イラン攻撃を中止したトランプ

今週、早稲田大学オープンカレッジの春学期最後の授業があった。毎回90分、トランプ政権の動向を中心に、国際問題の解説をしている。毎回、90分も話が続くだろうかと思って臨むが、最後の方はいつも時間が足りなくて、急ぎ足になってしまう。

毎回あちらこちらに飛びながら、なんとかこなしているというのが実情で、もう少しまとまりのある話ができれば、と思っている。最後の回でイラン問題についての話をしようとも思っていたが、かなわなかった。

昨日、トランプがイランへの軍事攻撃を取りやめたというニュースが伝わった。賢明な判断だったと思う。

トランプはツイッターで「攻撃10分前に中止した。急ぐことはない。米軍はさらに強くなっているし、いつでも出撃できる。世界でダントツのトップだ」と誇った。内外に軍事力を誇示する愚かさは相変わらずトランプらしいが、「推定死亡者が150人であると聴いたからだ」という中止理由も虚しい。

というのも、トランプは今回のイラン攻撃計画の説明を受けた時点で、推定死亡者150人という情報を間違いなく聴いていたからである。だから攻撃10分前になって推定死亡者数が伝えられたというトランプの説明は正しくない。これは元米軍将校からの情報だ。

トランプは死傷者に対する感傷を持ち合わせていないと思われる。政権発足後の2017年4月、シリアに59発のミサイル攻撃をしかけている。そして翌18年4月には105発のミサイルを発射している。17年の攻撃だけでも80人の死亡者がでて、数百人が負傷したと伝わる。それでも翌年にまた撃ったのだ。

今回、イランの攻撃目標になっていたのは3カ所で、トランプが「攻撃しろ」と命令を下せばミサイルはすぐに発射されて、多くの死傷者がでるところだった。中止した理由は他にあったと思われる。シリアとイランの国情の違いか、長期にわたる戦いになる可能性を危惧したためか、別の理由があったからとも考えられる。

いずれにしても「犠牲者がでるから」というのはトランプらしくない言い訳である。結果的に攻撃中止になったことはよかったが・・・。(敬称略)

トランプの準専制主義

純粋な専制主義ではない。だが横暴なトップダウンの政治手法は「準専制主義」と命名してもいいだろう。

最近だけでも、トランプは連邦準備制度理事会(FRB)を「crazy」と呼びすて、株価下落と経済指標の数字の悪さはジェローム・パウエル議長のせいであると決めつける発言をした。それを受けて、FRBは今年10月までに段階的な利下げを検討しているとも伝わる。

トランプは貿易政策でも高圧的な態度を緩めようとしない。メキシコからの不法移民がアメリカ国内に流入しつづけているので、移民問題を貿易問題とリンクさせて、具体的な解決策が打ち出されなければ10月までにメキシコからの全輸入品に段階的に25%の関税をかけるとしている。

議会だけでなく、財界や一般市民からも反対の声があがっている。だが一向に構わないといった風情である。目的を達成できれば手段は選ばない手法はまさしく専制主義に通じるものがある。

ホワイトハウスの補佐官やスタッフたちは尻拭いに追われている。各省庁の長官レベルも同じ境遇で、トランプに楯突くと解雇されるか辞めざるをえない運命が待っているので、ボスの言うことに従わざるをえない。

敵にまわすとやっかな人間であるとの評はビジネスマンの時から変わらない。味方にすると利点も多いが、それはトランプ流に飲み込まれることに等しく、結局周囲には「イエスマン」しか残らなくなる。安倍もその一人だろう。

これこそがトランプ流の準専制主義というものである。今回アメリカに来て、輪郭が見えてきた。

ロシア疑惑(20):現地報告

今回アメリカに来たのは大統領選の取材もあるが、トランプがどれほど市民に支持されいているかを探ることも目的にある。

3月下旬にマラー報告書の全文が公開されたあと、司法省はトランプを「起訴しない」立場を表明し、ロシア疑惑はこれで終わりかと思っていた。ところが、トランプ弾劾の動きは収まるどころか徐々に弾劾へと流れを強めているかに見える。

