どういう角度から予測してもヒラリー勝利

アメリカ大統領選について相変わらず色々なところから呼んで頂いている。

東京の民放をはじめ、関西ローカルのテレビ番組だったりラジオ番組だったりするが、どこに行っても訊かれるのが「どちらが勝ちますか」である。

アメリカ政治を専門にしている研究者やジャーナリストの多くは「いまはまだわからない」と言う。「トランプでしょう」と予測する方もいる。

前回のブログでもご紹介した通り、私は春先から「ヒラリー」と言っている。今朝も文化放送の「くにまるジャパン」で、パーソナリティーの野村くにまるさんに訊かれたので、「ヒラリーさんが勝つと思います」と言った(くにまるアメリカ大統領選塾4)。

私の予測は決して「勢いがあるから」とか「そういう流れだから」という情緒的なものではない。

まず経済指標。アメリカの失業率は先月4.7%。5月のインフレ率はちょうど1%。両指数ともに低い数字である。2つを足して10%を超えるような年は現職大統領であれば再選は難しい。

消費者物価指数(CPI)も落ち着いていて、オバマ政権の民主党がもう1期大統領(ヒラリー)になっても悪くないとの潜在意識が有権者の中にある、いや、かなり強くある。

資金力。大統領選で私がもっとも重視する項目である。連邦選挙管理委員会が先月発表したヒラリーとトランプの選対の残金は、43億円対1億5000万円。比較にならない。

トランプは1兆円(自己申告)超の自己資産を持つが、ほとんどが不動産や含み資産として抱えているため、現金が意外にも少ない。先月から大々的に献金をつのるメールを送ると同時に、大口の献金者からのカネをあてにし始めた。

だがマネーマシーンと言われるヒラリーの選対には組織力と集金力でかなわない。

選挙資金の半分近くはテレビとラジオのCMの消える。ネットの時代であるが、テレビ・ラジオはいまでも重要で、ヒラリーは6月15日から27日までに9781本のCMを打った。1日約5000万円。

ほとんどがトランプを攻撃するネガティブCM。フロリダ、オハイオ、ノースカロライナ、コロラドなどのスイングステートで集中的にCMを流した。

一方のトランプは資金不足もあり、ほとんどCMを打っていない。いくらトランプがこれまでの選挙常識を覆してきても、サブリミナル効果のあるCMを観せられる有権者はトランプに否定的なイメージを抱く。

選対の組織力や政策の良し悪しを比較しても、トランプの勝ち目は薄い。

さらに第3の候補として、リバタリアン党のギャリー・ジョンソンが出馬している。現在の支持率はヒラリーとトランプに挟まれるようにして6%から10%の間を推移している。もちろん彼に勝ち目はない。

だが彼の名前が全米50州で投票用紙に載ると、保守派のジョンソンが数%でもトランプの票を奪うことになり、最終的にはヒラリーを勝たせる結果になる。

ジョンソンは自分に勝ち目がないことを分かっているはずだが「やる気満々」で、1992年時のロス・ペローを彷彿とさせる。

ジョンソンが11月まで戦い続ける限り、トランプに勝ち目はない。

6月8日のブログでは「51.5%前後の得票率でヒラリー勝利」(ヒラリー勝利の数字)と書いた。それはジョンソンを考慮していない数字で、11月8日の投票日までジョンソンが戦った場合、ヒラリーの得票率は48%前後、トランプは42%になると読む。

