悪魔の化身

「ずっとお会いしたかったです。なにしろあなたは悪魔の化身だと聴いていましたからね」

前国防長官のジェームズ・マティスが2018年3月、ペンタゴン(国防総省)の入り口でジョン・ボルトンと初めて会った時のセリフである。もちろんジョークであり、2人は笑っていたが、初対面の人に対して「悪魔の化身」という言葉はなかなか使わない。

私はアメリカに25年間住んだが、いくらアメリカでも初対面で悪魔の化身と言った人を他に知らない。それはある意味で、ボルトンがどういう人物かを物語っている。

そのボルトンがホワイトハウスを去る。トランプはボルトンに辞めるように促したとツイッターで記した。正確には「ホワイトハウスでの公職はこれ以上必要ないと昨晩、ジョン・ボルトンに伝えた、、、辞職するように促した」であるが、ボルトンは自らのツイッターで「昨晩、大統領に辞意を申しでた。大統領は明日、話し合おうと言った」と書いている。

「辞職します」が先なのか、「お前はクビ」が先なのかは今後わかるだろうが、トランプがボルトンと意見が合わないことは国家安全保障担当の補佐官になる前からわかっていた。イラン政策や北朝鮮政策など、強硬派であるボルトンがどういう政策を提唱するかは折り込み済みだったはずだ。それでもトランプは安全保障政策担当のトップに彼を据えた。

ワシントンから伝わる情報では、トランプはそんなボルトンを強硬派の先鋒として、またバランスをとるために穏健派の補佐官も置き、その中で政策を決めてきたという。しかしボルトンは最近、政権内で孤立しはじめ、ミーティングにも欠席することがあった。たぶんトランプとボルトンの関係はかなり冷え込んでいたのだろう。

まだボルトンが首都ワシントンのシンクタンク、AEI(アメリカン・エンタープライズ公共政策研究所)にいる時、インタビューしたことがある。その時は穏やかな表情を浮かべ、和やかに会話したことを覚えている。

ただトランプがボルトンと不仲になることは、最初から時間の問題にも思われた。なるべくしてなったという流れだが、トランプ政権発足後、辞めた(辞めさせられた)閣僚はこれで18人目である。(敬称略)

bolton9.10.19

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