投・開票日はテレビのナマ番組にコメンテーターとして出演し、オバマ次期大統領誕生の瞬間をテレビの中から観られたが、あまりにも予想通りの展開だったので拍子ぬけした。

アメリカの政治勢力図は2000年から変化していない。オバマは、04年にケリーが勝った全州を奪うことは容易に予想できたし、その上でオハイオかフロリダのどちらかで勝てば勝利する流れだった。結局、両州だけでなくバージニア、ノースカロライナ、インディアナという激戦州もオバマが勝ち、圧勝に終わった。

日本では、南部諸州はほぼ無条件で共和党にいくと思っている方がいるが、間違いである。候補の出身地が大きく獲得州に関与する。たとえばカーターが勝った76年、テキサスからルイジアナ、ミシシッピ、アラバマ、ジョージアと続くディープサウスはすべて民主党に流れた。カーターがジョージア州出身だったからである。

逆に80年のレーガンは、現在のリベラル州の代表であるカリフォルニアを確実に獲った。もちろんレーガンがカリフォルニア州知事だったからである。92年、アーカンソー出身のクリントンは同州の他、南部ではルイジアナ、ジョージア、テネシーを奪った。 

オバマが再選をめざす2012年の勢力図は、現在とほぼ同じと予想される。しかし、共和党がカリフォルニア出身の強力な候補を立てると事態は変わってくる。

「変わる面白さ」がアメリカの政治であると知ったのはずいぶん昔のことである。(敬称略)

日米の民主党リーダーへ

大統領選挙は本選挙(11月4日)まであと1か月となった。

多くの方がすでにご承知のように、形勢はオバマ有利で流れている。私はマケインとオバマの戦いについては、ずっとオバマ有利と各種メディアで書いてきた。6月5日のブログ(本選挙の票読み)でも、すでにオバマ優勢と記した。いまでは4カ月前よりもオバマへの追い風が強いし、1か月後、よほどのことがない限り「オバマ大統領誕生」というニュースが世界を駆け巡ると思っている。

9月26日にミシシッピー州で行われた第1回討論会直前、メディアだけでなく政治評論家の多くが討論会の出来いかんで流れが変わるという ニュアンスであった。10月2日の副大統領候補の討論会も同じで、選挙終盤になった今、もっとも大切なのは討論会といわんばかりの空気でさえある。

マケインとオバマは今月7日と15日にも討論会を行うが、何千万人もの有権者が観るわりには、10月に入った段階で、討論会後に支持候補を変える人は少ない。さらに討論会の前後で支持率に大きな変化は生まれない。過去何十年も同じ現象が起きており、今年も同じことが繰り返されている。だが、現場の記者は初めて大統領選をカバーする者も多く、「討論会が決めてになる」と興奮しがちである。討論会のもつ意味を熟慮していないのだ。

私が散見したメディア関係者の中で「支持率は変わらない」という事実をしっかり述べていたのは、CNNの政治分析家ビル・シュナイダーくらいである。さすがにわかっている。インターネットをはじめとして、テレビ、新聞、雑誌といった媒体数と情報量がふえ、今の段階にきて、いまだにマケインかオバマを決めかねている有権者は時代遅れもはなはだしい。

1時間半の討論会を観たあとに支持者を決めるという有権者は、過去2年弱におよぶ大統領選にほとんど関心を払っていなかったことを証明しているようなものである。有権者の30%は民主・共和両党に属さない独立派(インディペンデント)で、確かに態度を決めかねている人はいるが、日本のように公示から投票日まで2週間という短期の戦いではない。アメリカ大統領選での討論会というのは、改めて自分の支持する候補の政策と、政治家として重要な弁論術を「眺める」時間なのである。

たとえば92年の討論会で、パパブッシュとクリントンの支持率は開始前、それぞれ35%対52%だったが、3回の討論会が終了したあと、支持率は34%対43%でむしろクリントンの方が下降した。2000年のブッシュ対ゴアでも46%44%という数字は討論会前後でほとんど変化がなかった。今年も同じである。

支持率が現在オバマ有利に動いているのは、討論会の出来・不出来からではなく、経済危機に絡む市場の混乱と国民が抱えるアメリカ経済への不安感が共和党(現政権)に対して不利に働いているからである。今後1か月、株価の乱高下が繰り返され、銀行倒産などのニュースが流れれば流れるほどオバマ有利に傾く現象は加速する。

日本民主党はすぐにでもアメリカ民主党とオバマの外交担当者に接触すべきである。すでに遅いくらいだが、民主党(次期首相)は直接オバマ政権にアクセスできる外交ルートを今からつくっておくべきである。(敬称略)

がっぷり四つ

自民党の総裁選は9月10日の告示からはじまり、22日の両院議員総会(投・開票)まで2週間弱の戦いである。その間に討論会や街頭演説会があり、候補はくたくただろう。だが、アメリカの大統領候補は同じようなことを2年弱もつづけるのである。体力がないと続けられない。それ以上に、2年も続ける無駄をアメリカ国民は自覚していながら改められないでいる。

選挙システムの改正案は、過去何度も連邦議会に提出されては棄却されてきた。議員たちの過半数が結局のところ、「このままでいい」と思っているから変わらない。マイナーなルール改正はずいぶんとされたが、選挙期間を限定するまでにはいたっていない。