現時点で私の予測を真剣に聴いてくれる方は少ないが、11月8日の選挙後、この数字と実際の数字を比較してみたいと思う。

「献金してください」

昨日、ドナルド・トランプから選挙資金を求めるメールが送られてきた(下記)。

これまで有権者から大々的に選挙資金を集めてこなかったトランプ。ヒラリーとの直接対決になった今、11月8日の投票日まで自己資金だけでは足らなくなってきたのだ。

5月末時点で、手持ちのキャッシュフローは130万ドル(約1億3500万円)である(連邦選挙管理委員会報告)。ちなみに、ヒラリーは同時期、約44億円の残金がある。

下に載せた英文のお願いを眺めると、私の名前(Yoshio)を記したあと、「 FIRST ONE」と書いてある。献金をお願いするのは「最初」ですという意味だ。

1ドルから2700ドル(約28万円)の間で献金してくださいとある。48時間以内に200万ドル(約2億円)を集金することを目標にしている。ちなみに2700ドルというのは、法的に米有権者が献金できる上限額である。

この動きは予備選中、「選挙資金は自分でまかなう」といい続けてきたトランプの主張から外れる。それだけ資金が乏しくなってきた証拠である。億万長者でありながら、実はほとんどの資産を不動産や含み資産で持っているため、現金は少ないとの見方がある。

秋にかけて、トランプはどう巻き返しを図るつもりなのか。ヒラリーとの「醜い戦い」はすでに始まっている。

 

Donald J Trump
Yoshio,

This is the first fundraising email I have ever sent on behalf of my campaign. That’s right. The FIRST ONE.

And, I’m going to help make it the most successful introductory fundraising email in modern political history by personally matching every dollar that comes in WITHIN THE NEXT 48 HOURS, up to $2 million!

Yoshio, this means any donation you make between $1 and $2,700 (the maximum allowable contribution) will be matched, dollar-for-dollar.

Help make history by giving one of the amounts below:

Even without this match, this initial effort would have been the most successful first fundraising email in history. I am certain of this. But let me tell you why I decided to match your donations.

The Democrats are desperate, and they’re throwing everything they have at me. They just keep failing and losing.

Now they’ve sent out a very nasty email attacking me, all to raise a measly $250,000. They even promise that a group of “all-star Democrats” will match every dollar raised.

They will say and do anything to elect Hillary Clinton, but I am standing in the way.

I’m fighting back against Crooked Hillary and her pathetic cronies, as well as the dishonest liberal media, and I need your help.

We can’t let her back into the White House ever again.

The bottom line – Crooked Hillary has been a DISASTER for our country, and we must win against her this fall.

Let’s make history again, and keep winning, by making this the most successful first fundraising email ever.

Double your impact by donating today.

Let’s show the liberals, the professional pundits, and the Washington establishment that this campaign IS NOT ABOUT ME. It’s a movement of hardworking, patriotic people who want to MAKE AMERICA GREAT AGAIN.

Best Wishes,

Donald J. Trump
Candidate for President of the United States

P.S. Help me make my first ever fundraising email the most successful fundraising email ever sent in the history of modern politics. Remember, I will PERSONALLY match your donation, but we must receive it WITHIN THE NEXT 48 HOURS.

ヒラリー有利の数字

hillary6.8.16

ヒラリー・クリントンが民主党の代表候補に決まった。新聞や通信社は「代表候補」ではなく「指名候補」という書き方をする。

意味は夏の全国党大会で「党代表に指名される候補」という意味だが、分かりにくい。だから当ブログではずっと代表候補と書いている。

指名候補という言葉は過去何十年も、アメリカに渡った特派員が使い続けている言葉である。これは英語の「nominated(指名される)」の直訳で、日本語としてしっくりこない。民主党と共和党の代表になりますということだから、代表候補の方が適語と考える。

今年は年頭から「ヒラリー対トランプの戦いになる」と述べてきたので、多くの方から「どちらが勝ちますか」と訊かれる。春先から「ヒラリーが優勢です」と答えている。

すると、「トランプの方が勢いがあるのでは?」という反応をされることがある。確かにトランプは共和党の16人の主要候補を蹴落としてきた勢いがある。

だが11月8日の本選挙は州ごとの取り合いになるため、現時点でもヒラリー優勢という図に変化はない。私はすでに数字を出している。

実はアメリカの有権者の政治志向は4年前とほとんど変わっていない。さまざまな要因を検証し、現時点では「51.5%前後の得票率でヒラリー勝利」と書いておく。現段階でここまで言う人は「たぶん」日本にはいない。

