豊かさの限界

いま読んでいる本の中に学生時代によく耳にしたフレーズがでてきたので妙に懐かしくなり、噛み締めるようにじっくり読んでいる。

読んでいるのは講談社現代新書の「新しい世界:世界の賢人16人が語る未来」という本で、その中にダニエル・コーエンという経済学者の章があり興味深い。懐かしいフレーズというのは「マルサスの法則」と「イースタリンの逆説」である。

ご存知の方も多いかと思うが、マルサスの法則は18世紀から19世紀にかけて生きた経済学者トーマス・ロバート・マルサスが導きだした法則で、食料の生産速度よりも人口増加の方が速いために、世界は必然的に食料不足や貧困に直面するというものだ。もちろん19世紀の世界のことなので、20世紀から21世紀になって食料の生産性が上がったことで同法則に支配されることはなかった。

もう一つのイースタリンの逆説というのは、米経済学者のリチャード・イースタリンが1974年に発表した学説で、社会が経済成長を遂げて豊かになっても、市民は必ずしも幸福を得られるわけではないという内容だ。「お金=幸福」ではないのでパラドックスであるとの指摘である。

後年、ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンが幸福度と収入は一応比例するが、約800万円が上限で、それ以上稼いでも幸福度は大きくかわらず、経済的欲求が満たされたあとは、個々人がどういった生活をするかにかかっていると記している。

実はほとんどの方はこうした記述を意識的に、または無意識的に理解しているはずで、日々の生活のなかでいかに自分らしい幸せを見出していくかが大切になるのだが、なかなかこれが難しい、、、のが実感である。