混戦の予備選へ

年明けの1月3日にアメリカ大統領選の予備選がスタートする。

アイオワ州のコーカス(党員集会)は予備選の一つの形態で、党員集会という名前がついているように、記名式の投票ではなく集会を開く。地元の公民館や小学校の体育館、または名士の自宅に集まり、何時間もかけて有権者が誰が大統領にふさわしいかの討論をし、最後に挙手などで支持者をきめていく。

民主党は現職オバマで決まりだが、共和党は何人もの候補が首位争いをしている。同州ではいくつかの世論調査で、現在テキサス州下院議員ローン・ポールが首位にきている。

過去30年近く大統領選を見ているが、これほど首位が入れ替わる年はなかった。それは取りも直さず、共和党にオバマを倒せるだけの絶対的と言えるだけの力をもった候補がいない証拠である。

前回、大統領選についてのブログを書いた時点で(共和党はやはりロムニーか )、元下院議長ニュート・ギングリッチが全米レベルではトップにきていた。ロムニーを突き放してそのままゴールを切るほどの勢いがあった。

アメリカの政治評論家の中には「このままいく可能性もある」と指摘する者もいた。だが、全国的な支持率は12月中旬をピークに、その後は急下降。自慢するわけではないが、私の読みが当たった。

ただアイオワ州の選挙結果はわからない。誰がトップにきてもおかしくない。ロムニーもあり得る。それは混戦の予備選を予感させる。仮にポールが首位にきても、次のニューハンプシャー州予備選(1月10日)ではロムニーが巻き返す可能性が大きい。21日にはサウスカロライナ州予備選があり、そこではもしかするとギングリッチがトップにくるかもしれない。

来年の共和党候補選びは、「どうしてもロムニー」という選択ではなく、「他がだめだからロムニー」という理由で彼が最終的に選ばれるのではないかと予測している。(敬称略)

共和党はやはりロムニーか

アメリカ大統領選が面白い展開を見せている。

最初の予備選・党員集会(1月3日)が行われるまで1カ月ほどあるが、共和党レースのトップがことごとく入れ替わっているのだ。

今年8月までの世論調査はミット・ロムニーがトップを維持していた。6月には一時、下院議員ミシェル・バックマンの支持率が上昇したが、すぐににロムニーが人気を取り戻す。8月からはテキサス州知事のリック・ペリーが優勢になる。

9月下旬にふたたびロムニーがリードすると10月からは黒人候補のハーマン・ケインがトップに立つ。そして11月初旬に再度ロムニーが先頭を奪った。同月中旬からは元下院議長のニュート・ギングリッチがトップに来るといった具合である。

そしてケインが3日、セクハラと不倫疑惑によって選挙戦から撤退した。現在の支持率から言えば、ギングリッチかロムニーなのだが、ギングリッチについては7月に私見を述べたように(オバマ対ロムニー)、ほとんど勝てるチャンスはない候補なので、流れとしてはロムニーということになりそうだ。

ギングリッチになぜ勝てるチャンがないかといえば、選挙資金の集金額を見ると(9月末)、ギングリッチの300万ドル弱に対し、オバマはほぼ30倍の9000万ドル弱である。しかも、ギングリッチの選挙対策本部の力はいま乳飲み子くらいに脆弱で、来年1年間、選挙戦を継続できる力はないように思える。

人間的にも、共和党ではケインに次いでもっとも倫理的に大統領として不適格といえるほど問題を起こしてきた。そうなると、「妥当な線」としてロムニーが共和党代表候補に浮上してくる。あと半年で情勢は固まる。(敬称略)

2012年大統領選、ただいま混戦

2012年大統領選の最初の予備選・党員集会(1月3日・アイオワ州)まで2カ月を切った。

民主党はもちろん現職大統領のオバマ。国務長官のヒラリーが出馬すれば間違いなく共和党候補を破るという見方もあるが、ヒラリーにその気はない。もちろん現職大統領を差し置いて、党内からレースに出馬する権利はあるが、彼女は国務長官職も1期で終える可能性が高い。

共和党のレースは混戦である。今夏、ミネソタ州の下院議員ミシェル・バックマンが短期的に勢いをつけたが、すぐに失速した。直後、テキサス州知事のリック・ペリーが注目を集めたが、こちらもメディアを騒がせただけで支持率は下降。

その後に急浮上してきたのがゴッドファーザーピザの元CEOハーマン・ケインだ。黒人候補でありながら、保守共和党で減税による景気刺激策を打ち出す。「999(法人税9%、所得税9%、消費税9%)」とする税制を打ち出して、一躍人気を博した。

本人は元カンザスシティ連邦準備銀行頭取を務めたことのある人物で、数字に強いはずだが、ライバル候補からは「999」という考え方は税制を単純化しすぎている上、現行の税収額に達していないと、こき下ろされている。

それでも全米レベルでの共和党内の支持率では安定感のある前マサチューセッツ州知事ミット・ロムニーとほぼ互角で、今後の展開はわからない。

20年前と違い、ほぼ連日どこかのメディアや調査会社が支持率を発表している。総合すると、今選挙を行った場合、オバマとロムニーではほぼ互角。オバマとケインではオバマがやや優位といった情勢だ。

