新しい本

今回のブログは自著の宣伝です。アメリカ大統領選挙についての国内書籍としては、今年最初のものだろうと思います。

カネの流れに焦点をあてて今年の大統領選挙を追っています。もちろん複雑なシステムについても説明してあります。お読みいただければ幸いです。

『大統領はカネで買えるか? - 5000億円米大統領選ビジネスの全貌』

角川SSC新書  ¥756

ふりだし

ヒラリーが予想どおりニューハンプシャー州予備選で盛り返した。

私は大統領選挙の予想屋ではないが、1月5日付のブログで「私の読みはヒラリーへの順風である」と書いた。オバマがアイオワ州で旋風を巻き起こしたあとに、である。

アメリカ人記者も評論家も誰もヒラリーの盛り返しを期待していなかった。というより、できなかった。ほとんどのメディアはヒラリーよりもオバマに肩入れしているため、ヒラリーが勝つことなど予想だにしなかった。だが、私は彼女の選対の強さとカネの集まりぐあいを知っている。そうやすやすと負ける組織ではない。

けれども、私は個人的にヒラリーのファンであるわけではない。4年前のブッシュ再選の時もそうだった。かなり早い時期から「ブッシュが再選される」と書いていたが、心情的には反ブッシュだった。純粋に誰が勝つかの分析をしているだけである。

1月5日だけでなく、昨年12月7日のブログでも、今年の選挙は最終的にヒラリーとジュリアーニの戦いになると書いた。いまも同じである。自慢になってしまうが、1984年から大統領選挙の予想は外していない。

アメリカにいて、全米でキャンペーンを追っていると見えるものがある。支持率や経済指標といったデータだけでなく、有権者の思いや不満がわかってくる。さらに独特な空気感と呼べるものがフッと目の前にあらわれたりする。

東京にもどったことで空気感が読めないのは事実だが、「かなりいい線」いくのではないかと思っている。オバマ対ロムニーの戦いにでもなったら、私はアメリカに戻った方がいいかもしれない。

ヒラリーがアイオワ州で負けたあと、彼女の選挙対策本部はかなり荒れていたという。これは電話取材で入手した情報だが、彼女の選対委員長であるパティー・ドイルや戦略担当のトップであるマーク・ペン、さらにTV広告担当のマンディ・グランウォルドをクビにするとの話まで飛び出したという。

上記3人はヒラリーの両手と足1本にあたいするくらい重要な参謀である。その3人を切って、別の選挙コンサルタントを雇うというところまでいった。極限に追い込まれた証拠である。ヒラリーの涙はそうした背景があってのことだったのかもしれない。

これでオバマとは1勝1敗である。外野席から眺める者にとってはますます面白い戦いになってきた。(敬称略)

短絡的なメディア

アメリカ大統領選挙のアイオワ党員集会がおわり、民主党ではオバマが、共和党ではハッカビーが首位を奪った。

多くのメディアは勢いに乗ったオバマに注目し、「オバマが大統領か」といったトーンの報道をしている。これはアメリカのメディアに見られる報道姿勢なので、日本の新聞・テレビも同じ流れである。

だが少し待っていただきたい。内外の報道を散見するかぎり、多くの記者は選挙の全体像を見失っているように思える。確かにオバマは有権者の心を掌握したメッセージを送った。それは昨年11月12日にアイオワ州デモインでおこなわれた集金パーティーの劇的ともいえるスピーチに表れていた。ヒラリーにはない「強さ」がそこにある。

けれども、オバマが首位を奪っても、それはアイオワ州だけのことでしかない。しかも大統領選挙システムはアイオワ州のすべての代議員をオバマに与えない。15%以上の得票率がある候補には均等に代議員が割り振られる。だからヒラリーもエドワーズも代議員を獲得している。

ヒラリー陣営のカネの力と組織力がそう簡単につぶれるとは考えにくい。アイオワで首位にきても、その後負けた候補は何人もいる。1988年のドールがそうだ。88年というのはパパブッシュが大統領になった年である。ドールのアイオワでの得票率は37%。くしくもオバマと同じだ。パパブッシュは19%だったが、ひっくりかえされる。民主党では88年のゲッパートや92年のハーキンがアイオワで首位を奪ったが、いずれも後に敗退した。

私は党員集会(コーカス)という会合スタイルで決めていくアイオワの選挙よりも、一般投票形式をとるニューハンプシャーの予備選(8日)の結果に注目している。ここで仮にオバマがヒラリーに10%以上の差をつけて勝ったとしたら、本当のバンドワゴン(勝ち馬に乗る)現象が全米を駆け巡る可能性がでてくる。

ただ私の読みはヒラリーへの順風である。それは92年に夫ビル・クリントンが「カムバックキッド」と自身を形容した底に渦巻く力である。当時、ビルはアイオワでたった3%の得票率だった。ニューハンプシャーでもソンガスに負けて2位。それでも大統領に当選する。

現在でもヒラリーはニューヨークやカリフォルニアといった大州で、オバマに約20ポイントの支持率の差をつけている。予備選というのは代議員数の獲得競争である。小さな州を10州失っても、大州で大勝すればいいのである。オバマにヒラリーを突き放す力があれば、ホワイトハウスは現実のものとなるかもしれない。(敬称略)

