ロシア疑惑(14)

今月11日の当欄「ロシア疑惑(13)」で、トランプの弁護士だったマイケル・コーエンが「刑務所に入ることは確実」と書いた。

翌12日、ニューヨーク南部地区連邦地裁はコーエンに禁錮3年の実刑を言い渡した。トランプ周辺にいる人物がまた1人、トランプに代わって塀の中に入ることになった。

14日になって、コーエンはABCニュースのジョージ・ステファノプロスのインタビューを受け、元ボスであるトランプについて正直に思いを話している。

「(トランプの)ツイートは全く真実ではないです。私がやったこと(罪)について、自分自身に腹をたてています。でも昨日(禁錮3年の実刑を受けたことで)、私は自分の行動の責任をとりました。単に私は(トランプに対して)忠誠だったのです。(中略)盲目的なまでに忠誠を誓っていました。本当に彼を憧れていましたから。(中略)いまホワイトハウスにいる男性は私の知るドナルド・トランプではありません。まったく違う人です」

禁固刑を受けた男がほかに何を隠そうというのだろうか。テレビに映しだされたコーエンは幾分かやつれていたが、真摯な受け答えだったと思う。

コーエンの罪の1つが偽証罪だが、本当はトランプこそが偽証罪に問われてしかるべきだということは多くの人のが思っていることである。

トランプの終焉の始まりである。(敬称略)

ロシア疑惑(13)

ロシア疑惑の闇は想像以上に深い。

2016年のアメリカ大統領選にロシア政府が関与していたことは間違いがないというのがロバート・ムラー特別検察官チームの結論であるが、トランプが本当にかかわったのかがいまだにはっきりしない。

ワシントン・ポスト紙は9日、ドナルド・トランプの周囲にいる最低14人がロシア疑惑にかかわっていたと書いた。

「かかわっていた」というのは微妙なニュアンスである。英語ではinteractという単語が使われるが、関与を知っていただけなのか、ロシア政府による選挙介入を手助け(共謀)したのか、それ以上の違法行為をしていたのか、ポスト紙の調査報道でもまだはっきりしていない。

14人の中にはトランプの長男ドナルド・トランプ・ジュニア、義理の息子ジャレッド・クシュナー、長女イヴァンカ・トランプも含まれる。もちろん有罪判決を受けている弁護士マイケル・コーエン、選対委員長だったポール・マナフォート、外交アドバイザーのジョージ・パパドプロスも入っている。

10年以上もトランプの弁護士だったコーエンと選対トップにいたマナフォートが今後刑務所に入ることは確実だが、その状況でトランプだけが「シロ」であることの方がむしろ不思議である。

ムラーは今年5月、「トランプを起訴しない」と発表したが、状況は変わってきている。トランプは今後も知らぬ存ぜぬを貫くと思われるが、状況証拠だけでなく関係者の証言と決定的な証拠がでてくれば起訴もあり得るだろう。16年の選挙戦で、トランプは少なくとも2つの違法行為をしたとの見方もある。

ムラーは12月7日付けで、ワシントン特別区連邦地裁(マナフォート)とニューヨーク州南部地区連邦地裁(コーエン)に新たな覚書を提出した。そのコピーを入手して読み込むと、そこには2人がどれほど無節操に偽証を繰り返し、罪を犯してきたかが記されていた。

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もしかすると遠くない将来、トランプが“ブタ箱”に入ることがあるかもしれない。(敬称略)

映画『フロントランナー』

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昨日、ソニー・ピクチャーズの招きで新作映画『フロントランナー』の試写会に行ってきた。

アメリカではすでに公開されている作品で、大統領選のフロントランナーだった候補が出馬を辞退するまでの裏舞台を巧みに描いた実話である。その候補というのは1988年の大統領選に民主党から出馬していたゲイリー・ハートだ。

コロラド州選出の上院議員だったハートは当時、ホワイトハウスに最も近い位置にいた。だが、ドナ・ライスという女性との情事がメディアに暴かれ、ハートは浮気を認めざるを得なくなって選挙から撤退する。映画ではメディアとのやりとりが克明に再現されている。

