ヒラリーの心の中

アメリカでは大統領や長官(日本の大臣)を経験すると、退官後は講演だけで十分に食べていける。

たとえばヒラリー・クリントンは、昨年1月に国務長官を辞したあと、講演1回につき最低20万ドル(約2350万円)をポケットに入れている。今年になってからは30万ドルに跳ね上がったとも言われる。

今年3月、ヒラリーはカリフォルニア州立大学ロサンゼルス校(UCLA)で講演をした。ワシントンポスト紙によると、大学側はヒラリーが国務長官を辞めた直後に講演の依頼をし、ほぼ1年たってにようやく実現したという。

大学側はヒラリーの代理人に対し、「教育機関なので講演料は勉強して頂けないか」と打診したらしいが、講演料は「正規料金」のままだった。

しかも、ヒラリーの要求は詳細におよんでいた。講演時、ステージの上に常温の水と切ったレモンを置くこと。控え室には生野菜とフムス(ヒヨコ豆のペースト)を用意するようにとの指示もでていた。それだけではない。ステージの椅子に長方形のクッションを2個を備えてほしいという。さらに予備のクッション2個も控え室に用意してほしいとの依頼だった。

写真撮影の条件等も細部にわたっており、ヒラリーが本当にこれだけ細かい指示をだしているのか、それとも代理人の要求なのか定かではないと大学側も首をかしげたという。

一般的に日本よりも細部への気配りに無頓着なアメリカで、この用意周到さはいったい何なのか。前国務長官という公職にいた人間であったとしても、30万ドルを支払わせた上で、さらに自分の要望をすべて受け入れさせるという性行はいくらアメリカでも強欲と捉えられる。

国務長官として世界中を飛び回り、これ以上ないほどの接待を受け続けるとこうなるのか。

大統領になったとしても年俸は40万ドル。これから彼女に公職は務まるだろうか。(敬称略)

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2013年1月のヒラリー

by the State Department

意味のない衆議院解散

血迷ったとしか思えない-。

安倍はどうやら外遊するはるか前に衆議院の解散を決めていたらしい。

消費税を8%から10%にするかどうかの「信を問う選挙」というのは、無理矢理つけた理由にすぎない。今年中に選挙をすれば、自民党は過半数を確保できるからという私利私欲による解散である。

衆議院の解散権は、憲法上内閣がもつが、首相の専権事項となっている。だから安倍のような自分勝手な理由で衆議院を解散できる。だが、いま解散すると経済や外交でのマイナス面しか思い当たらない。

1億2000万人以上の国民のトップに立つ人間の判断とは思えない。

アメリカの連邦議会には解散がないので、上院は6年、下院は2年の任期を過ごす。大統領の任期は4年。再選を果たせば次の4年もできるので計8年。それ以上は務められない。

大統領は辞任できるが、重要法案が通らなかったというだけで職を投げ出したりしない。こらえるのである。同時に、8年という任期がはっきりしているからこそ、何をどう進めるかの長期的な展望がひらける。

カナダやオーストラリアは日本と同じように、総督の権限で下院(日本の衆議院)を解散する権限をもつが、日本の首相は乱用し過ぎている。しかも我欲で解散権を行使している。ほとんどあり得ない世界である。

日本は憲法を改正して首相の解散権を剥奪すべきである。迷惑を被るのは国民であり、他国である。地方創生相の石破は「解散は総理大臣の専権事項なので、私たちがとやかく言ってはいけない」と言ったが、今回の安倍の解散については「とやかく言わなくてはいけない」。

こういう人物は国政の場にいてはいけないと真に思う。(敬称略)

非日常しか伝えない世界

ニュースを追っていて、たまに思うことがある。

「非日常的な世界しか伝えていないのではないか」

事件や事故をはじめ、政治や経済の諸事情はわれわれの普通の生活とかけはなれたところにある。ニュースとはそういうものと言われればそれまでだが、猟奇殺人や大統領の言動などは一般市民の日々の生活とほとんど接点がない。

以前、友人が訊いてきた。

「アメリカ人って普段なに食べてるの?」

テレビや映画のなかにはアメリカ人の食事風景がしばしば登場するが、それは設定された場面にすぎない。普通のアメリカ人が朝食に何を食べているのか、あまりにも普通すぎてわからない。

中西部オハイオ州の4人家族の朝食はどういった風景なのか。

まずコップ1杯のオレンジ・ジュースを飲み、数種類そろえてあるシリアルを選んでボウルに入れ、低脂肪ミルクを入れて食べる。コーヒーも飲むがデカフェ(カフェイン抜き)を選択する人も多い。あとはバナナやリンゴといったフルーツか。何も食べないで通勤途中にスタバによってドーナツとカフェラテで済ます人もいる。

