トランプにかけられた容疑

アメリカではいまトランプの弾劾ニュースがピークを迎えようとしている。

新聞記者は適語を使ってニュースを伝えようとしているが、もっとわかりやすく伝えられないかといつも思う。

たとえば弾劾訴追という言葉がある。日本では馴染みのない表現なので、肌感覚でパッと理解できる方はすくないのではないだろうか。「大統領を辞めさせるための訴え」と置き換えるだけで、霧が晴れたようになる。

日本時間11日早朝、アメリカの連邦下院司法委員会がトランプを訴えるための容疑を2つ発表した。2つだけ(権力乱用と議会妨害)である。「・・だけ」と書いたのは、2カ月前には6つの容疑が検討されていたからだ。

①贈賄罪、②公務執行上の詐欺罪、③選挙資金法違反、④強要罪、⑤脅迫罪、⑥司法妨害罪

6容疑は私がひねり出してきたものではない。米議会が検討していたもので、私は講演や記事で「トランプは6容疑で訴追される可能性がある」と述べてきた。だが「権力乱用」と「議会妨害」の2容疑だけになってしまった。

「権力乱用」はトランプがウクライナに対し、軍事支援を停止すると脅したり同国大統領のゼレンスキーとの会談を見送った行為にあたる。6容疑の中では④の強要罪と⑤の脅迫罪だろう。

「議会妨害」は⑥の司法妨害罪にあたり、弾劾調査の過程でトランプが政権内の人間に協力しないように指示した問題である。トランプは両容疑で訴追され、今月20日までに下院本会議で起訴されるはずだ(決議案の可決)。

ここまでは予想どおりの流れだが、私にはどうも腑に落ちないことがある。というのも、下院司法委員会に呼び出されたアメリカの憲法学者の間でも、トランプ弾劾については意見が割れているからだ。

ハーバード大やスタンフォード大の法学者はトランプが弾劾されなければ法律の意味がなくなる、と述べるほど弾劾を支持したが、一方でジョージ・ワシントン大学教授のターレイなどは反トランプの立場でありながら、弾劾を進めるだけの証拠に乏しいと述べている。

これはどういうことなのだろうか。人間が不完全である以上、法律にも完全というものはなく、トランプの行動を違法と捉える者と違法ではないと捉える憲法学者がいて、議論を尽くしたところで「絶対的」な結論には辿りつかないことが見えたという思いである。

あらゆる角度から状況判断をし、冷徹に分析を試みて、有罪か無罪かの二者択一を決めるという作業は、特にトランプの場合、政治という色によって決定されることが明らかで、そこに私は落胆と諦めを感じざるを得ないのだ。(敬称略)