箱根の湯

          

      

中学時代の友人たちと箱根の温泉につかりに行っていた。あいにくずっと空から冷たいものが落ちていて、富士山どころか箱根の外輪山の山頂さえもみえない。雨霧が谷間までおりてきて、あたりをしっとりと包み込む。

今回の幹事役のS君が訊いてきた。

「アメリカにも温泉はあるの」

「たくさんあるよ。でも日本と違ってみんな水着で入るし、ぬるいなあ」

自宅にもどってから、あらためてアメリカの温泉事情(ホット・スプリング)を少し調べてみた。個人的にはカリフォルニアとバージニア、ウェストバージニアの温泉しかいったことがなかったが、驚くことに全米海洋大気局(NOAA)の調査によると、アメリカには1661ヵ所も温泉があった。

日本では湧水の温度が25度以上であれば温泉と名乗れる温泉法があるが、アメリカには確立された温泉の定義はない。ただNOAAでは水温が20度以上50度以下を「ぬる湯(ウォームスプリング)」と定めている。

それにしても、調べてみるものである。1661ヵ所という数字は、それだけで雑誌・書籍担当の編集者が「特集を組みましょう」「本を作りましょう」といい出しそうなインパクトがある。

ただ情緒のある日本の温泉宿は食事にしても浴室にしても、アメリカには太刀打ちできないレベルにまで昇華されているので、いくらアメリカが進歩的なことが好きであっても日本の温泉の伝統は真似できない。

日本からアメリカの秘湯を訪れても、たぶんガッカリさせられるだけである。

ペンギンの世界

今年6月、速読の集中講義を受けたあとも大量の本を読んでいる(参照:速読がやってきた)。

速読のレベルはいまだに初心者の領域をでていないが、200ページ前後の本であれば15分から20分で読めるようになってきた。ありがたいことである。そうなると、本屋に1時間いると3冊の本を読める計算になる。

もちろん買う本の方が多いが、面白そうだと思って最後まで読んでも、「もうひとつでした」という本の方が多い。過去3ヵ月、読んだ本をずっと点数評価しているが、10点満点で「10」を出した本はいまだにない。

アマゾンでは読者が本の評価を星印でしているが、5つ星が多く、ずいぶん甘い評価だなと思う。満点をどうして簡単に出すのだろう。本当に満足してしまうのか、それとも基準が甘いのか、私にはわからない。

速く読めるようになっても、ゆっくり読む時もある。限りなくスピードアップする時と、比較的のんびり活字に目をはわす時と両方あるので、読書の幅がひろがった。

速読を学んでもう一つよかったのは、自分の専門以外の本を読むようになったことである。思い返すと過去2,3年読んできた本の9割はアメリカ関連を中心に、政治、経済のノンフィクションの書籍だった。ところが今は小説も読むし、まったく違う分野の本も読む。

たとえばブータンの文化やペンギンの生態といった内容の本だ。高校、大学で本の面白さを知り始めた時のような感慨がある。

その中でも『ペンギンの世界』(上田一生著)は出色の面白さだった。8年前の本だが、楽しい書籍である。ペンギンはいま、世界に18種類、6000万羽いるという。

        ペンギンの世界 (岩波新書)

この本を手にしたとき、「昔は空を飛んでいたのか」という疑問が脳裏に宿ったが、その問いにしっかり答えてくれた。そして南極にいってアデリーペンギンと向かい合ったような感覚がおとずれ、胸が一瞬ホワッとした。

南極にはまだ足を踏み入れたことがないので「いずれは」と思っていたが、その思いが「行こう」に変わりつつある。