これまでも女性問題を追及された大統領候補はいた。たとえば92年のビル・クリントンや2016年のドナルド・トランプがそうだ。だが2人とも辞退せずに当選を果たす。ハートとクリントン・トランプではいったい何が違ったのか。

特にトランプの女性問題への対応はハートとは真逆である。認めるどころか、これ以上ないほどの自信を表面的にまとって女性問題を否定し、無視しつづけた。まるで情事など無かったかのように振る舞ったのだ。ハートの失敗から学んだのかもしれない。メディアに弱みを見せてはいけないということを。

ハートは、大統領としては純粋すぎたのかもしれない。時に役者を演じられないとアメリカ大統領は務まらない。その点でトランプは一枚上手だったと言えるのかもしれない。

マケインとの思い出

ジョン・マケインが亡くなった。過去20年以上、私は何度となく彼の演説を聞き、2000年大統領選では短い時間だったが話をする機会があった。

老練でありながら、けっして尽きないような活力を携えていた。話をするときは澄んだ瞳をこちらにむけて、眼球をつかまれるかのような迫力があった。

1967年にベトナム戦争に従軍したとき、パイロットだったマケインは撃ち落されて大ケガを負う。両手を骨折し、ベトナム兵に助けられるが満足な治療をしてもらえず、右手は生涯肩の高さよりも上にあげることができなかった。

1982年に連邦下院議員になり、87年からは上院議員として30年以上も再選しつづけた。共和党の議員でありながら、重要な社会政策では民主党主導の法案に賛成票を投じる人だった。トランプがオバマケアを廃止する法案の採決時も、トランプに反旗を翻した。

2000年の大統領選ではブッシュに敗れたが、ブッシュの任期がおわる2008年にまた大統領選に出馬。

Sen. John McCain, the Republican candidate for president in 2008, greets supporters at a rally in Prescott, Arizona, on the day before the general election. MUST CREDIT: Washington Post photo by Melina Mara

共和党の正式候補になったが、今度はオバマに大差をつけられて負けた。

しかし撃ち落されても諦めず、なんども這い上がってくるエネルギーには感服させられた。そして稀に見るほどの野心家だった。自身が思ったことは世界中を敵にまわしても貫き通すほどの強い信念の持ち主だった。

どれほど大統領になりたかったことか。トランプではなくマケインになってほしかったくらいだ。(敬称略)

ロシア疑惑(11)ートランプ周辺の罪人たち

トランプの周囲にいる(いた)人間の罪が次々に暴かれている。

まず21日、2016年大統領選でトランプ選挙対策本部の本部長だったポール・マナフォートに有罪判決がだされた。昨年10月に起訴された時、マナフォートはウクライナ政府から違法な資金提供を受けていただけでなく、脱税なども含めて18もの罪状があった。

昨日、そのうちの8つで有罪になった。18の容疑すべてで有罪になると刑期は最長で305年とも言われていたが、半分ほどであっても死ぬまで出所できない可能性がある。

アメリカの司法の厳格さには頭がさがる。トランプが大統領として恩赦を与えることも考えられるが、裁判所が許すかどうかは微妙だ。

もう1人は今年5月までトランプの弁護士だったマイケル・コーエンである。実はコーエンが有罪になったことはマナフォートの収監よりも大きな意味合いがある。というのも、コーエンは10年間にわたってトランプ・オーガニゼーションの代理人をしており、トランプと影で違法行為をしてきた可能性があるからだ。

トランプと関係のあった2女性に口止め料を支払ったり、コーエン自身が法外な顧問料をトランプに請求し、受け取っていた。マナフォート同様、8つの罪で有罪になったが、法律を遵守すべき弁護士が罪をおかしたのである。

今後、トランプの頭痛のタネともいえるロシア疑惑で新たな事実が浮上してくることも考えられる。(敬称略)

 

cohen8.22.18

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