トランプは逃げ続けているが、連邦下院司法委員会が弾劾手続きを始めるようだ。同委員会に所属する議員の半数以上が弾劾に賛成だからだ。3カ月前に下院議長のペロシが弾劾を支持しないと発言したが、優柔不断な彼女のことだから、司法委員長に説き伏せられれば「そうしましょう」といって態度を翻す可能性は十分にある。

今日、連邦議会に出向いて何人かと話をすると、「まだわからないが、弾劾の方向にいく可能性が高い」というのが大方の見方だった。

「ニクソンの二の舞ということもありうる」。民主党側の人間からはそんな勢いを感じた。(敬称略)

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5日午前中の上院外交委員会。ホワイトシャツがミット・ロムニーで、左に座っているのがテッド・クルーズ。2人ともかつての大統領選候補で、いまも上院議員をやっている。

北朝鮮政策がないことを認めた安倍

迎賓館で27日に行われたトランプ・安倍の記者会見を観ていて、「ちょっとありえないでしょう」と独り言を口にしていた。

何がありえないかというと、安倍が北朝鮮政策を持っていないことを認めてしまったことである。会見の最後の方で、アメリカ人記者が北朝鮮のミサイル発射(5月初旬)について訊いた時のことだ。

トランプは「アメリカ国民は北朝鮮が国連決議に違反していると思っているかもしれません。しかし、私はそう思いません。北朝鮮は核実験を行っていないし、弾道ミサイルも発射していません。いつの日か合意に達することができると思います」と答えた。

安倍はどちらに身を寄せるのか。これまでは「国連制裁決議に基づいて最大限の圧力を」と言い続けてきている。そうした経緯を踏まえれば、安倍は国家安全保障担当のボルトンと同じ意見であるかに思えた。

だが安倍は二枚舌を使うのだ。しかも同じ質問の答えの枠内で、まったく相反する答えを述べた。

「5月9日の北朝鮮による短距離弾道ミサイル発射は、関連する国連安全保障理事会決議に違反するものであり、極めて遺憾でありますが、同時に、私は大統領の金委員長との間で取ってきた新しいアプローチについては、改めて敬意を表したいと考えているところです。」

ミサイル発射には反対だが、トランプの新しいアプローチは認めるというのは完全なる矛盾である。質疑応答の流れから、トランプのミサイル発射容認発言にも賛成するということで、自身の北朝鮮政策などまったく無いに等しいことを露呈させた。

あるのはアメリカ追従の姿勢だけである。これは政策とは呼べない。トランプについていく従順な下僕のような姿だけが目立ち、落胆を通り越して悲憤を覚えた。(敬称略)

トランプの楽観

いまから13時間ほど前(日本時間4日午後10時頃)、トランプはツイッターで、同日午前に北朝鮮から発射された飛翔体(たぶんミサイル)についてのコメントを出した。驚くほど前向きで肯定的な内容だったので、こちらが驚かされた。

これまでアメリカ政府は北朝鮮がミサイル発射や核実験をするたびに非難してきたが、今回は「いまの世の中いろんなことが起きますから」とトランプは述べたのだ。ミサイル発射を「いろんなことが起きますから」で片付けたところにトランプの金正恩に対する期待の高さがあるし、金正恩が2人の約束を破るわけがないだろうといった楽観をみる。

北朝鮮が今後大きな経済発展を遂げるために、金正恩は米国とこれまで協議してきた内容を「中断または中止する」わけがないとの態度である。4日午前に発射した飛翔体は何かの間違いであってくれといわんばかりの対応だ。

ミサイルが発射された時間からツイートまでの時間が長かったことから、トランプは安全保障担当補佐官たちと協議をしたあと、北朝鮮を刺激しない方針に落ち着いたとも思える。いかにトランプがいま米朝関係を大事にしてきるかのサインでもあるが、こうした懐柔策が通用するかどうかはわからない。