それでも、長年大統領選をみていると、1年後の本選挙でカギとなる州がいくつか浮上する。注視したい12州(コロラド、フロリダ、アイオワ、ミシガン、ウィスコンシン、ネバダ、ニュー・ハンプシャー、ニュー・メキシコ、ノース・カロライナ、オハイオ、ペンシルバニア、バージニア)の中でも特にフロリダとオハイオの2州が重要だ。

専門家の中にはすでに両州の駆け引きと票の流れを計算している人もいる。ただ計算には今後1年間の事故や事件、経済状況が含まれないので、現時点ではなんともいえない。

確実に言えることは、オバマに黄信号が点灯しているということだけだ。(敬称略)

                  

  

                  by the White House

ペイリン参戦せず

前アラスカ州知事のサラ・ペイリンが2012年大統領選に出馬しないことを決めた。支援者への書簡の中で、次のように述べている。

「私が何に仕えているかと言えば、神、家族、国家、これが順番です」

この一文を読んだときに、ペイリンは家族との合意が取りつけられなかったのだと察した(ペイリンの決断 )。共和党内から「出馬するな」という声が強かったことや、共和党の代表候補になれる可能性が低いといった要因も当然あっただろうが、神が最初で2番目に家族、そして国家が3番目という序列を聞いた時、ウソではないと感じた。

神を最初にもってくることはアメリカでは極めて自然だし、家族の同意がなければ踏み出さないという行動規範も、特に共和党の人間としては当たり前のことだろう。これは四半世紀アメリカで暮らして得た思いである。

そのため、「他に理由があるに違いない」との邪推は当たらないかと思う。もちろん、本人と周囲の人間にしか理解できない事情もあるだろう。だが、神という概念と家族はアメリカを考える上では外せない。むしろ基礎と言っていいかもしれない。

すべての事象に裏があるとする斜に構えた見方もあるが、アメリカの本質はキリスト教の理念と切ってもきれないことを改めて思うのである。

出馬が噂されていたニュージャージー州知事のクリス・クリスティーも出馬しないことを決めた。これで共和党レースは前マサチューセッツ州知事ミット・ロムニーとテキサス州知事リック・ペリーとの2強に、元ピザチェーンCEOのハーマン・ケイン、元下院議長ニュート・ギングリッチ、下院議員ミッシェル・バックマン他が続く形となった。(敬称略)

ペイリンの決断

アメリカの大統領選は9月に入って本格的なキャンペーンに突入した。

民主党からは再選をめざす現職大統領オバマが、共和党ではテキサス州知事リック・ペリー(リック・ペリーという候補 )、前マサチューセッツ州知事ミット・ロムニーの2強にミネソタ州下院議員のミッシェル・バックマンを含めた数候補が追随するという戦いだ。

ペリーが参戦したことで、それまでのロムニーとバックマンの2強対決の図式が崩れ、ペリーとロムニーの2強対決へと変化した。8日にカリフォルニアで行われた共和党8候補による討論会をYouTubeで観ると、支持率で先頭をゆくペリーの大胆発言が目立っていた。それに他候補がかみついている。

オバマという彼らにとっての究極のライバルと戦う前に、同じ政党の候補たちをやり込めなくてはいけない。税制と雇用が当面は大きな論点になるが、これまでの何十年もの選挙戦と同じように、有権者は政策のよしあしだけで候補を決めはしない。それぞれがプラスアルファーを胸の内に秘める。むしろそのプラスアルファーの比重の方が大きいことが多い。

あとは前アラスカ州知事のサラ・ペイリンが出馬するかどうかである。本人は今月末までに決断するとしている。彼女がアイオワ州で演説した映像を観ると、すでに大統領候補のように演説し、候補のようにメディアと接し、候補のように有権者と握手をしている。

アイオワ州は全米最初の党員集会(コーカス・予備選)の開催州であり、そのあとニューハンプシャー州へと移る。ペイリンはニューハンプシャー州にも足を運んで候補気取りである。立ち振る舞いを見るかぎり、出馬表明したくてしょうがないという空気が漂っている。

家族からの全面的支援があれば、半年前に出馬表明していたかもしれない。他候補が討論会を行うなかで、一人外野席にいて得な理由は少ない。まったく出馬する気がないのであれば、今のように全米行脚はしないだろう。

あきらかに探っている。ただ08年の大統領選でマケインの副大統領候補として惨敗しているだけに、もう負けたくないという意識が強いようにも思える。出馬する限りは勝てないと立候補しないというスタンスかもしれない。

小沢のようなキングメーカー的な立場からティーパーティー(茶会党)が推すペリーかバックマンを裏で支えるという見方もあるが、それは彼女の本意ではないだろう。

保守系TVのフォックス・ニュースの最新世論調査では、 共和党員の71%はペイリンに「出馬してほしくない」という数字がでている。それが彼女をますます悩ませる。(敬称略)