アメリカの朝食の典型と思われるスクランブルエッグや目玉焼き、ソーセージを食べる人は今でもいるが、それはホテルでの朝食であり、卵料理を朝から作る家庭は過去20年でかなり減少している。もちろん食べるものは個人差が大きい。けれどもアメリカ人の朝ご飯は意外にも質素だ。

ただこうした普通のことがメディアで語られることは少ない。事件や事故は伝えられるが、日常が伝わらないのでいつまでたってもアメリカの全体像が見えない。

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変わらない政治とカネの問題

安倍内閣の女性閣僚2人が辞任した。小渕の後任である宮沢洋一にも政治活動費で疑念がうまれている。

政治とカネの問題はもちろん今にはじまったことではない。閣僚の人事をきめる時のずさんさはいかんともしがない。「身体検査」のシステムがないので早急に構築しなくてはいけない。

第1次安倍政権でも同じ問題が浮上して閣僚が辞任している。その時、朝日新聞にコラムを書いた。言いたい内容は7年後の今でもまったく同じである(下記)。7年間、何も変わっていないということだ。

ご参考まで、コラムを添付します。(敬称略)

朝日新聞2007年9月20日朝刊

安倍首相の突然の辞任表明から1週間がたち、政治の話題は自民党総裁選に占有されている。だが、政権与党の国会議員による「政治とカネ」の問題が解決したわけではない。
新政権になっても、金銭絡みの閣僚らの不正が再び表面化する可能性は高い。というのも、首相官邸を含む日本の政府機関には、本当の意味での「身体検査」のシステムがないからだ。

私はジャーナリストとして米国のワシントンに25年住み、今春帰国したが、閣僚を含めた政治任用職(ポリティカル・アポインティー)の人選については、米国の徹底ぶりをまざまざと見せつけられた思いが強い。

米国の首相官邸にあたるホワイトハウスには人事局があり、長官などに空席ができると、まず多岐にわたる視点から候補者を挙げ、その全員に連邦捜査局(FBI)と内国歳入庁(IRS)が徹底的な「身体検査」を行う。通常で3カ月を費やす。

同時に、人事局は候補者との面談と書面により、家族の詳細、健康状態、21歳以後の全所得と全収入源、財産、所属機関の詳細、各種支払いの滞納の有無、新ポストに批判的な知人の有無、養育する子供がいる場合の費用延納の有無、さらに家族が大統領を否定する言動を過去に行ったことがないかなどまでをただす。まさに本格的な「身体検査」だ。日本のような会計検査院の指摘レベルではない。

このハードルをクリアした後、候補者は連邦上院司法委員会の公聴会に出席し、議員の質問にさらされる。その上で、本会議場で過半数の賛成を得て承認されなくてはいけない。米国のような海千山千の人材がひしめく環境では徹底的な「身体検査」が必要になるのだ。

89年、ブッシュ(父)政権誕生時、知日派として有名なアーミテージ元国務副長官が国務次官補に指名されたことがある。しかし、彼はイラン・コントラ事件への関与を疑われ、不適格として却下された。システムが確立していたことで公職に就く前に落とされたのだ。

92年、私がホワイトハウスの記者証を申請した時のこと。FBIは3カ月かけて私の身辺を捜査した。当時住んでいたマンションの管理人や同じ階の住人にも捜査官が聞き込みに来た。ある夜、管理人が「あんた、FBIが来たわよ」と慌てふためいていたことを思い出す。記者に対しても当然のように「身体検査」をする徹底ぶりである。

こうした厳しいプロセスを当たり前ととらえ、議員や政治任用職の人たちは普段からカネの出入りの透明性を保っている。もちろん、あらゆる分野での違法行為とは無縁でいなくてはいけない。税金で給料が支払われる公僕である以上、当然との意識である。

それに比べると、日本の議員のカネに対する「ゆるさ」はいかんともしがたい。すべての議員がそうというわけではないが、「これくらいは許される」といった甘さは正すべきだし、日本文化と開き直っている時代ではない。

米国のシステムが万能であるわけではない。日本がやみくもに米国のシステムに追随すべきでもないが、使えるものは積極的に生かし、日本流に変えて採用すべきだろう。

少なくとも首相官邸の「身体検査」はシステムとして機能していない。日本独自のプロフェッショナルな「身体検査」を早急に確立すべきである。旧態依然とした自民党的な人事はもはや過去の遺物だ。小手先だけの検査では、問題の本質的な解決にならない。