Dropping by 東大

久しぶりに東大の本郷キャンパスに出向いた。

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現代アメリカ政治のセミナーに出席するためだ。若手の学者を中心にした研究発表があり、アメリカの議会政治についての分析を聞いた。

いつもはジャーナリストとして事件から大統領選挙までを俯瞰しているが、虫眼鏡で一点を集中してアメリカを観るようなアカデミズムのアプローチも重要である。

ただ自身は在野の人間、というより外にいないと息ができないタイプであることを再確認しながら帰路についた。

MBAが企業を悪くさせる?!

MBAが増えすぎたことで経営が悪化する―。

経営のプロを養成するビジネススクール。MBAの功罪は長年広く議論されているが、アメリカ財界の一部で今、MBAの存在意義に疑問が投げかけられている。

その理由の1つがアメリカ製造業の競争力低下にある。MBAの資格を持つ経営者が大企業のトップに君臨しはじめたことが起因しているとの仮説がある。ゼネラル・モーターズ(GM)のロバート・ルッツ前副会長の最新刊『クルマ屋VS経理屋:ビジネス魂を求める戦い(仮題)』では、MBA経営者が増えすぎたことがアメリカのモノ作りの力の低下につながったと指摘している。

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          デトロイトのGM本社ビル

1年ほど前、本コラムの「サンプル」でアメリカ製造業の衰興について記した。同業界はすでに衰退したと思われがちだが、実は生産高は今も上昇し続けている。モノ作りの内側に変化が生じているだけである。

ただ財務諸表を気にする傾向が強いMBA出身の経営者たちは、コスト削減に重きを置くことで製造を軽視しつづけてきた一面があり、それがビッグ3の衰退につながったと説いている。

実はルッツ氏自身、カリフォルニア州立大学バークレー校でMBAを取得しているが、MBAが企業経営の万能な力を持っているわけではなく、すべての業界で秀逸であるというのは幻想に過ぎないと主張している、、、、(続きは堀田佳男公式メールマガジン『これだけは知っておきたいアメリカのビジネス事情』)。

プロに勝ったなでしこジャパン

サッカー女子ワールドカップの結果は個人的には複雑な心境である。というのも、私は人生のほぼ半分をアメリカで過ごしたため、今朝のような日米決戦というのは胸を引き裂かれる思いがある。

アメリカ対ドイツであれば間違いなくアメリカを応援するし、日本がアメリカ以外の国と戦う試合は当然日本をサポートする。だから今朝の試合は困りものだった。

ただ今日の試合に限っては「判官びいき」というものが気持ちを支配していた。試合開始直後は、日本もいいけどアメリカにも勝たせてやりたいという気持ちがあったが、前半からアメリカがボールをコントロールしていたので、「ニッポン!チャチャチャ」である。点を入れられれば、「日本ガンバレ」である。

  

     

                     

なでしこジャパンは最後まで諦めずに本当によく戦った。ワシントン・ポストは澤のことを「32歳の日本のスーパースター」と書き、117分目に試合を同点にして勝利を引き寄せたと讃辞を送った。

大震災という未曾有のできごとから蘇ってきた精神力の強さのようなものを感じもした。試合後、スタジアムを埋めた5万近い観客は日本にスタンディング・オベーションを贈った。それは日本選手の潜在的な自尊の念をすべての人が感じとったからだろう。

アメリカチームのゴールキーパーであるホープ・ソロが語っていた。

「日本選手はいつもより崇高なものを求めてプレーしていたようだ。心の強さと情熱を感じた。それに対抗することは大変なことだった」

心でまずアメリカに勝ったということだ。さらにもう1つ、なでしこジャパンが賞賛に値することがある。それはプロ選手に勝ったということだ。

アメリカチームの21選手中20人までがWPSというアメリカのプロリーグでプレーしている。日本の女子選手のように「仕事をしながら」というのではない。

アメリカには2000年にサッカーの女子プロリーグが誕生している。03年に閉幕したが、09年からWPSという新しいリーグが始まった。平均観客数は1試合4000人にも満たず、相変わらず経営は苦しいが、それでも選手たちはサッカー漬けの生活が約束されている。その選手を負かしたのである。今回は手放しで選手を褒めるべきだろう。

