公正世界仮説

これほど愚かなことがあるだろうか。

トランプが米露間の中距離核戦力(INF)全廃条約を破棄したことを受け、プーチンも条約の義務を守る必要はないとして2日、破棄をきめた。それにより今後6カ月以内に両国が考えを改めないかぎり、せっかくの条約が無になる。

条約の破棄によって両国がすぐに戦争をはじめるわけではないが、時代を逆行させたことに等しい。同条約が発効した1987年以前にもどることになる。

戦争が人間にとっていかに愚かであるかを両首脳は考え直さないといけない。戦争で犠牲になるのは一般の無辜な市民である。再び核兵器が増えていくということは、大げさな言い方をすれば絶望と恐怖をまねき、人間の夢を打ち砕くということに他ならない。

80年代、核兵器を減らそうとの意志でレーガンとゴルバチョフが条約を締結したはずである。世の中は少しずついい方向に向かっていくかに見えたし、いまでも世界は少しずつ前進していくと考える方も多い。これを「公正世界仮説」という。

世の中は公正にできているので、いずれ悪は滅び、最後は正義が勝つという仮説だ。アメリカの社会心理学者メルビン・ラーナーがいい始めた学説で、多くの人が信じたがる仮説だが、実際はまったく逆の結果が生まれることもたびたびあり、人間が未来に向けて必ずしも賢明な選択をするとは限らないのが現実の世界である。

戦争ほど愚かなことはない。(敬称略)