4年前の6月にもオバマ対ロムニーの対決の予想を51%前後でオバマ勝利と記し、その通りの結果になった(大統領選、いまだオバマ有利 )。実際の数字は51.4%。毎日のようにアメリカで公表される世論調査は、対象人数が約1000人で「揺れる表象」に過ぎない。

11月は6000万人対6000万人というレベルの対決である。極言すると、すでに大勢は決まっている。ただアメリカ社会の微細にも目を向ける必要がある。その中でパーセンテージが少し変わってくる。

それから、『日刊ゲンダイ』で大統領選の連載を断続的に行っている(誰が勝つ 「米大統領選」核心リポート )。お読み頂ければ幸いである。

ありきたりの候補になりはじめたトランプ

米大統領選はいま、共和党ドナルド・トランプと民主党ヒラリー・クリントンが各党の代表候補に決まったことで、米メディアの関心は予備選より候補者本人に移っている。

その中で興味深いことがある。既存の候補と一線を画していたトランプが、「ありきたりの候補」になり始めているのだ。その兆候が選挙資金である(代表候補確定で“ありきたりの候補”になり始めたトランプ)。

人生最初の大統領選取材

1984年、ゲイリー・ハートという上院議員が大統領選に出馬していた。

彼はルックス的にはライバル候補だったモンデールよりも数段上で、支持率でも一時は民主党トップだった。日本の新聞は「いま戦えば勝つ」というタイトルを打ちさえした。モンデールというのは後に駐日大使になった、あのモンデールだ。

だがハートは不倫問題が表面化して、あっという間に支持率を落として姿を消してしまう。ハートの人気がまだ高かった時、首都ワシントンにあった彼の選挙事務所を訪れたことがある。

当時、読売新聞ワシントン支局の「坊や(助手)」をしていた私は、特派員のS氏とハートの選挙事務所に向かった。

私が住所を調べ、S氏が車を運転した。選挙事務所はワシントン市内の南東区という場所にあった。S氏は南東区であることに、「ヘエ?」という反応をした。ワシントン市内は大きく4区画に別れており、多くの主要な建物は北西区に位置するからだ。

南東区というのは治安がいい場所ではなく、ましてや大統領候補が選挙事務所を置くような地区ではない。目的地に着くと、S氏が言った。

「北西区の間違いじゃないの?」

というのも、着いた場所はポルノ映画館だったからだ。何度か番地を確認したが、やはりメモした住所だった。

「すみません。間違ったようです・・・」と言って映画館の2階を見ると、ゲイリー・ハートという名前の刻まれたポスターが窓ガラスに何枚も貼られていた。

ハートは選挙資金が乏しく、とにかく安い場所をということで、最終的にポルノ映画館の2階に落ち着いたようだった。普通の政治家なら資金がなくとも却下するところである。しかしハートは体裁を気にせず、ポルノ映画館を選挙事務所にしたのだ。

階段をあがっていくと、多くのスタッフがDVDの2倍速のような機敏さで仕事をしていた。湯気がたつような活気があった。それ以来、妙にハートが気になり、彼を応援するようになる。応援といっても何もできなかったが、大統領になってほしいと思っていた。

不倫問題が発覚したのは、それからすぐのことだった。

当時、私はまだ大学院生で、支局では助手としてお茶汲みや新聞の切り抜き、電話の対応をしていただけなので「大統領選を取材した」とは言えない。

自分で記事を書くために取材した大統領選は1992年からである。以来、今回で7回目。ポルノ映画館も入れれば8回目だ。

怖いモノ知らずの勢いは今よりもあったように思う。

Garyhart.5.9.16

1984年当時のゲイリー・ハート上院議員     By Famousfix.com