トランプ、国家安全保障会議(NSC)を縮小

トランプ大統領(以下トランプ)はいったい何を目指そうというのか。

米時間23日、トランプは外交と安全保障政策の中核といえる国家安全保障会議(NSC)を大幅に縮小すると発表した。NSCという部署はホワイトハウス内にあり、政権内でもイチニを争うほど重要な役割を担っているところで、現在は350人ほどのスタッフがいる。トランプはその人員を150人以下にしようというのだ。いったいどういう意図があるのか。

内部情報によると、米時間23日午後3時45分のスタッフ・ミーティングのあと、NSC職員に解雇通知が出されたという。今週末はメモリアルデーの連休のため、多くのスタッフが職場を離れており、その時に解雇通知を受け取ることになった。

世界情勢はいま、ロシア・ウクライナ戦争からイラン核協議、中国の動向など、米国の意思決定が今後の流れを左右する重要な局面にある。そうした時に、多くのNSC職員が解雇されたことで、今後の外国政策に不安が生じはじめた。さらに政権内にはいま、MAGA(米国第一主義)派と伝統的保守派の抗争が起きており、トランプ政権は一枚岩ではない。

複数の情報を整理すると、今回のリストラの裏にはマルコ・ルビオ国務長官の存在があったようだ。というのも、ルビオ氏は今後、国務省が米国の外交政策立案の中心にあるべきと考えていたからだ。近年、共和・民主両政権下では、外交分野でNSCの権限が肥大化してきており、国務省の機能低下が見られていた。

「国務省はもはやアメリカ外交の中心ではなく、NSCや他の政府機関に取って代わられていた。国務省は変わらなければならない」という指摘があるように、ルビオ氏は、国務省を再び米国の外交政策立案の中心に据えるため、国務省を再編成することを強く望んでいたという。今回その思いが実現したということだろう。それはまたトランプがルビオの指示に従ったということでもある。

トランプからのEメール

朝起きてEメールをチェックすると、トランプ大統領からのメールが入っていた。以前にも当ブログで記したように、私はトランプ政権の第一期目から同氏をフォローしており、先方から情報を送付してもらうためにメルアドを伝えてあるので、よくメールが届く。

今日のメールは:

Do you know what my favorite part of being your President is?(私が大統領になって一番好きなことは何だと思いますか)

It’s not signing Executive Orders – but I do LOVE that part of the job!(大統領令に署名することではないです。この仕事をすることが好きなのです)

The truth is, there’s absolutely NOTHING I love more than traveling across this incredible country, shaking hands with REAL American PATRIOTS like you. I really mean that!(実は、この素晴らしい国を旅して、皆さんのような本物の愛国者の方々と握手することが何よりも好きなのです。本当にそう思います!)

So, how would you like it if I made my next stop in your hometown?(次に私があなたの住む町に立ち寄るというのはいかかがでしょうか)

この文章の後に、「献金してください 。ご献金はトランプ全国委員会の利益になります 」という言葉が続いた。そして10ドルから1000ドルまでのボタンがあり、ネット上で献金ができるようになっている。

選挙中であれば、選挙資金を稼ぐためにどの候補もこうした献金の依頼をネット上で行うが、トランプ氏はすでに大統領である。ホワイトハウスで寝起きする立場にいながら、いまでもこうした献金を懇願してくるのだ。これが米政治の現実と言ってしまえばそれまでだが、偉そうなことを述べていても、「10ドルでいいですから献金してください」というのがトランプ氏の本音である。

トランプの寡頭政治は世界を混乱させる

ドナルド・トランプ氏(以下トランプ)が大統領に就任してからもうすぐ1カ月が経とうとしている。大統領として米国の頂点に君臨するのは2回目になるが、私は最初の政権の4年間から多くを学び、もう少し穏やかな行政をつかさどるようになるかと思っていたが、期待外れだった。

その言動はまるで「大統領という地位にいれば出来ないことはなにもない」とでも言わんばかりで、自分には全知全能の神がついていると錯覚しているようですらある。たとえば、1月20日の就任から2月12日までに計65本の大統領令に署名している。大統領令は議会の承認なしで決定できる大統領の特権で、過去40年ではもっとも多い。それは文字通り、「大統領の一存で動かせる力」と述べて差し支えないのだ。

