日米首脳会談:オバマと安倍の密約?

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by the White House

日米では大局観が違う-。

ワシントンで行われた日米首脳会談で、あらためてそう感じた。今回の会談で、「どうしても会いたかった」のはもちろん安倍である。オバマにとって、いま安倍と顔を合わせて詰めなければいけない喫緊の課題はない。

過去30年、ほとんどの日米会談がそうであったように、その思いは一方的である。首相の座についた日本の政治家は、まずワシントンに出向いて大統領に挨拶してきた。アメリカ側の本音は、顔見せ興行的な会談に「会う必要はないけど、来たいのなら会いましょう」といったところである。

今回の会談のテーマを敢えて挙げるならば、オバマにとっては北朝鮮の核問題と尖閣問題。有事のときに何ができるか確認しておきましょうとなる。それがアメリカ側の会談テーマであり、それ以上でもそれ以下でもない。

もちろん、こうした会談の前には外務省、財務省、経済産業省等の官僚が、アメリカ側の役人と会談内容を詰める。TPPやエネルギー問題等は、オバマにしてみるとあくまで「周辺の案件」にすぎず、「せっかく安倍さんがホワイトハウスに来るんだから、まあお話しましょう」くらいの思い入れのはずである。

ただ今回の会談で、私は安倍がひとつだけオバマを頷かせたことがあると思っている。邪推かもしれないが記したい。

安倍はなんとしても今夏の参議院選挙で自民党を勝たせない。そのためにはアベノミクスの効果を夏までもたせなくてはいけない。

現在、円安誘導が功を奏している。それによって輸出業に追い風が吹いている。一方、オバマも輸出倍増論を唱えており、ドル安がアメリカの輸出企業にとっては都合がいい。この点で両者の利害はバッティングする。

ところが安倍はオバマに対し、「参院選まで日本の円安誘導には目を瞑ってほしい」と懇願したのではないか。この条件を飲んでくれたら、日本はTPPに参加しますからといった密約が取り交わされたのではないか。

こうした取引は十分に可能である。自民党が参院選に勝てば、あと3年は自民党の天下である。

同盟国の首脳というのは、こうした約束を交わせる。つまり、オバマの任期が終わるまで安倍も首相を務めるということであり、2人の関係が厚くなることを意味する。

もちろん、上記のことが実際にあったとしても、大手メディアには絶対にでてこない。(敬称略)

不穏な尖閣

これまでも当ブログで尖閣問題については私見を述べてきた(尖閣は実行支配こそがカギ )。

2年前、中国人船長の勾留問題が起きたが、いまは当時と比較にならないくらい中国側での反日感情が強い。個人的にはこうした時の外交交渉に携わりたいくらいである。

もしかすると中国と限定的な交戦にまで発展するかもしれないが、それを食い止めるのが外務省と官邸、さらに日中の議員同士の交渉である。

限定的とはいえ、戦争がもたらすプラス要素はほとんどない。それを阻止するあらゆる手立てを中国共産党指導部としなくてはいけないが、もちろん尖閣を譲るといったオプションは日本にはないし、してはいけない。

尖閣はこれまで日中間の暗黙の了解で、日本の実行支配が効力をもってきた。それでも日本側は中国漁船が「周辺海域」で操業するのを黙認していた。こうした微妙な緊張関係が実は大切である。

外交関係というのは、いつでもお互いが手をつないでルンルンといった間柄でなくていい。緊張した関係であっても、それが平和的な現状維持であれば何の問題もない。むしろその方が好ましいくらいだ。

だが、どう見ても野田政権内に中国共産党指導部との太いパイプがない。ほとんど中国と話がついていないように思える。共産党ももちろん尖閣に軍事侵攻した後の短期的な利益は見いだせないだろうから、大それた真似はしないだろうが、万が一もあり得る。

いま中国国内では反日感情の発露が暴動という形になっているが、日本は冷静にやり過ごすべきである。両国にとってすでに大きな損失になっているが、最大の危機は中国の空挺部隊が尖閣に上陸し、中国艦船が尖閣周辺の洋上に通常配備され、武力による実行支配にでたときである。

82年のフォークランド紛争で、イギリス首相のサッチャーはもちろん交戦を選び、アルゼンチンと戦って3ヵ月後に白旗を揚げさせた。

野田政権は交戦に至らないように交渉力を発揮しなくてはいけないが、最悪の事態になった時には迎え撃つガッツも必要だ。(敬称略)

尖閣は実行支配こそがカギ

都知事の石原の発言で、尖閣問題が再浮上している。この問題にどう対処したらいいのだろうか。

石原のように一方的に中国を挑発し、東京都が尖閣を買い取ることで事態をスムーズに収拾できるならいいが、そうはならない。中国が石原の思いどおりに反応してくれたら問題はないが、彼らの感情を逆撫でするような言動では無理である。いかに石原が外交に不向きな政治家であるかがわかる。

それでは尖閣は中国のものなのか。いや、日本が領有権を持っている。実行支配しているのは日本である。2年前に尖閣でおきた中国船籍の船長拘留事件で述べたように(尖閣問題の解決のしかた)、国際的な見地から、実行支配している国家に実質的な領有権がある。

一方で、「どこどこは日本固有の島」とか「もともと日本の領地だった」という言説はほとんど意味を持たない。そんなことで領有権は主張できない。フランス・ドイツ国境のアルザス・ロレーヌやアルゼンチン沖のフォークランドが好例である。