ただ、私の胸の奥には今でもいくぶんか別の複雑な感情が潜んでいるのも確かである。

米大企業がベンチャーキャピタルに戻ってきた理由

「アメリカの景気は今後どうなりますか」

アメリカと直接ビジネスを行っていない方でも、アメリカ経済の行方は知りたいものである。

眺めるべき経済指標はたくさんあるが、一言で表現すれば「足踏みからようやく半歩前に出ただけ」というのが実情である。第1四半期のGDPは1.9%。アメリカ人にとって家計に響くガソリン代は、全米平均で1ガロン3ドル68セントにまで落ちてきた。

だが失業率は6月、再び9.2%に上昇している。市場に十分な資金が流れて企業が積極的に設備投資を行えばいいが、そうした動きによる活況の姿はまだ遠い。

たとえばバブル期であれば、投資家たちは新進企業にベンチャーキャピタル(VC)として多額の資金を割いて、大きなリターンを期待した。VCへの資金運用は、アメリカの景気を見る上で指標の1つである。

VCの大きな目標は新進企業の株式公開(IPO)で、全米ベンチャーキャピタル協会の調査によると、2010年に集まったVC資金は125億ドル(約1兆円)に過ぎなかったという。この額は03年以来の低さで、「VCは枯渇した」と形容できるくらいだ。だがここにきて、大企業がVCに資金を流入しはじめている、、、、(続きは堀田佳男公式メールマガジン『これだけは知っておきたいアメリカのビジネス事情』)。

オバマ対ロムニー

大統領選挙を「自分のライフワーク」などと公言しておきながら、このブログで選挙について記したのは5月23日(米ロ大統領選へ) が最後である。恥ずかしい限りだ。

今日まで、共和党からはほとんど勝ち目のない候補を含めて15人ほどが出馬宣言をしている。特定の州だけで出馬宣言をしている候補もいるので実際はもっと多いが、泡沫候補が大勢いるのは日本でも投票所に行って聞いたことのない候補がリストされているのと同じである。 

来年11月6日の本選挙までずいぶん時間はあるが、候補のネームバリュー、選挙資金、選対の力、有権者の反応、世論調査、政策の良し悪しなどを考慮すると、私の見立てでは現在のところ前マサチューセッツ州知事のミット・ロムニー、ミネソタ州下院議員のミッシェル・バックマンの2候補しかオバマと相対するだけの力量はないだろうと思っている。

ビジネスマンのハーマン・ケイン、前駐中国大使のジョン・ハンツマン、元下院議長ニュート・ギングリッチ、テキサス州下院議員ロン・ポール、前ミネソタ州知事ティム・ポーレンティーといった候補たちがこれからロムニーを追い上げ、予備選をトップで通過するようには思えない。

アメリカ政界の事情を熟知していない人でさえ、たとえばギングリッチやポールにほとんどチャンスがないことくらいはわかる。だが、新聞やテレビははっきりと言わない。

日本で政治記者が政局を外したら左遷である。「客観性を重視する」というセリフと「上部からの強い自制」によって選挙報道にはブレーキがかかる。本気で候補を平等に扱う姿勢を貫くのなら、泡沫候補すべてを報道すべきであるが、そうはならない。同時に大胆な予測もしない。

私はどこからの影響も受けないので、これまでの経験と分析ではっきりとモノを書いていくつもりである。

2012年の大統領選が熱を帯びてくるには前アラスカ州知事のサラ・ペイリンが選挙戦に入ってくるか、テキサス州知事のリック・ペリーが出馬するかだろうと思う。ペリーは出馬していないが、いくつかの世論調査では2位につけている。

もし両者が選挙戦に加わらない場合、共和党の予備選はつまらないレースになる。このまま大きな波風が立たずに来年11月、オバマ対ロムニーの戦いになる可能性もある。(敬称略)

    

                               by the White House