アメリカの大統領選挙には選挙期間がなく、2年という期間は出馬宣言をしてからの話であり、それ事前から活動しても誰もとがめない。激戦州と呼ばれる州に、4年間で100回以上も通った候補は過去何人もいた。それだけやっても当選しない人もおり、嗚呼、、、、というため息しかでない。

大統領選挙は投票日(11月4日)まで50日を切った。民主党オバマと共和党マケインは現在、土俵の中央でがっぷり四つに組んだまま動かないといった状況だ。8月下旬の民主党大会直後、両者の支持率は50%42%(ギャラップ調査)でオバマがリードしていた。党大会によるバウンス(はね上がり)現象である。

一方、9月1日から行われた共和党大会直後はマケインへのバウンス現象があり、今度はマケインが49%対44%とリードしたが、9月16日の最新世論調査ではほぼ互角に戻った。副大統領候補の「ペイリン人気」も10日間でほぼ落ち着いた。ギャラップ調査は、一般有権者が時流をどう感じ取っているかということを探るうえで貴重だが、民意の総体をあらわしてはいない。

相関関係はあるが、特定候補への本質的な支持率は過去半年、ほとんど揺らいでいないのだ。メディアにはあまり登場しないが、アメリカの政治学者たちは過去何十年にもわたって当選予想モデルをつかって勝者をいい当ててきている。学者によってモデルは違うが、いくつもの経済指標や党内状勢、社会現象を数値化して公式にいれて計算している。

そのほとんどのモデルでオバマ有利という結果がでている。一つは52.2%対48.8%という値だ。過去半年を振り返ると、実はオバマがマケインを2~3%差でリードし続けている。この数字は党大会や討論会直後であっても変化せず、有権者の根底に流れる意向を表しているといわれる。

問題がひとつある。一般投票数でオバマが勝っても、選挙人数で負けるかもしれないのだ。2000年のゴアのような惨劇がふたたび起こる可能性もある。そこにもアメリカの選挙制度の欠点が垣間見られる。(敬称略)

しもべとしての副大統領

アメリカ大統領選挙は予備選が終わって2カ月がたとうとしているが、いまだにオバマとマケインは副大統領候補を指名していない。 

期日が決められているわけではないので、党大会(民主党は8月25日~28日、共和党は9月1日~4日)までに指名すればいいのだが、両候補とも絞り込みに時間をかけている。

民主党の副大統領候補の中で、いまアメリカのメディアが最も注目しているのがバージニア州知事のティム・ケインだ。私はヒラリー・クリントンが指名される可能性もいまだに残っていると思っているが、オバマとヒラリーの関係者からは「ありそうもない」という報道が伝わってくる。

東京にいる歯がゆさは、そのあたりの事情を自分で取材できないところだ。電話でアメリカの党関係者やシンクタンクの研究者とよく話をするが、ジューシーな情報はなかなか入らない。私の力のなさの表れだ。

注目株として「赤丸」がつけられているケインは、オバマと同じハーバード大学ロースクール(法科大学院)を卒業した逸材で、長い間バージニア州リッチモンドで弁護士をしていた。2001年に同州副知事になり、05年から州知事を勤めている。現在50歳。

私は昨年帰国するまで20年ほどバージニア州に住んでいたので、ケインが副知事の時から名前は聞いていた。ただ、彼が副知事時代の知事であるマーク・ワーナーがあまりにも優秀だったことで、ケインに陽があたらなかった印象が強い。

ワーナーはジョン・F・ケネディを彷彿とさせ、大統領候補と騒がれた時期もあったが、ケインは失礼な言い方をすれば「建設現場の親方」のような姿態で、副大統領候補として名前が取りざたされることすら想像していなかった。

バージニア州は南部に入るのでもともと共和党の票田だが、今年の選挙では民主党が奪う可能性もある。そこでオバマは社会政策で共通項が多く、同州をものにできる可能性が高くなるという意味からもケインを選ぶと囁かれている。

その他にはインディアナ州上院議員でさわやかさがウリのエバン・バイ(52)、カンザス州知事のキャサリーン・セベリウス(60)、デラウェア州上院議員でワシントンの重鎮ジョー・バイデン(65)などの名前が挙がっている。

副大統領は大統領に不測の事態がおきた時に大統領に昇格する重要なポジションだが、その職務は驚くほど平坦で地味だ。上院での法案議決が50対50で割れた時に一票を投じて法案の運命を決めることが唯一の必須職務といえるくらいで、あとは最近のチェイニーのように表舞台に何カ月も登場しなくとも誰からも文句をいわれない。

有権者が11月の選挙で選ぶのは副大統領ではなく、あくまで大統領なのである。つまりオバマかマケインの二者択一の選挙であって、副大統領候補は「しもべ」でしかない。

なにしろ1933年から41年までフランクリン・D・ルーズベルトの副大統領だったジョン・ガーナーは「副大統領というのは水差し一杯のオシッコにも値しない」という言葉を残したほどだ。光の当たらない副大統領に辟易していたガーナーの悲哀が現れた表現である。(敬称略)