システムとしてのゆとり

ワシントンから東京にもどって10カ月がたった。ようやく社会復帰のための「リハビリ」が終わったような気もするが、一生もとの日本人には戻れない気もしている。25年間のアメリカ滞在はやはり大きく、今後ずっと自身の中にアメリカ人と日本人が共生するような思いが強い。

それは「絶え間のない比較」ということでもある。単語や表現の比較だけでなく、町を歩く人の顔つきやファッション、溢れかえる品物や住居の様子、政治家の言動から人の考え方など、比較対象は社会全般にわたる。生活の中に「日米比較表」ができあがってしまったかのようですらある。

その中の一つに休暇がある。

日本人があまり休暇をとらないのはよく知られる。実際はアメリカよりも国民の祝日が多いし、ゴールデンウィークやお盆休み、年末年始の休みがあるので、勤めに出ない日はそれほど違わないし、有給休暇を入れるとむしろ日本の方が休みが多いかもしれない。過去10年ほどは、アメリカでも「働きすぎ」が問題になってきている。

まして最近は、日本の大企業の中には残業をさせない風潮があり、無理やり帰社せざるを得ない会社もある。企業情報の秘匿から自宅で仕事をすることもゆるされない。「仕事が終わらない」という苦情を耳にする。

だが、それで彼らに余裕ができただろうか。感覚的なものとして、日本の勤め人からゆとりを感じることはあまりない。せわしない空気が東京をおおいつくし、暗い穴に逃げ込んでものがれられないかのようである。

年末年始に国外にでる人は多いが、あまり声を大にして海外で遊んでくるとはいわない。休みに対する罪悪感でもあるかのようだ。これは自分だけが楽しい思いをして遊んでいては申し訳ないという気持ちが少しあるからだ。

アメリカでは会社員だろうが団体職員だろうが仕事に調整をつけて、11月の終わりや1月下旬に2週間、つまり時期にまったく関係なく有給休暇を普通にとる。皆が休む時期にわざわざ一緒に休む必要はないからだ。周りも当然だと思っているから支障はない。

日本の組織でも、上の者が率先して休みをとればいいが、なかなかそうはいなかいのが実情だろう。文化の違いと一言で片づけてもいいが、「これでいいんですか」といって歩きたいくらいだ。「ここは日本なんだから、これでいいんだよ」と言われたら私は引っ込むしかないが、普通の時期に普通の有給がとれる体制がとれればと思う。

私はフリーの立場なので休みは勝手にとらせて頂いているが、日本の社会全体がもっと余裕とゆとりのある空気に満たされることを年末に願う。それは決してカネだけの問題ではない。システムとしてのゆとりなのだろうと思っている。

ワッパーの威力

「ヤラレター」というのが正直な感想だった。

アメリカのテレビ・コマーシャルを観ていて、すぐにその商品が食べたくなった。こうした思いを抱くのは実に久しぶりである。

バーガーキングというハンバーガーのチェーン店がある。アメリカのフロリダ州マイアミに本社があり、世界65カ国で1万1000店舗をもつ。そこの売りが「ワッパー」である。日本には1993年にお目見えしている。

アメリカで最初にバーガーキングの店舗に入ったとき、なんと発音するのかわからなかった。「Whopper」とつづられている。最初、「フーパー」と言った。するとカウンターの向こう側にいた黒人の女性店員が小さく笑った。次に「ホーパー」と言ったら、彼女の笑いは大きくなった。

私は矢継ぎ早に「フッパー?ホッパー?」といったら、彼女はマネジャーを連れてきた。皆で涙を流さんばかりに笑っている。失礼な話だが、どういうわけか私も一緒に笑った。大笑いが一段落すると、彼女はやさしく「ワッパー」と告げた。そうだったのか、、、、。

出てきたサイズはそれまでのハンバーガーの3倍はあろうかと思えるほどだった。アメリカらしさを感じた瞬間だった。

そのバーガーキングがドッキリカメラのコマーシャルを制作した。現在、アメリカのテレビで放映されている。本物の客を相手に、店員たちは「もうワッパーは売らないんです。永遠にメニューから消えました」とやる。

Tシャツを着た長髪の青年は「ウソだろ」。「本当です」と店員が言うと、「ワッパーがあるからバーガーキングなんだろう。ないんだったらバーガークイーンにしちまえよ」とすごむ。ドライブスルーに現れた女性客は「店長を呼びなさいよ」と怒っている。中年男性は「そんなこといつ決めたんだよ。俺はマクドナルドは嫌いなんだよ」とまくし立てている。

見事である。コマーシャルとしては久しぶりに会心作を観た思いだ。面白いコマーシャルはたくさんある。笑ってしまうものも多い。けれども多くは商品と直接むすびついていない。コマーシャルに登場するキャラクターやストーリーは覚えているが、商品名や企業名がなかなか出てこないCFが数多い。

けれどもワッパーのドッキリコマーシャルを観て、すぐに頬ばりたくなった。実に久しぶりのことである。「ヤラレター」という思いは、企業側の成功の証しである。