トランプの胎動を考える

出馬から4カ月。米大統領候補、ドナルド・トランプは依然として共和党のトップを走る。

9月に行われた討論会のあと、人気に陰りが見えたが(下降しはじめたトランプ )、支持率は高止まりしており、どの候補よりも高率である。

最新の世論調査でも、CNNでは38%で1位、フォックス・ニュースは24%でトップ、CBSニュースでも27%で先頭である。それでもアメリカの政治学者や共和党関係者の多くはトランプが共和党の代表候補になる可能性は少ないとみている。

彼ほど過激な言動を展開し、諸外国を敵にまわしている候補が勝てるわけがないと考えるからだ。それは過去何十年と大統領選を見てきた専門家の経験値からくる判断であり、僭越ながら私もそう読んでいた。ある米政治アナリストは「トランプ旋風はある種のファシズム」とさえ言った。

ただ彼にはエネルギーがみなぎっている。ジェブ・ブッシュに対して「ロー・エネルギー」と言い放ったこととは真逆の真性を携えている。自分に向けられた全批判をプラスにしてしまうほどの勢いが感じられる。それは認めざるを得ない。

そのため、「これまでは彼のような候補は勝てなかったからトランプも勝てない」という専門家の判断は、ことごとく覆される可能性がある。

たとえば、2008年の大統領選でこんなことがあった。今でも鮮明に覚えている。アメリカをよく知る日本人のベテラン・ジャーナリストが、08年夏の段階でも「アメリカ国民は黒人大統領を受け入れる準備ができていない」と言ったのである。

08年春、オバマがヒラリーとの予備選での戦いを制し、民主党の代表候補になった時点で、私はオバマ以外に大統領はないと考えていた。多角的に状況を判断するまでもなく、彼の勢いは共和党候補ジョン・マケインに負けるわけもなかった。

それでもそのジャーナリストはオバマは勝てないと言ったのだ。そこには「オバマに勝ってほしくない」、「黒人は大統領になれない」といった潜在的な思いから脱せられない呪縛にも似たものを感じた。

いま「トランプは勝てない」と述べることは、もしかすると今アメリカで起きていることに目を瞑ることなのかもしれないとも思う。

上院議員や知事といった既存の政治家に対する圧倒的な不信が国民にあるのも確かだ。反体制とポピュリズムがトランプ旋風を加速させる要因になっている。

ジャーナリストとして、いまあるものを冷静に眺めたいと思っている。(敬称略)