アルザス・ロレーヌの代表都市ストラスブールは現在フランス領である。だが、もともとはドイツ領でいまでもドイツ語系のアルザス語が話されている。1638年のウェストファリア条約でフランス領になったあと、1870年の普仏戦争後にドイツ領に、第1次世界大戦後にフランス領、ナチスドイツによる奪還で再びドイツ領、そして第2次世界大戦に再度フランス領になっていまに至っている。ドイツ国内には再び奪い返す機運はない。

フォークランドもイギリスからは遠く離れているが、アルゼンチンが戦争に負け、いまでもイギリス領として統治されている。「もともと我が国の領地だった」という主張は通用しない。これまで戦争で国境が策定され、領有権が移るのが常だった。いってみれば野蛮な世界である。

尖閣は海上保安庁の船舶や航空機が領海を偵察して事実上の支配が続いているので日本の支配下にある。ただ中国漁船が付近を操業しており、それは日中間の暗黙の了解となっている。2年前の衝突事件をのぞけば、戦火を交えるほどの軋轢には発展していない。

尖閣については日本が実行支配を続けながら、穏やかな笑顔を浮かべて中国と話をすればいい。

「いまは日本の支配下にありますから!」

相手も微笑んでしまうくらい閑閑たる態度でいることである。(敬称略)

北方領土への愛憎

有楽町にある外国特派員協会のワークルームで仕事をしていると、ドイツ人記者が昼食の誘いにきた。

一人で食事をするのが嫌いな男なので、知り合いがいれば誰かれかまわず声をかける。会話は気づいたら領土問題になり、最後まで領土問題から外れることはなかった。

尖閣諸島について、日本政府は「領有権問題はない」としているが、北方領土は依然としてロシアに実効支配されている。日本政府は「我が国固有の領土」との判断だが、現実的な返還はきわめて厳しい。

時間がたてばたつほど困難の度合いは増す。 沖縄のように、アメリカによって占領されていた時も日本人が住んでいれば話は別である。現在北方4島に住んでいるのはロシア人である。しかも戦後65年もたっている。

    

                                 

「俺の祖父の時代から住んでいる島だ。昔は日本人が住んでいたかもしれない。でもいまはロシアの領土だ」

島民はそう考えている。当たり前である。半世紀以上住み続けた土地を簡単に譲り渡すはずもない。天然資源と豊かな漁場もある。

仮にロシアの占領があと100年続いたら、ここはもうロシアの領土という認識である。日本固有の島などという話はおとぎ話でしかなくなる。

世界の領土は南極などを除いて20世紀中にほとんど特定国家に帰属した。その奪い合いは今でもあるが、その手法は極めて野蛮だった。戦争による奪取が日常なのである。戦勝国が策定した条約内容によって、土地は切り刻まれ、好きなように併合された。ドイツ人が言う。

「ヨーロッパではポーランドが可哀そうだった。ドイツとロシアに挟まれ、勝手に国境を変えられた。日本人にはわからない感情だろうと思う」

フランスとドイツの国境にアルザス・ロレーヌという土地がある。現在はフランス領で、ストラスブールが中心都市だ。世界史の教科書に出てくるので、覚えておられる方も多いだろう。この地方は元々ドイツ文化圏で、ドイツ語の方言の一つアルザス語が今でも話されている。

1648年、三十年戦争の終結(ウェストファリア条約)で、神聖ローマ帝国からフランスに割譲される。

その後、どうなったか簡単に記したい。1870年の普仏戦争でプロイセンがフランスを破って今度はドイツ領に戻される。1919年、第一世界大戦でドイツが敗れると今度はフランス領に逆戻り。1940年にナチス・ドイツが再度奪い返したが、ドイツが第二次世界大戦で敗れたのを機にフランス領となるのである。

「もともとドイツ領なんでしょう。返還しろという機運は生まれないわけ?」。私が訊くと、ドイツ人は「もうないね」。

国際法上は国家間の土地の売買は可能だが、21世紀の現在、安全保障問題などからほとんど無理と言っていい。アルゼンチン沖に浮かぶフォークランド諸島も、つい20数年前にイギリスが勝ったこと実効支配が続いている。

北方領土は地道な交渉によって返還させるのが正道。アメとムチを使った返還交渉は不可能ではない。武力で奪い返すのも一手。この場合、国際社会が黙っていないが、「ここは日本固有の領土だから」と突っ張り、血を流しても構わないと思えるのならアリかもしれない。

だが周囲を見渡すと、それだけの気概をもった人たちはいない。現実的な北方領土返還は極めて低いのである。

新幹線のアメリカ輸出、頓挫の可能性

11月2日の中間選挙で、共和党は下院の過半数の議席を奪った。それにより、オバマ大統領は今後、共和党下院と歩み寄りを求められる。特に予算案での妥協は必須である。

さらに大統領が傾注してきた医療保険改革や金融機関規制などで、共和党は修正案を提出してくる。大統領はそうした法案には拒否権を発動できるが、多くの局面で共和党と手を組まないかぎりワシントンの政治は前へ進まない。

今回は政治とビジネスの関連について記したい。

近年のアメリカ政治を知る上で大変重要なことがある。それはもはや共和党が財界に有利な政策を取るとは限らないことだ。これまで自由貿易推進派は共和党で、保護主義政策を唱えるのが民主党と思われてきた。しかし両者の間にはもはや明確な線は引けなくなっている。

いくつか例を挙げよう、、、、(続きは堀田佳男公式メールマガジン『これだけは知っておきたいアメリカのビジネス事情』)。