モントリオール大学のロドリク・トレンブレー名誉教授はネット上で、「ドナルド・トランプは急進的な政権を築き、自分一人で世界中の知識を手中に収めているかのごとくで、大統領としては欠陥だらけである。ほとんど独裁的と言える大統領令が次から次へとだされたことは未だかつてなかったことで、米議会がこれまで決めてきた法律や、チェック・アンド・バランスの政治システムに違反するものだ」と厳しい言説を展開している。

2016年11月の大統領選で、トランプが大統領になることが決まった直後、3人の精神科の大学教授が連名で次のような言説を展開している。

「誇大性、衝動性、軽蔑や批判に対する過敏性、また空想と現実の区別がつかないといった精神的不安定さがみてとれる。大統領としての巨大な責任を担うことができるのか、その適性が疑問視される」

こうした精神科の専門家がトランプに警鐘を鳴らしているのである。最初の4年間はなんとかやり過ごすことができたが、今後の4年間は甚だ疑問である。

「アメリカ湾」は受け入れられるか?

Executive Residence - Wikipedia
photo courtesy of the White House

ここまで横暴な米大統領がいただろうか。大統領が行政権を握っていることは誰もが知る。ただ、それは常識範囲内のことであって、独断でメキシコ湾をアメリカ湾に改名するという大胆な行為はそう簡単に許されるものではない。

Gulf of America' arrives on Google Maps | CNN Business
Image from CNN

アメリカ湾への改名は昨年からトランプ氏が言い続けてきたことだが、 2月9日を「アメリカ湾の日」に制定すると布告。この日、トランプ氏は現場海域の上空を飛行し、「メキシコ湾として知られていた海域は消し去ることのできない米国の一部だ」と発言して ご満悦の表情をみせた。グーグルマップはすでにトランプ流にならってアメリカ湾に改名した。

メキシコ湾という名称(スペイン語:golfo de México)は1550年の世界地図に初めて登場している。17世紀と18世紀には「メキシコの入り江」という表現も使われているが、アメリカ湾という表記はもちろん使われたことがない。500年近くも使われてきた名称を一人の大統領によって簡単に変えられていいものだろうか。

ロイター通信が行った世論調査では回答者の70%が改名に「反対」。25%だけが「賛成」だった。

トランプ流の恫喝外交

トランプ政権が発足してからまだ2週間ほどしか経っていないが、すでにトランプ氏らしい横暴さが露見している。昨日、当ブログで記したように(トランプは貿易戦争に突入した?)、 トランプ氏はメキシコ、カナダ、中国の3カ国からの輸入品に高関税を発動する予定だったが、直前になってカナダとメキシコへの関税発動を1カ月間停止すると発表。中国への発動の有無は24時間以内に協議するとした。

トランプ氏が発動直前で「ドタキャン」したのは、「恫喝外交」が功を奏したからだと思っている。トランプ氏は当初からカナダとメキシコに25%という高関税を課せば相手側が折れてくると踏んでいたはずで、思惑通りの展開になったということである。このアプローチは英語で「ハードスタンス (強硬姿勢)」といわれるもので、強くプッシュすれば相手は折れてくることを見越した動きと捉えられる。

そもそもトランプ氏が高関税を課すことにしたのは、隣国から薬物のフェンタニルや不法移民の流入が止まらないからで、それは隣国に多大な責任があると考えていた。メキシコのシェインバウム大統領はトランプ氏との電話会談で、1万人の兵士をすぐに国境に派遣することを約束し、トランプ氏の要請に応えている。バイデン政権の時にそれをしなかったのは、バイデン氏を脅威と感じていなかったからと言わざるを得ない。

またカナダのトルドー首相もトランプ氏との電話会談で、13億カナダドルの国境警備計画を告げただけでなく、フェンタニル対策の責任者を任命することを約束している。結果的にトランプ氏の恫喝外交がいい結果を生んだわけで、トランプ流はこれからも多用されると思ったほうがいい。今週7日に行われる石破・トランプ会談で、いったい何がでてくるのだろうか。